「……裁騎 刑人です。よろしく」
教師内における黒板の前で、一人の少年が簡潔な自己紹介を終えた。
天恵学園、2−Aの教室。日の光が照らす中、朝のHR(ホームルーム)において、その日に転校して来た生徒の紹介がおこなわれた。余りにそっけない自己紹介に教室内が全て静まり返る…いや、彼自身の醸し出す雰囲気にだろう。
まだ幼さが残ったままの、母性本能を擽られるような顔立ち。整った体型。どちらかといえば、小さいといわざるといわなければならない身長。本当なら「キャァ、カワイイィ」などというクラスの女子達が騒ぎ立ててもおかしくない、それほどに「可愛い子」なのだが……その可愛い顔立ちは「常に睨んでいる」かのように歪んでおり、その瞳はまるで「怒り」を内包しているかのように鋭かった。
まるで「お前らと仲良くする気など無い」とでも言わんばかりの鋭い眼差しが、生徒全員を威嚇しているかのようでもあった。
自分の個性を潰すかのような表情に、生徒達はうろたえるばかりであった。
そんな最悪な第一印象など、気にすることもなく刑人は黒板台から降りる。横にいたもう一人の転校生の紹介のジャマにならないように、自ら身を引いたのだ。
「う……うん、ではもう一人紹介の転校生を紹介しよう。弓原さん」
そう担任が言葉を紡ぎだすと同時に、一人の女子生徒が緊張しながら入ってくる。その瞬間、「おぉぉっ」という男子生徒側からの歓喜の声が覆った。
その女子生徒は、「可愛い系」の美少女であった。ツインテールの髪型に、刑人と同じ整った体型。大きくもなければ小さくも無い胸。無理に明るく振舞う態度でもなく、しかし媚びたような態度でもない。
まるで誰からも好かれそうな雰囲気の子がやってきたのだ。刑人の暗い雰囲気を吹き飛ばしてくれるかのように。
そして緊張しているその女子生徒が、黒板台の前に立つ。
「彼女の名前は、弓原 記子(ゆみはら きこ)さん。親の都合で、学園の預かりになった生徒だ。こちらも皆、仲良くしてやってくれ」
「弓原 記子です……どうかよろしく。」
その声に、男子生徒の方から「おぉぉぉっ」と言う声が響く。女子生徒からもささやかな応援が聞こえてきた。
「ハイハイ、騒ぎはそれくらいにしろ。さてその二人の席なのだが……弓原さんはそこの席に。刑人君は……一之瀬、お前の隣でいいか? 」
「あ、はい。いいですよ」
担任に促されるかのように、二人の転校生徒は席へと向かい、その椅子に座る。
「……ア、あの…」
その席についたと事で刑人は、声をかけてきたポニーテールの少女をさらに鋭い目で睨みつける。
「……なんだ? 」
「あ……刑人君、だったね。私、一之瀬恵理子。これからよろしくね」
横に座った刑人に対し、自らそう名乗ったポニーテールの美少女はぎこちない笑顔を向けた。
しかし刑人はそんな恵理子の態度など全く気にすることもなく、席に着き自分の身の回りを整え始める。
本来なら失礼極まるその態度を、他の生徒はおろか、担任でさえもそれを咎める者はいなかった。それほどに彼自身が醸し出す雰囲気は異様だったのである。
それでも恵理子は何とかして彼と話をしようとしてするが、それを止めるかのように呼び鈴が鳴る。
「さて、では今日の授業を始めるぞ。皆準備して」
その担任の言葉に、恵理子はしぶしぶ引き下がらざるを得なかった。
「……もう少し自分を抑えないとな」
皆が授業を始める中、そんな刑人の呟きなど聞くものは一人としていなかった。
――――――――――――――――――――
「え、そうなんですか。」
「うん、それでね。ここの売店なんかがとっても―」
HRの後に行われた授業の終了後、記子は恵理子の熱い「歓迎」を受けていた。
恵理子は、元々誰からも好かれる女性であり、ここの風紀委員も兼ねる「正義の味方」であった。彼女は前からも、こうやって転校生に学園内を案内したりし等の世話を妬いていたらしい。
記子もまた、明るく接してきる彼女に心を向け始めていた。
「じゃ、これから行ってみようよ。ついでに学校内を案内してあげる」
「う、うん」
恵理子の勢いに呑まれたたまま、記子が一緒に動こうとした時。
『バシッ』
誰かの手が掴むような感じがした。それに対し記子がそちら側のほうを振り向く。
そこには、手を掴んだ刑人がいた。先程と変わらぬ鋭い目付きで。
「悪いが、少し用事がある。付いてきて欲しい」
そういうと刑人は、彼女の返事を待たずに手を引っ張りながら、門へと向かう。
「きゃ、ちょっちょっと…わぁぁぁっ!」
「ア、待ちなさい。一体何―」
恵理子の抑止など意に介さず、記子の悲鳴を背景に颯爽と教室の外へと出た。
「すまなかったな……」
どれくらい歩いたのだろう。図書室の札が立っていた場所あたりで、刑人は記子の手を離した。
「もう、一体何なのよ!せっかく一之瀬さんが案内してくれるって言ったのに!」
女性同士の会話を強引にジャマされて、記子はご立腹だった。
「こんなところまで振り回して、一体貴方―」
「あの女には気をつけたほうがいい、そう言うために連れてきた。」
一気に捲くし立てようとした彼女を、刑人はその一言で制した。
「…………? 貴方何をいって……えっ? 」
何の事かと聞こうとして、彼女は言葉を止めた。刑人の鋭い目、全てを威嚇するような眼差しの中に「悲しみ」を見つけてしまったのだ。
その悲哀と威嚇に言葉が紡げなかったのだ。
「…あの女達は人の意を解さず、全てを踏み躙る。気を付けるんだな……人生を踏み躙られたくなかったら」
そう警告を言い放って、刑人は走ってきた方向とは別の道へと歩いていった。
「あぁっ、ここにいた! ハァ、ハァ、大丈夫だった……ッ!?」
記子の後ろから、必死に走ってきたかのように恵理子が声をかけてきた。本当に彼女の身を案じて、あれから必死に追ってきたらしい。
しかし彼女の心配などどこ拭く風の如く、記子は刑人が去っていった方向をぼぉっと見つめていた。
(…あの目……………まるで全てに怒るような……でもそれだけじゃない…………何………?
ほんの数秒顔を向き合わせた……ただそれだけなのに、言葉には言い表せないような何か。
それをを垣間見た顔で、記子は刑人の去った方向を見つめていた――
――――――――――――――――――――
その夜、刑人は「ワースエクリプス」に変化して学園内を動き回っていた。まるで何かを探しているかのように、一つ一つ部屋に侵入し周りを見渡しては、再び闇の中に消え、他の部屋へと移ってゆく。そして何かを見つけては、自らの手で闇を生み出しその部分に当てる。
その行為に、部屋の中にいる人間は全く気付かない。誰もいない教室を巡回している警備員はもちろん、寮で寝ている者や、「行為に走っている」恋人達さえも。
彼自身に纏われている夜の闇と同じ「影」は、例え大暴れしたとしても彼の仕業とは思われない程の隠蔽能力が備わっていた。
それほどの隠密力を持って、彼は必死になって何かを求めるようだった。
「ふぅ…これで三つ目か。『物証』を探す事が、これほど手間で難しいとは…」
一旦学園の屋上に出で、「影」を解いたワースはささやかな風に当たりながらそう呟いた。
(昨日で探したのが全部か? いや、それ無いだろう。あの「無価値」がどれほどの知恵があったにせよ、何らかの形で「行為」証拠の跡が残ってしまっているはずだ)
彼は証拠を探していた。一人の少女を「破滅」に追いやった者達の悪行の証拠を。
己が欲望を満たしながら、今もその少女の「尊厳」を踏み躙ってなお「幸せ」に浸り続けている者達の愚行の証を。
それを先日…学園に到着した時からずっと探していたのである。朝日が出るその時まで。おかげで授業中に寝る程までの寝不足に陥る羽目になってしまったが。
そして本日は、注目していた場所以外の所にも捜索の手を伸ばしていたのである。因みに先日探して得た「証拠」は、「状況証拠」としては十分なのだが「物的証拠」とするには力不足なのが殆どの代物だったのである。
そして今日、その三つ目の「物証」が見つかったところなのである。
(探し方が悪いのだろうか……何にせよ、このままではあの糞蛆どもを「断罪」するのは夢だな。もっと焦点を当てるなり、もう一度探すなりして、くまなく探さなくては……
おっとそうだ。今からでも結界の方も作成を開始しないと……すぐに行動に起こせるようにしないと、色々と面倒だからな)
そんなふうに様々な思考をよぎらせた後、明かりが照らす月を見上げ、たった一言を独白のように呟く。その瞳も、表情も、恵理子達に見せた鋭いものとは違う、悲哀に満ち溢れたものだった……
「悠美……あんたはこのこと、どう思うんだろうな……?」
――――――――――――――――――――
「……生徒会選抜総会?」
刑人は2−Aの生徒達が話していた「イベント」の話題に、混ざる形で耳を傾けていた。
刑人たちが転校してから二日目、学園内では来るべきイベントに皆が沸きあがっていた。刑人の雰囲気等はおろか、本来なら未だ話題になっている転校生のことなどあっさりかき消すかのように。
いや、刑人の雰囲気の方も「落ち着いてきて」はいた。転校初日に見せた、刺すような鋭い視線も歪んだ表情も、他人と話せない程に酷いものではなくなっていた。
だからこそ、こうやって男女混ざった会話に何の問題もないかのように混ざっているのだが。
流石の刑人も、今のままでは色々と不都合というのを肌で感じてきたのだろうか。
「うん、そこで次の生徒会長を決めるわけ。全校生徒全員参加の大イベントなんだよ」
話題の中心にいた、一人の女子生徒が語る。
「そこで最も投票数の多かった人が次期生徒会長になるんだけど、その前に会長候補当人とそれに関する人たちの推薦討論。そしてもしその人に対する反対論があるのなら、そこでその持論を述べたりするんだけど……その討論がもの凄く熱いのよ。その為に一日が潰れるくらいにね。もう完全に、この学園における名物の一つよね」
そういい終えた女子生徒が、別の方で友達と話していた恵理子の方に目をやる。
「そしてね、今回の会長候補の最有力候補に、何と! われらが正義の味方、一之瀬恵理子が挙がっているというわけ!」
自慢するかのように、その女子生徒は楽しそうに語った。
何でも恵理子は学園内でも有名らしく、他の場所からも彼女が生徒会長に相応しいという声も上がっている。確かに他にも数人、学園で有名な人間が生徒会長に立候補していたり推薦されていたりするのだが、彼女と比べるとやはり見劣りしてしまう。もはや「今回の総会では、一之瀬恵理子の当選か否か」のみばかり話題に上がっているくらいである。
もし反対派が明確な反対理由があれば彼女であっても当選できないのがこの学園での決まりなのだが、彼女ほどの人柄ならそういった問題もないのが一般の意見だ。
ただこれに関し、恵理子は皆から押された形での推薦なのであり、自身の意思としては弱い方だが……この現状なら、黙っていても彼女の当選は確実なのが、学園内における一般の見方だ。
「ふぅん…だからこれほどに騒がしいわけか」
「そう、もう数日後が楽しみで仕方ないのよ〜」
話に夢中になる女子生徒の勢いに、流石の刑人にもこの熱気には引かざるを得なかった。それほどにお祭り騒ぎが楽しいのだろう。
――自分達の身の保身しか考えないのが、お前達の本質のくせに。
「あの『一之瀬さん』がねぇ………参考になったよ」
含みを持った声で、刑人が呟く。そして彼はその場を離れた。途中で恵理子の横を通り過ぎていたが、別段に挨拶するわけでもなく、そのまま教室へと出た。
(おい、聞いたかよ。C組のT男がK子と仲直りしたらしいぜ)
(マジ!? だってあの二人、いっつも何かにつけて喧嘩する事で有名だったじゃないか)
(それがよ、『今までムカついてたのが馬鹿らしくなった』んだとよ)
(そういえばここ数日……苛ついているとか、怒ってるとか、そんなことで有名だった連中がすっかり鳴りを潜めてるわね)
(あの学園に潜んでた連中もすっかり鳴りを潜めてるしな)
(……アンタ知らないの? その不良達、また締められたって噂よ。ほら、なんか昨日転校して来たっていう……)
(まずいな……ここももうこの影響下に入っているっているのか)
刑人は、自分の能力が学園に影響してきていることに少々焦りを感じていた。
いつもそうだ。自分の周りの人間の「怒り」を、自分が無意識に吸収してしまう。今までは同じ場所に何時までもいるわけではなかったので、別にそれが問題に発展するわけではなかったが、今回はそうもいかなかった。目的を達成するためには、自分の力が悪影響を及ぼすようなことになってはいけないのだ。
しかしこればかりは自分ではどうにもならない。どうやら思っていたよりも早く動かなければならないようだ。
もっとも不良どもを締めたのは、単に物証を探そうとして行こうとした場所に、つまらない理由をつけて邪魔しようとしてきたからだが。
「だが、この件は使えるかもしれないな………………」
恵理子を中心とした全校生徒を集めての総会。反抗の機会。
自分にとって、目的を達するのに絶好の場所。
「…………決まりかな」
そう呟く刑人の口は、何かを見つけたような力強い意思が込もった含みが止まらなかった。
――――――――――――――――――――
「ッチ、どうしてこんなものばかりしか集らないんだ…ッ!」
その日の夜早く、再び刑人はワースに変身して学園内に忍び込み、『物証』を探すことに悪戦苦闘していた。
今日は昨日探していない場所を探すことから初め、昨日と同じところでも見落としていないかを確認しながらの捜索である。しかし残念なことに、昨日と比べても「証拠」の集まりがさら悪い。物証は皆無、状況証拠の証明物ですら、先日よりも明らかに少なかったのだ。
ここに来て、彼の捜索は早くも暗礁に乗り上げてしまっていたのである。
「今日中にも、『結界』を張り始めなければならないというのに……こんな調子では……」
今日はただ単にのんびりと物証探ししているだけにはいかない。
今のここにいる人間達は、一種の『記憶喪失』なのである。ある人物の手によって、忌まわしい記憶を封印されているのだ。それを元に戻すのは、自分の目的の達成の第一段階なのである。
無論その図式、その結界の作成方法はすでに編み出している。だが学校を中心としてその結界を張るのには、今からでも数時間は掛かる。まだもう少し余裕があるにしても、そろそろ他の手を打ち始めないと間に合わなくなるのだ。
それは今日女子生徒から聞いた総会のことだ。それは憎むべき者達を『断罪』する絶好の機会なのである。
しかしその発生日が問題でなのである。
数日後。自分が予定して告発しようとしていた時よりも早い。そこを狙うのは、時期早焦といってもいいくらいの早さである。
別にここに来るまでに考えたペースで行くのであれば、それを気にする必要は無いのだ。しかし、ここを逃してしまってはならない。
最大の機会であるそれを逃がすことは、最後の機会を逃してしまうのと同じことなる。ここで恵理子が生徒会長になった後に、自分の語る「告発」を唱えても「後の祭り」なのである。
恵理子が一生徒のうちに、その身の安全が確保されるまでに何としても「訴え」なければならない。だからこそ、予定を押してでも「総会」の前に打てる手を全て準備しなければならないのである。
(これだけの力があるのに、一体何に役に立っているというのか!)
己が無力さに身を振るわせるワース。
(いや! ここで俺が諦めたらそれで終りだ。俺も、あの子の明日も……あんな糞蛆共に潰されたままで終わらせてはいけない!)
彼は自らを奮い立たせるように頭を振り、歯を食いしばりながら動き始める。
時間が無い。自分が残されたものよりもさらに。だからこそ―
「っっ!?」
途端に身震いした。自分が立ち止まったその場所。その先に足をこに踏み込んだ瞬間、身体に何かのしかかるかのような重み。まるで闇が自分を覆うかのような感覚。
間違いなかった。この感覚はここに来るまでに何度も体験してきた。
そう。すなわち影魔(エクリプス)達の張る結界。
基本的に影魔という連中は、その性質ゆえに陰湿で自ら動かず、結界を張って獲物を陵辱する。それは普通の人間には全く見えず、分かることも無い。それを張った主のみが、獲物を感じることも無く誘い込むのである。
だが、問題はそれがここにあることではない。
(何故これだけ近くにあったのに気付かなかったんだ!? そこまで呆けていたとでもいたのか!?)
ワースは驚愕した。結界を張らなくても、影魔が存在するだけでワースにはその居場所を感知できる。それがかなり遠くの場所であったとしても。それなのにこんなに近く、しかも結界にすらも気付かなかったなどと……「物証」探しに没頭していたとしても、明らかに不注意だ。
それとも自分でもわからないほどに反応の小さい奴だったのか?
いや、今はそんなことを考えている余裕は無い。
影魔など存在してはならない存在。その存在を見つけ次第、すぐさま「除去」しなければならない屑共。
ある一人の、たった一人の「子」を除いて……
(こんなところで邪魔をされるのもな……………………行くか)
考えを決めると、ワースはその結界の中心を目指し、俊敏に動き始めた。
2−A。
そこは自分達の通う教室。ここから先が、感じる闇が最も強いと思える部分だ。
間違いない。ここがこの闇の結界の中心。
「……ここか?」
ワースはその教室の扉に手をかけようとしていた…
――――――――――――――――――――
話は数十分前に遡る―
「あー、やっぱりここにあったんだ。もぅ、私ったら何やってるんだろう…」
月夜の明かりが指し始める教室の中。
そこで弓原記子は、自分の机から筆箱を見つけたことに、呆れながらもホッとしている所だった。
転校してから二日目。
記子は既に数人の友達を作っており、その友達とのおしゃべりする事が楽しくてしょうがなかった。特に一之瀬恵理子という女子生徒が積極的に話をしてくれるので、転校する事の不安はあっという間に吹き飛んだ。そのせいなのか、初日の時からから夕方までずっと皆と話会をしてしまうのである。
その次の日である今日も、皆と話す事が楽しかった。だからだろうか。忘れ物をしたことに、部屋に帰って宿題をしようとするまで気付かなかった。
そんなわけで、こんな夜の学校に忍びこむように取りに来たというわけである。
筆箱を自分の机に見つけたときには、既に日は落ち、夜の闇が覆いはじめていた。誰もいない、月夜の照らす教室は、なにかしらの神秘的なものを醸し出しているものの、さすがに怖さを隠し切れない。
「早く帰ろう…」
やっぱりこんなところに一人というのは怖い…何とか筆箱を手にとった記子はその場を離れようと―
シュル…
「…え?」
何か音がした気がする。記子は振り返る。
…何もいない。辺りを見回していたが、やはり何もいない。気のせいか、そう思う記子は何とか玄関の方を向き直り―
シュル…シュルシュルッ、シュルシュルシュル……
聞き間違いなんかじゃない。やっぱり何かがいる。この辺りで何かが蠢く音。
何処かに人がいるのだろうか。でも、人が動いているにしては余りに異様な音。
一気に不安と恐怖が心の中で膨れ上がる。ここから早く出なければ。
心が発する警告に従い、記子は覚悟を決めて一気に教室の扉へ走ろうと。―――――足が動かない。いくら足を動かそうとしても、心が命じても、動くべき機関が一向に動いてくれない。
何かに掴まれている……何度か足を動かそうとして失敗した後、ようやく記子は足の方で、何かが引っかかっている事に気付いた。
一体何なのか。記子は足の方に、恐る恐る顔を向ける。
――振り向くな、それを見てはいけない。もし見てしまったら、もう戻れない――
心の何処かで、そんな警告が聞こえてくる。一瞬顔の動きが止まる。でもこのままでは動けない。何より、見えなければ、引っかかったのが何なのかわからない。
今も心でなる警鐘を必死に抑え、記子は再びその方に顔を向ける。
彼女が見た足の付け根…そこには、何か太い某のようなものが巻きついている。月夜の光に照らされているそれをよく見ると…それは植物の茎、だった―
「っっ!?」
思わず記子は、身体を後ろに飛びのかせる。
(何、何なのっ!? 何で茎が私の足なんかにっ!? うぅん。それよりこれって一体何なのッ!?)
そもそもこんなものが、自分の気付かぬうちに足に巻きついていること自体が異常である。何が起こったのかわからずパニックになっていると、またその場から何か音が聞こえた。
「フフ……これはまた随分と可愛い子じゃない。つまんないと思ってた下見だけど、以外にいいこともあるものねぇ…」
それは声だった。まるで植物の先から聞こえてくるような声。
「…っ?」
その声に、記子は今置かれた状況を忘れ、思わず顔を上げる。そのまま、茎が伸びた先の方向に顔を向けた。
…いつの間にいたのだろうか。教室のロッカーの辺り…そこに、人がいた。
いや、人というべきなのだろうか? 否、「人の形」といった方が正しかった。
「人の形」をしたそれの身体は、今自分に絡み付いている植物の茎、それをさらに太くした茎で構成されていた。
そう…まさに「植物の茎人間」、それはそう呼ぶに相応しいものだったのである。
「っっきゃあああああああっっ!」
その姿を確認した記子は、思わず悲鳴を上げる。
異常だった。いつの間に、何故このような者がいたことも。何で自分を捕らえていることも。
そして、その答を考えるよりも早く、身体の方が扉の方を向き、その場から逃げようとした。しかし勢いをつけたにも関わらす、拘束された足はピクリとも動く事はなかった。逆にその勢いによって、自らの身体が地面に叩きつけられる。
「きゃっ! くぅぅぅぅっっ…!」
前身を強打し、思わず苦痛にのたうちまわる記子。しかしそんな彼女の状況など解することなく、その「茎」の形をした化け物はゆっくりと近づいてきた。
「ッ! いやっっ誰か助けてぇぇぇぇッ! 誰かぁぁぁっっ!」
異形の者に追われることの恐怖に、流石の記子も悲鳴をあげた。こんな状況では、もう警備員に見つかるも何も無い。だがそんな叫びをあざ笑うかのように、「茎」の頭の部分にある、青色をした口が笑みに歪む。
「無駄よ。もうこの教室内は私の結界で多い尽くしてあるの。もう誰が通ったって、ここの事には気付かないわよ」
(…け、結界って…何を言っているのこの人!?)
「茎」の話した内容がわからず、さらに頭が混乱する記子。それと同時に、今の自分に逃げ場が無いことを悟り、恐怖と絶望が心を覆ってゆく。
必死になって地面を這い蹲るようにして逃げようとする記子の身体を、「茎」の手が抑える。それと同時に、記子の視界かはわからないところから現れた二本の茎が、記子の両手を捉えた。
「いや、やめてぇぇぇぇぇっ!」
これから何をされるのかもわからず、目の前の異形が迫る恐怖に記子は懇願の声を上げる。
「フフ…いい声ね」
ついに記子の身体を捕らえた「茎」の手が、彼女を仰向けの体制にする。そのまま制服の胸元辺りを摩り始めた。
「あっいやぁ、そんなところ、触らないでぇぇぇっ!」
ツインテールの髪を震わせ、そして身体をねじりながら、必死に「茎」の手から逃れよとする記子。だが両手と片足を拘束され満足に逃げ回ることも出来ない。
今の記子は、蜘蛛に囚われた蝶も同然だった。
何の抵抗も出来ないままに胸元辺りを優しく摩られ、乳房の辺りをねちっこく責め立てられる。
「やぁぁぁぁ…もう、触らないでよぅ…」
いくら身体の抵抗をしても無駄だと絶望し始めたのか、次第に記子の叫びも弱まってゆく。それに反し、整ったその顔が紅潮してゆき、その目には涙が溜まってゆく。しかしそれ以上の反応、「茎」が想像していた反応が返ってこないことに、「茎」の顔が疑問の表情に変化する。
「うぅん…今一反応悪いけど………貴女もしかして、こんなことをされたことってまだ無いの?」
「え…………………………………そ、そんなっ事、聞かないでっ!」
何を聞かれたのか判らず呆けてしまったが、その意味を悟って、さらに顔が紅潮する記子。
記子は処女であった。確かにその可愛らしい顔立ちに、明るい性格をしていたので男女に関係無く人気はあった。しかし恋愛のことに関しては、今一つピンと来ない性質であった。異性に興味はあったが、恋心を抱ける相手に巡り合わなかったために、今までに特定の男とちゃんと付き合った事が無かったのである。
「フフ…そう。昨今は貴女くらいの年頃の殆どはもう処女じゃないのよね…嬉しいわ、最高の獲物よね!」
そう言い放つ「茎」の表情が喜びに変化すると、そのまま記子の唇に己が唇を重ね合わせてきた。
「んっ! うぅ、んうぅぅぅぅぅっっ!」
誰ともわからぬ相手からの接吻、その行為に記子の心が絶望と嫌悪感に支配される。まだ本当のキスをしたことがない記子にとって、ファーストキスをこんな化け物に奪われたことはショックだった。しかもただ唇を重ねるだけでなく、何かを流し込まれているような感覚も感じられる。
(いや! 何? 何かを飲み込まされている…いやぁっ!)
「んうぅぅ…んぐ、んぐっっんぅぅぅ、っぐぅぅぅっぐ、んぐっ…………………がはっっげほっげほ、げほ…」
口の中に何かを入れられているだけではない。間違いなく何かを呑まされている感覚。「茎」の青い唇がようやく離れた時には、喉まで塞がれたような感覚から抜け出た感覚がして、思わず咽てしまった。
「げほっげっほ…なっ何を、飲ませた…の?」
「単なる媚薬。私の中で流れる液って、なんか相手の性を刺激する成分が混ざっているらしいのよ」
必死の問いをあっさりと返す《茎》の言葉が一瞬わからず、混乱してしまう記子。しかしその言葉の意味を、拘束されている身体が答えてくれた。
「う・・・うぁぁぁぁっ! あぁああああっ!」
熱い。身体が熱い。
まるで内側から火照り始めたような感覚。その感覚が次第に大きくなっていき、身体の中で渦巻き始める。
「あぁ、熱い! 熱いぃぃぃッ! なんなのこれぇぇぇッ!」
まだ「女」を知らない記子にとって、それは未知の感覚であった。身体中が火照り始め、お腹の下辺りから何かが内側から疼き始める。手足を拘束され、どうすればいいのかもわからない記子は、芋虫の様に必死になって身体をくねらせ暴れまわる。
「フフ…どう? 女が持つ『疼き』は。何がなんだかわからないでしょう? でもね…これはまだ序の口なのよね」
そういう「茎」の右手が、身体をなぞる様な手つきでゆっくりとお腹を、そしてスカートに手を伸ばす。
「な…いや! やめ、やめて…っ!」
最も恥ずかしい部分に手をまわされそうなことに、必死に抵抗しようとする記子。しかし「茎」の力は強く、押そうが引こうがびくともしない。少女の抵抗も空しく、スカートの先端に「茎」の手が掛かった。そのまま捲し上げられてしまう。
そこから現れたのは、真っ白な下着。飾りも無い、一般的な下着である。
「あらあら、最近の子にしては芸の無いパンツね。でも、この方が似合っているといえば似合っているわね」
(やあぁぁぁぁ……っっ!)
「茎」の辱めの言葉に、記子は頬をさらに紅潮させる。
「でも、こんなに湿ってちゃもう役に立たないわね。それじゃ、脱いじゃいましょうか」
「…え?」
言っている意味がわからず、仰向けになっている顔を上げる記子。思わず、さっきまでスカートで隠れていた自分の下着の方に目をやる。映るのは、今自分が穿いている白いショーツ…その先端部分が何かによって濡れているところだった。
(な…何? あれって…私…お漏らし…した…の?)
まだ本格的な『性』というのものを知らず、様々な感情でいっぱいになっている記子にとって、それが自分の中で流れた愛汁であることを知る由も無い。自分の中に起こっている異変に、恐怖への抵抗も忘れて呆然としているなか、「茎」の手らしき部分が濡れたショーツを掴んだ。
ビリィッ!
掴んだ「茎」の手が一気に引っ張られ、ショーツがいとも簡単に破り取られる。最後の砦さえも破り捨てられ、呆気ないほど簡単に秘密の部分が曝け出された。
流石にまだ何者にも侵食を許していない、淡いピンク色で構成された陰唇。人並みほどには濃いが、整えられた陰毛。幼さからは脱却した、しかし大人というには程遠いその部分からは、すでに蜜を溢れ出し始めていた。
「きゃぁああああッ! いやぁぁああああっっ!」
恥ずかしい部分を曝け出され、恥ずかしさと、これから何をされるかわからないことで悲鳴をあげる。
その時の彼女の心境は、今自分の見られている部分を何としても隠したいということだけであった。太股に伝達し、必死になって恥ずかしい部分を閉じようとする。しかしどんなに足掻いても拘束された手足は一向に動かず、結果的に「茎」の嗜虐心を煽るだけであった。
「いいわよ、その反応…もっともっと鳴き叫びなさい。その叫びもいつまでもつかわからなくなるんだから」
口元の笑みを絶やさない「茎」はそのまま彼女の腰を抱える。そして「んぅんっ」と一つ念をこめる様な動作を始めた。すると「茎」の股間の辺り、そこから何かが形成されて行く。
「あぁ…ぁぁ…ぁああ…ッッ!」
記子は驚愕の色を隠せなかった。
「茎」が唸り終えた後に形成されたもの、それは一本の太い棒のようなもの――それは男根を形どった、無数の小さな茎の塊だった。
「今からこれで貴女を犯してあげるわ。…フフ、処女なんてずいぶん久しぶりだからね。一度やってみたいことがあったのよ」
「え…何を…やるん、ですか…?」
現れたものに本能的な恐怖を感じ始めながらも、記子は「茎」の言っていることが判らず怯える。
しかしそれも、「茎」の棒が自分の股間に宛がわれた時には悟り、一気に身体が凍りつく。
「っ! や、やめて! そ、そんなもの入らない! やめてぇぇぇっっ!」
「嫌よ。私ね、処女を一度『濡らさず、直に』抱いてみたいと思っていたのよ。どんなにきつい感じがするのか、一度味わってみたくてね。だ・か・ら、運が悪かったと思って諦めなさい」
V字に開脚し、暴れる記子の腰を抑えたまま、「茎」は彼女の陰唇にそのまま亀頭を象った先端を押し当てる。そして、そのまま強引に彼女の膣への侵入を開始した。
ビリッ
「あがっ!?」
自分の中で何かが破けた。それが処女膜だということを悟る間もなく―
ミチミチミチミチミチッ!
「がっっああああああああっっ!!」
「茎」の生み出した陰根が、穢れを知らなかった膣を侵食し始める。
そこから来る痛みは、記子が今まで経験したその痛みの比でもなかった。まるで股間から身体を裂けさせるような感覚。そのまま一気に身体そのものを二つに裂かれそうな痛みに、記子は目の前が真っ白になり、悲鳴をあげることしか出来ない。
しかし…
「くぅ、流石にキツイわね……流石に処女といったところかしら。 でも!」
「茎」の男根が、更なる侵食を始めた。
「っああああああああああああああああっっ!!――――――」
その痛みとショックで、記子は意識が遠ざかる。やがては気絶してしまった。しかしそんなことを気にずる事も無く、「茎」の男根はついに子宮まで到達した。
「――――――――――――っっあがぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
子宮を亀頭に貫かれた時、更なる痛みが記子を襲う。その余りに激しい痛みが、気をやっていた記子の意識を再び現実に戻してしまった。
「あぁぁぁぁ…なんてキツイのかしら…流石に愛撫もなしでやるのはちょっと無理があったかしら?」
その「茎」の問いにもう答える気力も無い。記子の心はもう苦痛と絶望しか残っていなかった。痛くて、苦しくて、悔しくて、悲しくて…いっそ死んでしまったほうがどんなに楽か。涙が流れるその目には、もう虚ろなものしか写し出していない。
しかしそんなことなど意に介さず、「茎」は言葉を続けた。
「そう、もう答える意識も残ってないか。じゃ、遠慮なくいかせてもらうわ!」
そう答えると同時に、記子を貫いている「茎」の男根が前後に動き始めた。
「いぎっ! がぁぁっ! あはっっ! あがぁあぁぁっ!」
苦痛で悲鳴をあげることしか出来ない記子。その苦痛から逃れるように顔を振り、その反動によって、ツインテールの髪が何度も地面を打ち付ける。
そして貫かれている秘部からは、愛液よりも血の量のほうが多いかと思える位に流血していた。陰唇の上下は破かれたようになり、どんなに愛汁を流しても何の緩和にもなりはしない。ただ痛みと苦しみが、今の彼女を支配していた。
「くぅ…あぁ…ア、貴女のここ、すっごい締め付けよ…私のあそこにまで…刺激…あぁあんっ!」
対照的に、「茎」は記子の膣の凄まじい締め付けにより、異常なまでの快感を満喫していた。
それは「茎」の男根の下方部分、女性の秘部がある辺りから、大量の液体を流していたことからも明らかである。
実際、摩擦している小茎の一本一本が「茎」の神経に直結しているのだ。
今の「茎」に掛かる快感は、記子の感じている苦痛と同じくらいに大きいものだった。
ぱんっ!………ぱんっ!…………ぱんっ!
教室内に、肉と茎がぶつかり合う音が響き渡る。ゆっくりなテンポではあるが、淫らな快音が二人の耳に響き渡る。
そんな中で、記子は苦痛の中に、痛みとはまた違うものを感じ始めていた。
ただ痛いだけのはずなのに…まるでその痛みが変化してゆくような感覚。
最初はほんの僅かだったその感覚も、少しずつではあるが大きくなってゆく、痺れにも似たその感覚。
「はぁぁぁっ! はぁぁぁっ! あはっっくぁぁっっ!」
息を整えながら、記子はその感覚に必死に逃げようと、抵抗するのをやめただなすがままに流される。それに伴い、狭かった膣も次第に緩やかになり、陰茎の貫くペースが速くなってくる。
ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ!
「あぁはっっ! だ、駄目! こんなにすごく締め付けられるなんて…よそう、がっっあくぅぅぅぅっ!」
獲物を貫いている「茎」の言葉がだんだんと淫猥な方へ荒れてくる。それに合わせ、茎で構成されている身体も次第に震え始める。
そして…記子が自分でもわからない、身体の内側から来る謎の感覚を本格的に感じ始めた頃…
その膣を摩擦していた陰根もどき、その無数の小茎達が不気味な振動を始めた。
「っっ!? あぁぁぁぁっ!!」
意識を閉ざしていた筈の記子は、その振動におぞましさと共に意識を覚醒させてしまう。
「はぁぁぁっ! だ、駄目よ! わ、私、もうっっイクわっ! だから、貴女の中も、全てっ満たし、くぁあああぁぁっ!」
その言葉と共に、記子の脳裏はふと、保健体育で行った性に関する知識が脳裏をよぎった。
『男性の持つ男根が限界にまで刺激され、そこから出される液体―精液が、女性の膣の中に入ることで卵子と交わり、受精され―』
「っっいやぁぁぁっっ! 赤ちゃん出来ちゃうぅぅぅっ! 外に、外に出してぇぇぇっ!!」
「あらぁぁっ、大丈夫よぉぉぉっ! 今から、出すのは、私の愛液、なんだからぁあああああああっっ!」
今までの中で最大の悲鳴をあげながら懇願する記子の言葉をあっさり撥ね退け、「茎」は嬌声を上げながら、陰根の亀頭を子宮に思いっきり叩きつける。
ビュルッッ! ドビュルッッ! ドビュルルルッッ!
子宮内に、茎根の中でつまっていた汚辱が一斉に解き放たれた。あっという間に記子のお腹は汚辱によって満たされる。そして入りきらない分が無理やりに、陰唇からあふれ出す。
「っああああああああああああああああっっ!!――――――」
「っあああああっっ! イク、イクイク、イクっっイックゥゥゥゥっっ!!――――――」
片方は、お腹すらも破裂させたれそうな程の液体を流されて悶絶しながら。片方は余りもの快感にはじけながら。
二人の悲鳴が、夜の教室を染め上げていった――
ぬぽっ……………ゴポッ、ゴポッ、ゴポッ…
激しい陵辱が終わり…陰根まがいの小茎たちをゆっくりと引き抜かれる。そこから子宮にまで満たされた愛液が自ら意思を持つかのように抜け出てきた。
「あぁ…ぁぁか…ぁかぁああぁぁぁぁぁぁ…ッッ!」
それほどに短くない、しかし記子にとっては余りにも長すぎた苦痛と絶望の時間が終わった。
しかし、全ての苦痛から解き放たれたながらも、記子の心はショックで放心状態になっていた。
何故こんなことになってしまったのか、それを考える気力さえも無い…ただ、今はこの悪夢から早く開放されたいということだけであった。
しかし、その望みも「茎」の呟きによって無残に打ち砕かれた。
「ハァ………ハァ……ハァ…………………あらあら、つい調子に乗っちゃったわね。久しぶりの処女だったのに、ちょっと勿体無かったかな? まァいいわ。人間の修復なんて、あの二人に任せりゃ簡単だし」
そう呟く「茎」は、仰向けに倒れたままの哀れな獲物に対して非情な宣告を放つ。
「フフ…さっきは御免なさいね。貴女、最高の締め付けだったから…でもね…『女』のもつ快感なんて、こんな生ぬるいものじゃないわ。だから、これからが本番。痛みしか感じなかったさっきと違って、ずっと気持ち今までいられるわよぉ」
そういう「茎」の手が、獲物の紅潮した肌を優しくさする。
(! わ、私……また、酷い事っされるの…!?)
自分の心が、再び恐怖と絶望で塗り固められてゆくのが判った。
この化け物は、先程自分に与えた屈辱と苦痛をまだ与え足りないというのだ。今度は気持ちよくするなどといっているが本当かどうか信じられないし、仮にそうだとしてもそんなものなど受けたくもない。
もう嫌だった。こんな悪夢が続くことが。何でもいいから、早く終わって欲しかった。
(もう、いや…誰か…………誰か…ここから…助けて………………………誰か………………彼か…………)
誰にも届かない…しかしそれでも必死の叫びを、呪詛のように叫ぶ記子。だが今の救いの手などあるはずも無かった。
そうして再び自分を壊そうとする異形の魔の手が忍び寄る――
ガラッ―
不意に教室の後ろ側の扉が、開く音が響いた。
――――――――――――――――――――
(これは……)
意を決して教室に入ったワースは、その片隅における二体の人影を確認した。そして月夜の明かりを元手に、その正体を探る。
片方は、まるで「茎」が人間の女性の形を取ったような者。そして別の影からは何本かの、それと同じ茎の形の触手が出てきている。
間違いない。ここで形成されている結界の主はこいつだった。すなわち――影魔(エクリプス)。
そしてもう片方は…この学園の服を来た女性であることはすぐに見抜けたが…その正体に、一瞬だが驚愕した。
(あれは確か…弓原?)
そう…自分と同じ日に子の学園に転向してきた少女。あの糞蛆の誘いを何とか引き剥がし、その危険性を忠告したツインテールの女性。
基本的に関わった者は早々忘れないワースではあったが、まだ二日の付き合いでしかないのに、彼女のことは良く覚えている。
その彼女が、仰向けになって倒れている…しかもスカートはめくられショーツは破られ、その秘部からは大量の液体が流れている。それが示す意味を、ワースは瞬時に悟る。この光景は今までに数えられないくらいに見てきた。
(…やられたのか……っ! この、屑に…っ!!)
彼女が影魔の餌食になったことに、ワースはその身に怒りが湧き上がるのを止められなかった。無論、その影魔に対してである。
もしこれが、単なるこの学園の生徒ならば、これほどまで怒りを湧き上がらせることも無く、逆に無関心になっていたかもしれない。
しかし彼女は「無関係者」なのだ。どんな人間であれ、無関係な者には自分のやることには関わって欲しくないのがワースの考えである。顔では平静を装っていても、黒い魔法使いは握る拳が震えるのが止まらなかった。
この教室に、何者かが入ってきたことに「茎」も、そして記子も気付いて其方に顔を向ける。
(え…あ、あれ……)
自分は夢を見ているのだろうか?
そこには黒い服装で身を包んだ…そう、まるで魔法使いのような姿をした男性がいたのだ。まるで現代の、その場にあわない存在が、いきなりその教室に現れたのである。しかもその顔を見て、記子は痛みも絶望も忘れる程に目を見開く。
「……けい…と………くん………?」
そう…多少印象が変化していたものの、その顔は忘れるわけが無かった。初日に自分を連れ出して、意味深な言葉を呟いた少年。何故か心の片隅で残った光景が、今になって蘇る。そしてその彼が、この場所にいる。
一体どういうことなのだろうか…記子は、その姿だけを食い入るように見つめていた。
「あら……貴方、私と同じ影魔ね。ここに私以外の者がいるなんて、ちょっと以外だわ」
「そういうお前は誰だ? こんなところで何をしている」
「いえね、別に大した事じゃないんだけど。ただ獲物が引っかかったから味わっているだけよ。ちょうど処女を食べ終えて、最高の気分に浸って立ってとこよ。あ、でもどうせなら貴方もやらない? これからこの子をしつけてみようかと思うんだけど…」
「いや、きっぱりご遠慮させてもらう」
「連れないわね。せっかく付き合わせてあげようかと思ったのに…じゃあ、この子は私がもらうから」
「残念だが、それも叶わぬ望みだ」
そう呟くワースの右手が、自分の影に向けられる。その虚空の場所で、陣を書くように動き始めた。
「……どういうことかしら?」
「簡単なことだ。貴様は今から―」
言葉を一旦区切ったワースは、虚空で書き上げた「闇」に光り輝く陣に手を入れる。そのまま何かを引きずりしてきた。
―その陣から次第に現れたのはは大きな杖。
彼と同じ程もの長さがあり、先端が月の様な形をした、宝玉の入ったようなエメラルド色の杖。その杖を完全に引き抜くと、ワースはその矛先を「茎」の影魔へと向けた。そして、途切らせた言葉を言い放つ。
「―この俺の手で滅ぼされるのだからなッ!」
そう叫ぶワースの、身体から一気に闇の様な者が吹き荒れる。何のことは無い。ただ自分の力の一部を解放しただけである。
だがその衝撃だけで教室の机が動カタカタと動き、それと向き合っていた「茎」は迫り来る殺意を身体に感じた。
「っっ!?」
何が起こったのかもわからず、「茎」は驚愕の声を上げる。それと同時に、教室の影の部分からは何十本もの茎の触手が虚空から現れ、一斉にワースに襲い掛かる。
―「茎」は本能で感じ取ったのだろう…この男が、今ここで自分を殺そうとしていることを。そしてどれほどの力を持っているのかをも。
いきなり現れた触手たちに、教室内のものは動き、そして倒れる。触手たちによって荒らされた教室、逃げ場の無いほどに埋め尽くされた茎達が、今まさにワースを貫こうとする。
しかし―
ブォォンっ!――――――バシァァァァァンッッ!!
魔法使いの持つの杖が動いた…そう見えたかと思った次の瞬間、その茎の全てが一斉に吹き飛ばされていた。
たった一振り、その一振りから生まれた衝撃波だけで、彼を襲ってきた触手全てが吹き飛ばされ霧散したのである。
その光景を下段から切り上げた体制から見上げ、杖をゆっくりと下ろしたワースは、「茎」に一歩を踏み出す。
「っっひ!」
その光景に、一気に恐怖が増大した「茎」は掴んでいたものを前方にかざした。
首元を掴み、盾のようにかざしたもの…それは先程まで自らが犯した少女、弓原記子。
「動くなぁぁっ!」
教室内に、「茎」の影魔の声が響き渡る。
「それ以上近寄るなら、この女を殺すっ! 殺すわよぉぉっ!」
本気だった。「茎」の目の色は血走り、怒りと焦りの色がにじみ出ていたのだ。無論、同じ影魔相手にこんな人質など、何の意味もないだろう。おそらくは、一気に殺しに来るのは承知している。
だが…この『魔法使い』が自分を殺しに来る一瞬、その一瞬があれば十分だ。その一瞬で、自分は窓を破って外に出るなり、影の中へ逃げるなりしてやる。こんなところで死んでたまるものか。
「うぐっ、うぐぅぅぅっっ、ぐぁぁぁぁっ……っ!」
首を締められ、悶え苦しむ記子。上顎が上がるほどに、かなり強く締められていた。その光景を見て、ワースの足が一旦止まった。そのまま止まったワースに、「茎」は嘲りと疑問が含まれた声で話してくる。
「あらぁ、どうしたのかしら? 急に止まったりなんかして。
……………………………………もしかして、この子の命が大事で、手が出せないのかしら?
…アッハハハハハハッッ! だとしたら、ずいぶん甘ちゃんなエクリプスだこと!!」
「……別に。その女がどうなろうと、俺の知ったことじゃない」
「茎」の影魔の嘲笑に、感情を崩すことも無くドライに返すワース。手に持つ杖をクルクルと弄ぶように回し始める。
「……ただな。エクリプスの取る手段というのは、どいつもこいつもおんなじものばかりなことに、いい加減呆れてきているだけだ」
そう言い終えたワースの、杖を回す手が止まる。そしてそのまま、握り締めた杖の柄を自らの影…月夜に照らされた、重なる「茎」の影に突き刺さる。
タンッ!
『ボゥンッッ!!』
一瞬の破裂音。
それと同時に、囚われていた筈の記子が吹き飛ばされるかのように地面に叩きつけたれ、ワースの足元に転がり込んできた。そして後に残ったのは――獲物を捕まえていた腕、その下腕部が吹き飛ばされたようになくなっていた腕であった。
「……え、えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
一体何が起こったのかわからず、「茎」が痛みに苦しむ間もなく悲鳴をあげ混乱する。
そんな光景に介する間もなく、ワースは杖を引き抜くように上げる。
「…そして、そんな貴様らに対し、憎しみと怒りしか沸かないっ!!」
タンッ! タンッ! タンッ!
『ボゥンッッ!!』 『ボゥンッッ!!』 『ボゥンッッ!!』
叫びと共に、叩きつけるように影に杖を突き刺すワース。それが突き刺されるたびに度に、「茎」の両腕や足が爆発してゆくかのように吹き飛ばされてゆく。そして最後の破裂音が起こった時、「茎」の身体は崩れるようにして地面に倒れた…
「あぁぁぁ…くぅぅぅぅぁぁ…ぁあああぁぁぁッッ!」
倒れた地面で、左右に身体を身悶える「茎」の影魔。今になって体を吹き飛ばされた痛みが脳に伝達してきたのだろうか。
そんな影魔を蔑んだ眼で眺めつつ、黒き魔法使いがゆっくりと近づき、影魔の傍に来た。そのまま自分の杖を、その柄をゆっくりとその「茎」に向けた。
「残念だったな……今までにお前のような、人質を取るような奴にはごまんと会ってきたんでね。そんな奴に対抗する為に、こんな技を編み出したのさ」
レイジ・オブ・バーン。
自身の血、辺りの闇や影等を媒介に、自身の「怒り」を相手に叩きこむ。または相手の「怒り」に干渉する。
それにより、敵の内側から肉体ごと精神を破壊させる間接的干渉技。
この技を使い、先程自分の影に引っかかっていた「茎」の影を自らの杖で突き刺し、それによって自らの「怒り」という魔力を叩き込んだ。だからこそ、離れたままで「茎」の身体が吹き飛んだように見えたのである。
「それにしても……こんなところにも屑が紛れ込んでたとはな。一体何のつもりかは知らんが、下らない欲望を曝け出すなど…」
呟いたワースの顔が次第に怒りに歪み、向けていた杖の柄を「茎」の股間…今だに少茎の束である男根が付いたままの秘部に照準が合わさる。そのまま、力のままにその秘部の辺りへと、杖の柄を突き刺した。
「っっびぎゃぁぁぁぁぁっっ!!」
「茎」の悲痛が教室内に、響き渡る。先程まで自分がしてきたことを、今度は自ら受けること羽目になった。小茎の束の根元を突き破られる形で吹き飛ばされ、そのまま濡れそぼった「茎」の秘部そのものに突き刺さった。
「どうせあの少女に対して、こんなふうに無理やり犯してたんだろうが。自分がやられて辛いことを、平気で行いやがって。それでいて逆にやられることに対する覚悟も無いくせに……調子に乗るのも大概にしろぉぉっっ!!」
ぐりぐりと、秘部に刺している杖をすごい勢いで突き刺される。
「あがああゃぁぁぁぁぁっっ! もっと、もっとぉぉぉっっ!」
「はぁっ!?」
苦しみぬいているはずのしているはずの「茎」は、こともあろうに快感に溺れる雌の表情を醸し出し、紅潮していた。
「激しいっっ、激しいのぉぉっ! もっと――気持ちよくしてぇぇぇっ! ひぃああああぁぁぁっっ!」
四股を破壊されて死が近づいているにも関わらず、股を貫かれている「茎」は被虐の快楽に溺れていたのだ。
「………ふっっざけるなぁぁぁっっ!!」
怒りに我を忘れ、杖を持つ手に力が入る怒りの影魔。
ボシャッ!
凄まじい貫通音が響き渡る。そのまま杖が掻き回されている陰唇から、夥しい血が流れてきた。杖を押し込むことによりそのまま子宮を破壊し、「茎」の背中に柄が飛び出してきたのである。
「がぎゃぁぁぁぁぁっっ!!――――――――」
それに伴って「茎」の口から泡が吹き荒れ、四股から多量の血が流れ始める。もはや声にならないほどの悲鳴と共に意識が飛び、眼からが涙が溢れる。
「苦しみながら死ねぇぇぇっ……貴様らエクリプスなど、苦しんで死ぬのが当たり前なんだよぉぉぉっっ!!」
「―やめてぇぇぇっ!!」
叫び声が聞こえた。その声にワースが我に返る。一瞬混乱し辺りを見回す。
そして自分の後ろに眼が向く――そこには、腕を使って必死に身体を起こしながら自分達の方を見つめている記子の姿があった。
「やめて…刑人っ君。そんな人と…同じに、ならないで…っ!」
自分の名を呼ばれた……そのことにワースは愕然とする。この少女は、自分が誰なのかを…いや自分のことを覚えていたというのか?
そのことに驚いたワースに向き合ったまま、記子は言葉を続ける。
「私は…大丈夫、だから……大丈夫………だから……」
どう見ても大丈夫ではないその状態。おそらくは自分が何を言っているのかも判らないのだろう。それでも必死に言葉を紡ごうとする姿に、表立っていた怒りは沈静化する。
(……悠美……)
一人の少女の名が脳裏によぎる。画像で見たあの少女――その子と同じ眼を、ワースを見つめる少女もまた持っていた。
それに暫く向き合っていたワースだったが、再び胴体だけの「茎」に向き直る。
「だが、こいつは生かしておくわけには行かない…!」
そう一言呟くと、背中まで貫いていた「茎」の秘部から杖を引き抜いたワース。そのまま持ち直し、すぐさま「茎」のお腹の辺りに突き刺す。
バンッッ!!
瞬間――「茎」の身体は吹き飛ぶような音共に、塵となって吹き飛んだ。
そして塵となった「茎」の身体が、次第に「魔法使い」の持つ杖の宝玉に吸い込まれてゆく。
「―――『プラントエクリプス』………………………………成る程、な。こいつ『等』、その為にここへ…こんな場所にいたというわけか」
「茎」…プラントエクリプスと呼ばれた影魔の残骸を吸収し終えたワースは、一人で何かわかったかのように呟く。そして後ろの方へ踵を返し…未だにへたり込んだ体制になったままの記子の元に付いた。
「…けいっと、君…」
見下ろすワースを、必死になって見上げる記子。
―自分とは『違う』存在。どんな形にせよ、自分を助けてくれたこの男の子。
その男の子に対して、自分はなんていえばいいのだろう?そうだ…お礼だ。まだ、助けてくれた例を言ってない。
記子は何とか倒れないように身体を支え、言葉を出そうとする。
「あ…あのっ」
「……股を出せ」
「……え?」
言葉を遮るように放たれたワースの言葉に、思わず唖然とする記子。しかしそんなことなど気にせず、ワースは言葉を続ける。
「いいから……股を広げるっ!!」
「ひっ! ……は、はい……」
睨まれたような感じがして、記子は驚いたように背中を壁に倒した。その後はゆっくりと足をM字に広げ、秘密の場所…だったところを目の前の男子に晒す。
(わ…私、何やってるんだろう……恥ずかしい…っ!)
こんな羞恥的な行為、どうして従っているのか自分でもわからなかった。ただ、ワースの眼を見ると何故か従ってしまったのだ。
とはいえ、まだ知り合ったばかりの男子に対してこんなことをしてしまったことに、凄まじい羞恥心が芽生え顔が紅潮した。
そして彼女が見せた股の部分…何かで思いっきり広げたような後の陰唇は、未だに血が止まらずに流れていた。赤く汚れたその秘部は愛汁が溢れ出てはいたが、全てが充血したように腫れ上がっていて、とても痛々しかった。
「あの茎野郎…こんなにまでしやがって……」
膝を折り曲げ、その秘部を見つめたワースの顔が悲痛に歪む。そして意を決したように、右手の人差し指と中指を合わせ…一つのうねり声を上げると同時に、その指に闇の力を纏わせた。
夜の影よりも暗いその「闇」を纏った指で、血塗られた花園に宛がう。
「ひっ! 嫌…っ!」
再び股の部分に何かを入れられる、その恐怖に手で股の部分を隠す記子。
「……心配は要らない。ただ元に戻すだけだ」
「で、でもっ!………………………………うん…」
さらに何か言おうとした記子は、暫くワースを見つめると…またしても彼の言葉に従った。
彼なら何とかしてくれる…さっきみたいに辱めるのではなく、ただ純粋に助けてくれるのではないか。
睨んだままの、その悲しげな瞳を見つめていると…直感と言うべきなのだろうか、そんなふうに思えてくるのだ。そんなふうに思い抵抗をやめた記子を確認すると、ワースは「影」を纏わせた二本の指をゆっくりとその秘部に挿入した。
「っっ!……………………………あ………」
苦痛と激痛が走るかと思った。しかし次第に入ってゆく指はとても暖かくて、何か気持ちい感じがした。
(あ…暖かくてっっきもちい…な、何…コレ…?)
その感覚が何なのか判らなくて、でもその感覚に呑まれてしまいそうで…訳も判らず、声を殺して身体を震わす。
そうしているうちに、魔法使いの指の根元にまで、膣に侵入してきたのがわかった。
「…んんっ!」
それを確認した魔法使いが唸り声を上げると、秘部を突き刺しているその手が闇に覆われてゆく。
「っ! …くぅぅ…うぅぅぅん……っっ! …ぅぅぅっっ!」
何かが閉じられてゆく感覚。記子は先程の体が引き裂かれてゆくような感覚とは全く逆の感覚が下半身を覆い始めた。それと同時に暖かい感覚に加えて、何かしらの痺れを感じ始めていた。
(ア…くぅぅぅ…何…? きも、ち、いぃぃっ……! 身体が……あつ、い……)
襲われている時に、犯されている時に感じた痛みとも違う感覚。その感覚に、身体が反応し始める。しかしそんなことを気にすることなく、ワースは先程挿入した指を、先程よりも遅いペースで引き抜き始める。
「くぅぅ…! うぅぅぅん……っっ! …んぅぅぅぅぅぅっっ!」
(ア…あっあァ…判らない…これ、気持ちよくてっっ気持ち、いいぉっっ…!)
股の部分が閉じられてゆくような感覚。下の方で痺れ行く感覚。下の方から何かがこみ上げてくる感覚。自らの身体を翻弄する何かが、一気に爆発しそうになったのは、異性の指が引き抜かれる直前だった。
(いや…何か…来ちゃう……なにか、が…はじけて、きちゃぅぅぅっ…!)
必死にこみ上げてくる何かがわからぬまま、翻弄される記子。それをよそに、闇の指が引き抜かれた。
「っっ!!…んんぅぅぅぅぅぅぅっ……っっ!!……ぅぅぅっっ…!!」
目の前が真っ白になった。それと同時に火花が散り始める。まるで何かに上り詰めたような感覚。体が弾けた感覚。
彼女はこのとき、初めてオルカズムというものを味わったのである。その感覚に、声は必死になって殺しはしたが、身体が震えるのが止まらない。
だが秘部からはそこに達した証である、愛液の粉末が飛び散ることは無かった。
魔法使いが指を抜いた後の陰唇は、彼が指に纏った闇と同じものに覆われていたのである。その闇は、少しの間その花園を覆った後…霞むようにして消えていった。
「……ハァ……ハァ……ハァ………ハァ……っ!」
始めて味わった絶頂の余韻が終わり、記子は閉じていた口を開くと、必死になって息を整えた。
「…これでいい。奴の汚辱は浄化した。それと、処女膜を治してある」
「…ハァ…ハァ………え?」
その言葉に眼をきょとんとさせる記子。そして、先程まで苦痛を感じていた場所へと眼を向ける。確かにさっきまでの痛みは嘘のように感じない。いや、さっきまであれほど血等にによって穢された場所が、手を付けられる前の状態に戻っている。股の下の床は未だに血などで濡れていたが、自分の股の部分は洗い流された…いや、元々手を付けられていなかったかのように戻っていた。
それを見ているうちに、記子は彼の言ったことがなんとなく信じられた。
「……あっ」
暫くそれを見ていたが、ワースのことを見ると同時に、スカートでその場を隠した。そのまま顔の紅潮が激しくなる。
流石に女性の最も恥ずかしい部分をあれだけ晒したのだ。もうお嫁にいけないかもしれない…凄まじく恥ずかしい思いに晒され、顔が俯いてしまう。
だがそんな記子の思いなどどこ吹く風のように、ワースはその場から立ち上がり、左手に持っていた杖を地面に突き刺した。その瞬間、周りの影の部分がアメーバ状になって、机やロッカーなどを覆う。そして記子自身もまた、顔を除く全身をその影に覆われた。
「…えっ?」
身体に何かが覆われる…その瞬間に何が起こったのかがわからず、そのまま身体に纏われる影になすがままにされる記子。だがそれも、パチンッとワースが指を鳴らすことで一瞬のうちに消えた。
そして後に残ったのは――整えられた教室。先程までの荒らされた光景ではない。これは自分が入ってくる前の教室――皆が目にする、何時もの教室の光景。
…まさか、先程までの影から生まれたものは、教室を元通りにする為に現れたものだったのか?
それに気付いた記子は、すぐさま、自分の周りをも確認した。
…ショーツが元通りになっていた。それだけでなく自分の身体、そして周りにあった血なども一切喝采が消えていた。全てを修復してくれた…目の前の光景を暫く見ていた記子は、なんとなくだがそのことを悟り、そのまま魔法使いの方を向いた。
「…ありがとう、助けてくれて。私…あのまま…殺されるんじゃないかと思った……ありっがとう…」
その言葉が少し途切れた。今になって再び心に訪れた恐怖心と安堵感が、目に涙を溢れさせていたのだ。それを必死に拭う。礼を述べる記子。
「別に礼を言われることじゃない。それに俺はお前を見捨てようとしたんだぞ。おまけにあれほど辱めた」
「でも…でも、刑人君は、私を…助けてくれたし、直してくれた…それで……十分だよ……」
「…自分を苦しめた相手を弁護したくせに…変な奴だな…」
「あれは、自分を見ちゃったから…さっきの自分と同じ状態になっているのを見たら、かわいそうに思えてきて…それに、刑人君にはあの人と同じになって欲しくなかったから…」
「ふん………それにしても、よく俺だとわかったな。俺のことを気にする人間なんていないと思ったぞ」
「その眼だよ…」
「眼?」
「貴方が、一之瀬さんから私を引き剥がした時……よく言い表せないんだけど…怒りの中に悲しみが混ざっているんだもの…」
(…俺の目はそんなものが混ざっていたのか?)
自分でも、怒りに鋭くなっていると自覚しているこの眼。その中に『悲しみ』が混ざっているといわれたのは初めてだった。自分でも少し混乱したが、それ以上のことを追求するのは止めた。ワースは彼女がもう大丈夫なことを確認すると、くるりと踵を返した。
「…どこ行くの」
「俺は行く。これでも色々と忙しい身なんでね。お前も早く帰らないと、警備員に見つかるぞ」
「ちょ…待って! まだ貴方が…あれが何者なのか……私、まだ何も聞いてない!」
「今話すべきことじゃない。それに知っても、お前には関わりの無いことだ」
「関わり合いが無いなんてこと無い! 私はさっき、あの茎みたいなのに酷いことされたのよ!」
「その治療はもう終わった。それで終りだ」
「終りなんかじゃない!」
叫びと同時に、へたりこんた体制のままの記子が飛び込む。そのままワースの腕を掴んだ。
「ちゃんと説明して。……でないと、ここから離さないから」
そういって睨み返す記子。…先程までの弱々しい姿はどこへやら、急に強気になって説明を求めた。
(この女……俺がさっきの奴よりも強いってことを忘れてないか?)
そのことに少々呆れるワース。流石にこれ以上付きあって、時間を潰すのは勘弁して欲しいところだった。それに彼女…記子に、ある少女の姿を見た。それを見たとき、怒りが沈静化したのだ。
―これから自分やることに、何らかの支障が出るかもしれない。ワースはそう考えた。
(記憶を消すしかないな…これは)
決断した。このままでは埒も明かない。この女が心優しい少女であるのは話していて判ったが…それは逆に自分の行動の障害になる可能性がある。色々と関わって足手纏いになるのはゴメンだった。
ワースは右手に力を込め、闇を生み出した。それを手に纏わり付かせ、彼女の方に向けようとして――
《……です。も、もう……》
「っ!」
脳裏に言葉がよぎる。それと同時に、身体に激痛が走るはじめる。
「…がぁあああああっ!!」
その痛みに耐え切れず、膝を突くワース。
「! どうしたの!?」
その異常事態に気付いた記子は、そのまま前に倒れてくる彼を思わず抱きかかえる。
《これ…わか………しょ!こい………口……けの性…ヒロ…ン……よっ!》
「あがあぁぁぁあああああっっ!!」
ワースの脳裏に途切れ途切れの言葉が流れ込んでくる。それと同時に全身に回る痛みが激しさを増す。
「ちょっと! しっかり…しっかりして! 刑人君!」
のた打ち回るワースを必死に抑えながら、記子は必死に彼に呼びかける。
「刑人君!! 刑人君っっ!!」
「ああああああああああっっ!!――――――――」
(ちっっちが…………ちが、うぅぅ………っ)
僅かに脳裏に吐き出した否定に言葉を最後に、刑人の意識は闇の中に埋もれていった――
――――――――――――――――――――
「ねぇねぇ? そっちの方は準備できたぁ?」
学園前の壁。人目に付かぬ場所において。そこでは二人の少女が……いや、一人の少女がそこに立っていたのを、別の少女が現れて声をかけたといった方が正しいだろう。
二人ともまごうことなき、とびきりの美少女であった。
片方はこの学園の制服を着用していた。ブロンドの長髪に、大人びた風格のある容姿。服が密着するかのような、スレンダーな身体つき。しかし最も印象的なのはその雰囲気だった。制服がまるで不釣合いになるかの如く、彼女から醸し出だされる雰囲気。
それは王族、貴族などの上流階級が自然に身に付くオーラであった。
女王――そんな言葉が似合いそうな女性が、その場を動かず立っていた。
もう一人は黒髪、漆黒のゴシックドレスに身を包んだ、立ち尽くしている少女よりもさらに幼い――儚く幼げな少女であった。しかしその口からこもれる笑みは、その可憐な容姿からはかけ離れた邪悪な笑み。それは彼女の正体を現すかのような、邪悪な笑みであった。
その姿は、まさに子供といったほうが正しい。
そんな「我侭なお姫様」…そんな子供が、意地の悪い言動をもってブロンド髪の少女に話しかけてきた。
「こっちの方はもうとっくに終わってんだけどなぁ…ちゃんとしっかりしてくれないと困るんだけど。そんなんだから、こっちにも支障をきたすのよ」
「……」
「大体、今いるのが私たち二人だけってどういうことなんだろうね? 『プラント』の奴も、下見に向かわしたら向かわしたで帰ってこないし。他の連中もまだやってこないし。ホンット、役立たずばっかり」
「………………………………」
「しかも私の相方にいるのはのんびり屋…いくら興味の無いことだからってちょっと手を抜きすぎなんじゃないの? そんなんだから男にも振られてば――」
バシュンッ!
「女王」の腕が動いた。それに合わせて、「姫」の身体が上下二つに分かれて吹き飛ばされる。
「…少し静かにして下さらない? もうすぐ終りますから。それとも、今ここで『蟻』達の餌になります?」
冷ややかな眼で、切断された「姫」を見下ろす「女王」。
しかし切断された筈の「姫」は口元が笑みに歪む。直後、その顔が、身体が――黒のドレスまでもが溶け始める。熱に解けるかのようにその姿が崩れ…上半身と同じ範囲の、アメーバのような銀色の液体が出来上がった。
その「アメーバ」が生き物のように動き始め、先程切断されたはずの下半身を覆うかのように飛び乗った。
そのまま取り込むかのようにくねり始め……次第にアメーバの容量が大きくなり始めた。そして、先程よりも一回り大きい分量になったアメーバはくねくねと動き始めると、何かの形を取り始めた。
…その姿は先程の「姫」では無かった。面影こそあるものの――その容姿はまさに大人の女性。
優しい眼差しを目に泣き黒子を残した、長髪の美女。Fカップもの巨乳。その姿を覆うのは赤色の修道服。決して豪勢ではない、しかし神秘的な雰囲気を醸し出すような衣。
―あっという間に「シスター」に変化を遂げた「アメーバ」は、まるで何事も無かったかのように再び語りかける。
「あらあら、まぁまぁ。少しからかっただけですのに、やりすぎじゃないかしら?」
「…あれで少しですの? なら、『少し』は落ち着いて欲しいものですわね。はっきり言わしてもらうなら、『邪魔』なんですの」
「あらあら…でも今、今回の準備が少し遅いというのは、紛れも無い事実ですのよ? まぁ…もう少しゆっくししていても、私は構いませんけど。でも…『あの子』はどう思うかしら?」
「…………」
「あまり時間を掛けるものではありませんわ……私が言いたいのはそれだけ。では、失礼いたしますわ。頑張ってくださいね、『クルルマニー』さん」
そういって一礼すると、その『修道女』はやってきた方向へ踵を返し、そのまま夜の闇へと消えた。
「…………………『液体』の分際で……他人になることでしか存在できない方が、あまり偉そうしないで欲しいですわね…」
立ち去った方向を向くこともなく、「クルルマニー」と呼ばれた少女は侮蔑の言葉を呟くのを止めなかった…
「さてさて、準備ももうすく整いますし…いよいよ見られるのですわね。彼女の鳴き声が……楽しみですわ」
夜の明かりが照らす中、「修道女」の美しい顔…その口が笑みに歪む。
「一之瀬恵理子さん……この『メタモルエクリプス』――いえ、私達は貴女が欲しいんですの。私達エクリプスの欲望の贄として、玩具として……そのためにも、せいぜい無駄に足掻いてくださいな」
先程と変わらぬ優しい眼…しかし、その奥には狂気の色が滲み出ていた――
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