パニッシュメント・メモリー

第四章 告発

「では次に…生徒会長立候補、一之瀬恵理子の演説です」
 日の光が照らしゆく中、マイクから響き渡るその一言でドーム内に残っていたざわめきが落ち着き、一斉に拍手に替わる。
 それは学園内における期待と賞賛、そして尊敬の表現である。だがそれを背負うには、今の少女には重過ぎる。
「…………はい………」
 その呼びかけに応じて中央段に添えられた椅子に座っていた少女、一之瀬恵理子が立ち上がる。しかしその声には覇気は無く、表情は余りに病人のように力ない。
 己が無力さに打ちのめされた恵理子には、ただ総会に参加しているだけの状態だった。友を救えないどころか、今彼女を踏み台に伸し上がろうとしている…それが何よりも辛くて、それを何とかしたいと考えるばかりで他のことを見る余裕さえもなかったのだ。
 だがそれも自分の演説の番が来て、打ちひしがれている甘えさえ許されない状況にまで追い込まれた。ただ流されるままに、壇の上へと向かうよう促されているのである。
「さぁ一之瀬さん、そんな情けない顔をしてないで…皆待ってますのよ?」
 そんな恵理子の姿に、隣にいた麗魔が凛として嗜める。彼女は恵理子の推薦者としてこの場にいた。当初彼女を推薦していた者が二日前から体調を崩し、代わりの者として気品と教養がある彼女が急遽抜擢されたのだ。無論それが影魔の仕組んだ罠であることに気付く者などいない。
「……っ!」
 その言葉に恵理子は麗魔の方を見て、そして驚愕する。表情は穏やかに見えるが、その眼の奥底にあるのは蔑むようなものを見るおぞましさを帯びたものだ。見ている自分にしか分からないが、それはあらゆるもの見下す、上から物を見る眼だ。
 周囲から隠されたその目を見て、恵理子は今になって彼女がこの異変に大きく関わっていると確信する。
(…まさか……………うぅん…今は……それよりも…)
 その疑問とおぞましさに震えはしたが、彼女の言うとおりこの場で留まっていても仕方がない。今だ拍手が鳴り止まぬ中、促されるようにして壇上に昇った。それに同行して、麗魔も壇の横に着いた。
 同時に拍手も鳴り止み、場は今回の主役の一声を待つかのごとく静まり返った。そして憧憬と信頼に溢れた視線で見つめ、その言葉を聞こうと耳を傾けてゆく。
(……私は……………)
 今この場にいる皆は自分に期待している。愚かな自分を信頼して、こんな責務ある立場に押し上げてくれている。そんな期待に答える…それが今自分がここに立たせてもらえた事へのせめてもの礼儀だと思う。
 ……だが今の恵理子には、今の皆の期待に応えることは、やはり出来ない。
(悠美……っ)
 彼女にとって、命を賭けても惜しくない最愛の親友。その娘が自らの愚行が招いた悪評で踏み躙られている。そしてそれによって自身の信頼が磐石にされてしまっている。
 そんな中で生徒会長になることは、親友の悪評を確定し、二度と汚名を晴らせなくしてしまう。それは少女の幸せを奪うのと同じ…それだけは絶対に受け入れられない。
 でもそれをいうことは自分たちを信頼してくれた生徒達を裏切れない。どちらを選んでも大事な人たちを裏切ることになることが、恵理子の心を悩ませる。
「………二年A組、風紀委員の一之瀬恵理子です。この度は皆さんの賛同の元、生徒会長に推薦頂き有難うございます…」
 マイクを前に、会釈しながら力ない声でゆっくり語りだす恵理子。しかし決断するときがきてもなお、彼女は未だ悩み続けていた。そこまで心が弱くなるほどに、今まで学園における悠美への批評は散々たるものだった。
「………私は………………………私は………――」
 そこで言葉が途切れる。……わからない。今になっても、どんな答えをしたらいいのか分からない。そんな心は苦悩に、頭は困惑に蹂躙され疲弊してゆく。どうしたら…
(――まったく、何を悩んでいるんだか。未来の会長様がそんなことでどうするんですの?)
 その時、彼女の脳裏に声が聞こえた。不意に聞こえたそれにハッとなると同時に、恵理子は異変に気付いた。
(…っ!? 身体が……うご、か…………………何………?)
 動かない。身体は愚か口も眼も、眉毛一本すら、何かの意思に遮られたかのように、急に自らの意思で動かなくなっている。それは嘗て、ある人に意識を支配されたあの時と同じ――
「――私は今、生徒会長という重責を担う機会を得るための場に出られたこと、ただただ嬉しく思うばかりです」
(…えっ? 何…これ……っ!)
 次の瞬間、自分の口が勝手に動き出したことに恵理子は驚愕した。しかし反応して口に手を当てることすら出来ない。ただ勝手に口が、身体が動いていることに、恵理子は意識のあるままに自分の身体が支配されたことを瞬時に理解した。
「私が望むもの…それは学園の皆が真に笑顔で過ごせること、ただそれだけです。そのためにはあらゆる障害と立ち向かい、そして乗り越えて行きたいと考えています」
 先程とは打って変わって、何時もの明るく爽やかなお人好しな表情で演説する恵理子。先程までの不安に呑まれていた姿に、同じように不安になる生徒達も出始めていたが、普段の態度へと戻ったことでその人たちもまた安堵する。
 だがその表情が作られたものだということを唯一知っている恵理子だけは、心に生まれた不安を次第に増大させていった。それはまるで、これから起こることに対する絶望へと引き出されるような感覚…そして不安は的中した。
「皆さん、どうか私に力を貸してください。皆と力を合わせることが出来れば、あらゆる困難にも立ち向かえることが出来る…そう信じています。先日に起こった、悪魔達の横暴もきっと立ち向かえたに違いありません」
(…っ!)
 その言葉に、恵理子の心が悲鳴を上げた。今自分の口から出た悪魔達というのはおそらく悠美のことを指し、悠美が瞳を殺めた日のことを話しているのだろう。その時のことは途中までしか知らないが、悠美が絶望のままに戦ったときの惨状は今日までの生徒の反応で想像できる。
 そして生徒壇下にいる生徒達の反応からもそれは窺い知れる。ざわめき、表情を震わせ、苦虫を潰したような嫌悪と畏怖ばかりの表情を見れば確定的だ。
 恵理子は確信する。今自分を操っている者は影魔であり、そのものは悠美を貶めるためにこの場を利用しているのだと。
「かの者達が学園に齎した悪業の数々は確かに私達の生活を脅かし、心に傷を残してゆきました。そして今も闇に隠れるようにして私達を脅かしています。でも…だからこそ私は、今後あのような殺人鬼が学園でのさばるようなことがないよう、二度と学園に現れないよう尽力を尽くしたいのです。
 だから、どうか皆も負けないで。皆で戦って、影から恐怖を与えている悪魔を…今こそ私達の手で追放し、嘗ての心穏やかな学園生活を取り戻しましょう! …その先日において死んだ人達の為にも…っ!」
 体育館を震わすような力強い言葉。皆を奮い立たせるようなその言葉に広がりかけていた喧騒は止み、暫く続いた静寂の後…代わりに鳴り響いたのは盛大な拍手の音。
「いいぞ一之瀬っ! 俺も力になるぜっ!」「よぉしっ! あんな顔だけの性悪女共、今度あったらギタギタにし返してやるぞぉっ!」「可哀想…大切な人をあの悪魔で亡くしていたなんて…なんて最低な奴なのかしら、悠美って女は」「無くなった親友の為にも戦うなんて…私、感動しちゃう…」
 それぞれが彼女の言葉に心震わせ、彼女への惜しみない賞賛と瞳を失ったことへの哀れみ、同時にこの場にいない性悪女…すなわち悠美に対する嫌悪と軽蔑が一気に打ち出される。それだけ今の学園に置いては恵理子と悠美の立場は対極にあるのだ。
 それは嘗て仕掛けた瞳の姦計とメタモルの策略の賜物でもあるが、それがここまで肥大化してしまうほどに、悠美が生徒達に見せた横暴紛いのことが衝撃的だったのである。
 そんな光景を前に、だが恵理子の心は酷く掻き毟られ、叫びとなって激しく響く。
(違うっ! 私はそんなことを望んでないっ! いや…止めっ、やめてっ! 皆、悠美を責めないでぇっ! …お願いっ、お願いぃぃ…っ!)
 広がってゆく賞賛と憤慨を前に、しかし何者かによって身体を支配されている恵理子は何も出来ず、ただ悲痛に叫びながら成すがままになるしかない。身体の支配を促された恵理子は、皆の声援を前に一礼した後雛壇を降り、今度は横にいた少女が上に上がる。
 静粛にという教師の声に促され、それでも鳴り止まぬ喧騒の中、一礼したスレンダーの令嬢…麗魔は静かに声を上げる。
「…一之瀬恵理子を生徒会長に推薦した方々の代表、貴華麗魔です。先程の演説の通り、恵理子さんはただ皆様の平和と幸せを望む、とても素晴らしい人間です」
 その凛とした美声が発され始めると、先程の演説に対する熱が引いて行くかのように生徒たちの喧騒が収まり、先程にも劣らぬ静けさで彼女の演説を聞き始める。
「彼女は学園を守る正義の象徴であり、私達の希望でもあります。…私はここに転校する前のことをあまり詳しくは知りません。けれど、皆様の彼女の対する信頼や彼女の皆様への想いは十分過ぎるほどに感じます。
 彼女なら学園内の不良や、皆様で噂になっている化け物…羽連悠美なる化け物の存在を打ち倒すことが出来るでしょう。学園内に潜んで無差別に人を殺そうとした彼女を追い払ったという噂もあるではありませんか。
 そのような力だけで横暴を繰り返す女から私たちを守り、そして導くことの出来る彼女こそ生徒会長に相応しいと思われます」
 その一言一句の中は人の心を蕩けさせるような甘く、そして人の心を揺さぶらせるような魅惑を感じさせる。美しく甘く、そして学園の現状を代弁するようなその言葉に、生徒達はただ聞き入ってゆく。特に男子の方は次第に正気を失ってゆくかのように眼が虚ろになり、まるで唯一の事のよう聞き惚れてゆく者まで出始めている。
(違うっ! 違うっ! 悠美は化け物なんかじゃないっ! あの子は皆を守って………………………………あ……っ)
 彼女の演説に、横で起立したままの恵理子は更に心で悲鳴を上げ…しかしそこで気付いた。穏やかで優雅に語っている彼女の眼だけが自分のほうを向いており、その黒き瞳の奥は魂が吸い寄せられるかのような禍々しさが秘められていることに。
(――…すこし大人しくしてなさいな。もう貴女は私たちの操り人形…どんなに喚いても、この状況は変えられませんのよ)
 不意に先程と同じように届いた、頭だけに響く声。まるで人を見下したかのような、演説とは違う冷たい声。その頭にだけ響く声と、その内にある威圧感に、恵理子は彼女の正体に感づいた。
(あ……貴女、もしかして……っ!)
(――御挨拶が遅れましたわね。私の名は麗魔…またの名はクルルマニーエクリプス。貴女の親友であった新野瞳…その方と同じ影魔でございますわ。…今後ともよろしく、一之瀬さん)
 ただ言葉だけの冷たい挨拶を交わされたとき、恵理子の嫌な直感は的中した。嘗て学園の幸せを蝕んでいた闇の住人が、再びこの学園に現れたのである。強大な力を持つ魔人を前に、恵理子は唯一自由な心を持って語りかける。
(な…何を、企んでるの!? …いえ、例え何を企んでいたとしても…私を出汁に悠美を侮辱するなんて、許さないっ!)
(――あらぁ、せっかく会長になるお手伝いをして差し上げているというのに酷い言われようですこと…まぁいいですわ。どんなに足掻いた所で、その脳に仕込んだ寄生蟻も、この演説も、もう止めることは出来ませんから)
 恐ろしい宣告と共に冷たく語る麗魔に背筋がゾッとする恵理子。彼女はその力の片鱗のみで自分を抑え、その話術で生徒達に悠美を嫌悪させるように仕向けようとしている。それ程の力を持った相手を前に、不安だけでなく恐怖も沸き上がる。
 そして…そんなやり取りの合間にも、皆に演説している現実の麗魔は生徒達の心を奮い立たせるように、演説のボルテージを高めてゆく。
「皆さん、どうか一之瀬さんに清き一票を。学園にある不良達や、私達を殺そうとした悪魔達から学園を守るためにも。そいつらに傷付けられた心を癒すためにも。悪を追放し皆を幸せにするための力をどうか一之瀬恵理子に――」

「――冗談じゃないっ!」
 突如、体育館に響く怒声。ドスの入ったその響きは空気を震わせ、体育館にいる全ての者達が叩きつけるかのように震え上がる。そのまま怒号に呑まれるように固まり、先程までの全ての喧騒あっという間に静まり返ってしまう。
「……えっ?」
 その膨大な咆哮に震え上がったのは壇上の者もまた同じ、否その咆哮の発生場所なだけに生徒達への驚愕は一段と高い。椅子に座っていたものたちの殆どが跳ね上がり、酷い者は地面へと転がり込んでしまうほどであった。
 唯一、麗魔と身体を支配された洗脳された恵理子だけがその怒声に臆することなかった。まるでそれに慣れているかのように振る舞い、そして誰よりも早く怒声を発した者へと向く。
 その目に映ったのは――この場にいる誰よりも鋭く、内にある威圧感を滲みだしている一人の少年の睨んだ瞳であった。
 

  *  *  *

「そろそろ、いいかな…」
 体育館において、恵理子の演説が始まった頃。
 肛内の片隅にある教会…総会のために今は無人のとなっているはずの建物において、一人の少女が呟きとともに祈りの姿から立ち上がる。
 それは余りに美しい少女だった。余りに整えられた幼顔にブロンドのしなやかに靡く長髪にスレンダーな肢体とCカップの釣鐘の美乳。それに纏われるは水着のようなボディスーツと純白の衣。
 そして何よりも特徴的なのは、それらの全てを更に輝かせる黄金の翼。その翼の光によって照らされる少女は、まさに天使と呼ぶに相応しい。
 その光り輝く少女こそ恵理子の親友、光翼天使ユミエルこと羽連悠美――と、彼女を知っている者が見ればそう思うだろう。奥底に眠る濁った瞳を除けば。
「…へ、へへ…ようやく出番ですかい? メタモル様ぁ…待ちくたびれましたぜ…」「ようやく本格的に暴れられるんですねぇ、ヒャハハハっ!」
 この神聖なはずの場所には余りに不釣合いな、どろどろとした醜悪な声。その言葉と共に教会の影の部分が盛り上がり、そこから蠍の姿をした怪人や巨大化したような海老が現れる。
 いやそれだけではない。あらゆる場所から鮪だの蛸だの七面鳥だの、様々な化けものが影の部分から現れ、まるで蹂躙するかのように教会を埋め尽くす。
「…うん。今頃、私を元手に学園を一纏めにしてると思うの。だから、その合間に…」
「ひと暴れと共に、メタモル様や学園の女共をやっちゃっていいんですね…ゲヘヘッ。楽しみだぜぇ」
「こっこらこらぁ…下級のくせに、私を犯そうなんて千年早いの。犯されるのは『羽連悠美』、なんだから…ウフフ」
 化け物達の下卑た視線と揶揄に『羽連悠美』…メタモルと呼ばれたその少女は美顔に似合わない、禍々しく歪んだ笑みをこぼした。

 メタモルエクリプス他、影魔王の使いである彼女らはこの学園に着てからすぐにこの場を陣取り、担当の聖職者を犯して食い殺して拠点にした。そして様々な謀略のための伏線を張り巡らせながら、この総会のような時を待っていた。
 彼女たちの目的は恵理子を守り立てて学園の意思を纏め磐石にすること…しかしてその狙いは羽連悠美を人間の手で抹殺させること。全ては影魔王の気紛れ的遊びであり、宿敵の天使が苦しみ滅びる姿を王に見せることが自分達の目的。
 その下拵えは嘗て学園を牛耳った根暗のおかげで万端であり、後は彼女への悪評と、恵理子への同情などの認識が高まるよう仕向ければいいだけだった…あるときは彼女の友人に、あるときは教師に、またあるときは彼女自身に。
 結果は上々。後はこの場で影魔に悠美として犯され、恵理子に惨めに慈悲を請う堕ちた雌犬の役割を演じれば…二度と彼女の悪評は消えることなく、嫌悪する人間の手で葬らせることができる。
 無論障害がないわけではない。先日配下の影魔が滅ぼされた場所において散りばめられていた黒い羽が、今日に成るまでに数回にわたって見られており、そこで何体かの影魔の滅びた後も確認されている。
 …いる。宿敵である本当の羽連悠美はいる。そして姿を現さないあたり、こちらの存在に気付いているが居場所までは特定できてはいないようである。なら…この場所を天使の墓場とするまで。
 おそらくはその天使の母親もいるだろうが問題はない。最悪、こちらには恵理子という切り札がある。何をしようと救えない手立ても麗魔によって仕込ませた上で。
 そう、ここにいる存在は全て彼女の舞台の脇役なのだ。何をしようと、彼女が描いた脚本の通りのまま。
 ……まずは彼らが本能のままに学園の者達を陵辱する。そこで宿敵の天使が現れたところに、影だけに届く念等で恵理子を人質に脅迫し陵辱。そこで自分が現れ彼女を悪魔として他者に認定させ、自分も痴態に参加する。
 ……またそこで宿敵の天使が現れなかった場合、代わりにを自分が現れ周りに被害を及ぼし、力尽きる振りをして掴まり辱められ、代わりとなって天使を貶める。
 彼女にとっては生ぬるい作戦ではあったが、どちらも「悠美」に対する悪評を確定させるには十分であった。つまりこの場にいる影魔達が一匹でも外に出れば、悠美という少女の命運は決すると言ってもいい――本当は、彼女の全く知りえぬまま。

「それじゃ…皆配置について。空間を捻じ曲げておくから大丈夫だろうけど…絶対に一人も逃がしちゃ駄目よ!」
 その言葉と共に、教会の玄関に手をかけたメタモルエクリプスは静かに、しかし威厳のある声で全員に号令をかける。その言葉に、教会を埋めていた影魔達は一斉に咆哮を上げる。
 それは主による欲望の解放の許可と作戦の開始の合図。その影魔達の雄叫びを聞きながら、『悠美』は表情を穏やかなものにして、ゆっくりと玄関を開ける。

『――バコォォンッ!』
 扉が開ききった瞬間に響ぐ轟音。同時に一人の少女偽天使は瞬時に吹っ飛ばされ、次の瞬間には十字架台に派手な衝突音を鳴らす。それは余りの迫力があり、白熱していた周りの影魔達を瞬時に静まり返してしまう程だった。
「………………………………………………………………………うっ、うぅ………?」
 何が起こったのかわからず、衝突した台の中で呻く偽天使。その頬には大きな赤痣…それは間違いなく殴られた後であり、彼女が殴り飛ばされたことを示す。
 そして彼女が先程までいた場所…喧騒を止めた魔物達の眼がメタモルに向かう中、扉の前では一つの影がゆっくりと教会へと足を踏み入れる。
「悪いが――貴様ら全員、ここから出すわけには行かない…っ!」
 それは瞳に黒き怒りを灯らせ、今にも顔を歪ませそうな学生姿の少年……いるはずのない裁騎刑人が閉めた扉を背にして立ちはだかっていた。

 

 

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