リコーリング・インティグニティ

第一章 過去の清算

「はぁあああっ、わた、わたしっ―っまたイくっ、イッくぅぅぅっ!」
 教会の中に、少女の嬌声が木霊する。
 七色のガラスから刺し込む月光が、一人の少女をしとやかに照らし出していた。綺麗な肌に、幼女のようにあどけない顔立ち。プラチナブロンドの長髪が、月の光にきらきらと輝いている。清楚可憐な幼貌に似つかわしく、その肢体もまた儚く美しい。神聖ささえ感じさせる少女の姿は、まさに天使と呼ぶに相応しかった。
 だが、そんな無垢な肢体は、いまや無惨なる辱めに晒されていた。両手は大きく左右に開かれ、両足は一本に纏め上げられ拘束されている。
 全身で十字を描かされた姿勢――可憐な美少女は、聖堂に聳える十字架に磔にされているのだ。
 エナメルの手袋をしたその細い手は両方とも、縄程の太さもある「触手」ともいえるようなもので拘束されていた。少女の悲鳴が聞こえる度にある程度は動くが、外れないところを見るに固定の方はしっかりしていた。同じように拘束されている両足、純白のバトルブーツもまた、彼女が落ちないようしっかりと固定されていた。
 このように「天使」の状態も異常ならば、彼女の姿もまた異常である。
 背中から生えた金色の翼、身体を纏う水着のようなボディスーツに、それを覆う純白のケープにミニスカート。それらの要所要所に付いているアクセサリー。
まるで「聖衣」ともいえるようなそのコスチュームは美しくもいやらしい―もし異性が目撃すれば、間違いなく欲情してしまうだろう。
 そんな天使のコスチュームもまた要所要所が破かれており、女の子の「恥ずかしい」部分が曝け出すかのような状態にされているのだ。
 まず胸の辺り、水着形の胸部分はそこだけを出すかのように剥がれされており、そこからCカップもある美乳が前方に突き出されていた。その双丘とも、先端にある乳首が「今すぐにでも構って欲しい」と訴えるかのようにぴんと勃っている。そして片方は彼女が身体を震わす度に連動して震え――もう片方は、彼女の右手側にいる少女――ポニーテールの髪形をした学生服の少女によって揉まれていた。
「むちゅっぺちゃ……また、イッてくれたんだね……嬉しい…」
 磔にされている天使の耳を包むように舐めながら、学生姿の少女はそう呟いた。その目には、嬉しさとも悲しさとも取れる想いの結晶が流れている。そして彼女のしなやかな右手もまた…舐めている耳と同じように、曝け出されている美乳を乳首共々、時に優しく、時に激しくもみくちゃに揉んでいた。優しく揉むだけでも、磔天使は身体を震わせてくれる。そして少し強く揉んだり先端を何回か抓ったりするだけで、磔天使は絶頂へと導かれる。
「はぁっ…はぁっ…ひあぁっ!っう、ぅんっ、またっイッたのぉっ―ぃひいいいぃぃっっ!」
 肉果美共々、その美乳を弄んでくれるポニーテールの少女に、磔天使は快楽に悶えながらも必死に答えようとする。しかしそれは、不意に足の付け根から来た…いや、常に来ていたところから与えられたさらなる強烈な快感によって更なる嬌声と共に中断されてしまう。
「…これでまたイッた……………何度目になる…?」
 ポニーテールの少女と向き合う形――磔天使の左手側の方で、同じように天使の耳をねぶるを止めた青い肌の美少女が囁いてきた。レザードレスを身に纏い、額に《瞳》のようなアクセサリーを付けた、まるで「妖艶の姫」を思わせるような女性が、たどたどしく会話に混ざって来たのだ。
 左手に握られた、磔天使を拘束しているのよりも太い触手でその天使を激しく突きながら。
 磔天使の下半身、その秘密の花園を守っていたスカートもショーツもすでに外され、聖衣とそのアクセサリーが残されていた。隠す物がなくなった秘部…金色に輝く薄い陰毛や太股を巻き込む程に愛蜜を溢させている部分を、邪悪な姿の魔姫が弄んでいたのだ。
 しかもただ弄られていたのではない。
 魔姫姿の少女がもつ、「淫魔力」という女性の「雌」の部分を発情・開放させる催淫効果を注入される形で、弄ばれているのである。その魔姫の左手が動く…その小さな秘豆共々、膣中を弄ばれ続ける度に磔天使は絶頂に追いこまれ、その度に女陰から潮が吹く程に愛蜜が流れ落ちた。そして止めにと呼び出された、バイブ代わりの触手に子宮まで突かれているのである。充血したクリトリスを、親指の爪をあたる程度に突かれながら―
「っわ、わからないっっぁはあああっ!…もうっ―もうイって、すぐしたら、またっきもちよくなって―あはああうぅぅっ!」
 充血した肉豆に再び爪を立てられ、脳まで突き抜ける快感に打ちのめされ、光る翼を震わせながらヨガリ狂う磔天使。淫魔力によって敏感にされた身体は、二人の激しくも優しい、様々に変化する責めに耐えられるわけもなく…少女天使は常にイきっぱなしにされている。その証拠として、磔天使の足の下には―広範囲の水溜りが形成されるほどに…
 だが、彼女を陵辱しているものはそれだけではなかった。
「……子宮も突かれ………死んじゃうくらいに幸せ………? それとも………ママが苛めてくれる…こっちがいい…?」
 普通に聞いたら何を言っているのか判らないその言葉に、少女天使は快楽に溺れている表情に泣きそうな雰囲気が混じった。
「はひぃぃぃっ!っちがうっ、ちがうのぉぉぉっ!ママはっかんけ、っっぃぃひいいいぃぃぃっ!」
 必死に否定の言葉を紡ごうとした磔天使は、腰を前に出すような仕草で、再び絶頂に打ち震えた。腰を突き出すようにされた原因…彼女のお尻の奥底まで突き立てられてた、銀色のロザリオによって。
 元々天使の持ち物であり、自身の証とも言えるその「十字架」。それを自身の秘部よりも弱い部分ともいえるお尻に入れられたのだ。
 この陵辱が始まってすぐ…ポニーテールの少女と魔姫少女、その二人が組むようにして握られた双手によって。
 最初は優しく、だんだんと激しく…「淫魔力」の追加によって快感を増大された状態でのピストン責めは、天使に残っていた「誇り」すらも簡単に打ち砕いた。銀色の先端が出し入れされる度に、脳まで突き抜ける痺れが襲う。背徳の快感が、体だけでなく心まで蝕んでくるのだ。
 そして…ここだけで一度絶頂に追いやられてからは、ずっと二人の少女の組まれた手によって常に穿たれていたのである。ただ責められているだけでなく、愛する親友二人同時にの責められている…そのことが秘部のバイブ攻めと同じくらいに天使を絶頂へと昇り詰めさせているのだ。
「そう………もう…勝手にイクのでいっぱいで………私達のことなんて…もう………」
 そう呟くと同時に、少し暗い表情に堕ちた魔姫姿の少女の責めが激しくなった。小さな秘豆には爪が立てられたままになり、触手を動かしていた手がさらに早まる。まるでそのまま気絶する所まで追い込むかのように。
「っちがうっ、わたし、そん―ひぃああああっ! また、イッちゃうのぉっっ! またぁああっっっ!」
 必死に首を振りながら否定しようとする言葉が、遮られるようにして嬌声が再び聖堂に響き渡る。
  このままいけば、磔天使の意識は闇に堕ちて終わり―
「違うよ…瞳。悠美は…ユミエルは、例えどんなことにになっても、絶対に貴女を『助けてくれる』よ…」
 動かしていた自分の両手と、耳を舐めてた口を止める。そしてポニーテールの少女は、「瞳」と呼ばれた魔姫の少女に語りかける。
「この子は…どんなに『壊れて』も『苛められて』も、常に誰かを思って身を捧げるの。私のことも…貴女のことも。だから貴女の『虐め』にも………………本当は判っているんでしょう…? んちゅっ、んぅ…」
 ポニーテールの少女は、諭すように瞳を言葉を交わし…想いがわかったのが、途中で言葉を切る。そして、「悠美」と呼ばれる少女天使に口付けを求めてきた。
「……ばれてた……。もこの子、こうやって苛めた方が…もっと気持ちよくなるの知ってるから……」
 瞳は悪戯を行った子供のようなことを言いながら、すぐに先程までの優しくも妖しい表情に戻った。そして二人の、舌まで絡むせるほどの口付けに、混ぜてもらおうとするかのように顔を寄せてきた。
 悠美もポニーテールの少女も。それを当然のように口付けを受け入れてきた。
『ぴちゃっ、ぺちゃっ、ちゅうぅぅぅ・・・ぺちゅっ、ぴちゃ・・・』
 舌を絡ませ濃厚な口付けの音が聖堂に響き渡る。それは先程とはまた違った艶を醸し出していた。
 三人共、その行為を暫く楽しむ…
「んちゅう…はぁっ…はぁっ………酷いよぅ…そんな…『苛める』…なんて……はぁ…はぁ……」
 口付けを終えて息を整えている磔天使―ユミエルは、虚ろな涙目を瞳に向けた。
「ごめん…………
でも、今でも貴女を「苛める」は好きだから…こうやって、『ママ』のかた…じゃなかった……『ママ』の贈り物で、貴女を苛めるの、好き…
でも…恵理子と二人で苛めるのは…もっと好き……」
 そういって妖しく微笑んだ瞳は、再びユミエルの耳を舐りあげ…同時に、「止めていた」触手とロザリオで磔天使を突いてきた。蜜に溢れていた膣中と菊門が、咥えていた異物の連動に掻き回されてゆく。
「っぃひぃいいい!っそ、そうなのっ? 恵理子も、そうなっっぁはぁああああっ!」
 再び魔姫の責めに束縛された身体を激しく悶えさせるユミエル。それほど休まされていない彼女の身体は、再び淫靡の快楽に堕ちてゆく…そんな中でもユミエルは子犬のような想いを叫ぶ。
「…悠美が望むなら…二人が好きなら、私も大好きだよ…」
 恵理子と呼ばれたポニーテールの少女…彼女もまたその優しい声を響かせて、再び耳を舐めて胸を揉みくだしながら抓る。そして自身の意思で、先にロザリオを動かしていた瞳と同じように、親友のお尻を穿ち始める。
 それを感じた瞳は恵理子と目を合わせ…一旦その手を止める。そして二人はその手を組み合うようにしてロザリオを握り直し…再びユミエルのお尻を穿ち始める。
「んむちゅっ、ちゅぱ……私も…大好き……はむぅ………」
「ぴちゅ…はむぅ、ぺろ、あむ……んむ…」
「ひぁぁぁああっ! うれしっ、うれしいぃっ―わたしも、ふたりにいじめられるのぉ、すきいぃぃいいいっ!」
 虐めてもらえる、いや「愛してもらえる」ことに対する喜びを叫ぶ間もなく、再び悠美の身体が激しく震えた。身体全体を覆う絶頂感。背中についている金色の翼がまた跳ね上がって、触手に貫かれている花園から愛蜜を飛び散らせた。
 今、自分が淀んでいる絶頂地獄…否―絶頂天国に、天使は己が「使命」をも忘れて、涙まで流しながら喜びに打ちひしがれていた。「ふたりとも、だいすきっ、だいすきぃっ! っだからわたひっ、また、イッちゃうぅっ! イッちゃあああああぁぁぁぁっっ!!」
 二人の親友に可愛がられながら、悠美…「光翼天使ユミエル」と呼ばれる少女は何度も訪れる絶頂に呼応し、嬌声を響かせる―――――――――――――――――――――――――― かつて学園で二つの事件が起こっていた。
 一つは「魔に蝕まれた少女の学園掌握」、もう一つは「『怒れる』少年の告発劇」。
 先の事件によって一人の少女は屈辱と絶望によって『壊れ』、後の事件によってその少女の親友もまた屈辱と絶望に貶められた。
 
 しかしその果てにあったのは…一人の願いによってもたらされた、失われた者との会合。
 それは、永遠に戻らない筈だった「絆」だった――  影魔の手によって再び学園に引き起こされた「事件」…その終焉から数日が経過した。
 「事件」の時の記憶は悠美、光翼天使ユミエルの手によって再び封じられ、学園は再び以前の穏やかな平穏を取り戻した。
 しかし今回は、完全に全てを抹消することは出来なかった…今回の事件の当事者の手によるものである。
 そして…何としても記憶を消そうとした天使を、僅かに残った、記憶を消されなかった関係者達が止めた。
 最愛の親友も、再び生を受けたかつての宿敵も、その他の者達も…義母である真理を除く皆が。
 その必死の説得により、悠美もその過去を消す事をあきらめ、共に紡いでいこうとする決心を固めた。
 そして様々な状況の経過を見てゆくために、悠美は真理と共に暫く学園に滞在することにしたのである。
 
 そんな事件の処理において、悠美が最も気をかけたのが「再び生を受けた少女」であった。
* * *
 その少女の名は新野瞳。
 かつて自らの場所を求め、自らの意思で影魔(エクリプス)となった少女。
 学園の裏で暗躍し、親友に近づく者に嫉妬し踏み躙った少女。
 悠美を奴隷として弄び、存在を踏み躙り全てを捨てさせようとした少女。
 そして、絶望の果てに全てを捨ててまで自分の存在を得ようとして、悠美の手によって惨殺された少女。
 ……その彼女がここにいる。解りあえぬままに、二度と会えない筈だった彼女がここにいる。一人の《存在》が託した、悠美の「本当の願い」に応えたことによって、彼女は再び生の道を歩むことになったのだ。
 悠美が始めて会ったあの時の、ガラス細工のような面影をそのままに―――――――――――――
 あの事件の後、悠美達によって保護されてから、彼女は「事情を知っている」人たちと向き合った。一人は毅然とした、しかし包んでくれるような暖かさをもって接してくれた。一度死ぬ前に垣間見たことのあるその女性は、まるで母親に接しているかのような暖かいぬくもりを感じさせてくれた。
 一人には殺意さえ含まれた憎しみを持って睨まれた。そのまま殴り殺そうかという威圧さえかもし出すほどに。しかし睨まれるだけ睨まれた後、「あんたと同じになるのは御免だ」と言われたるだけにとまり、結局何もしなかった。そして恋人共々、「あんたを許すことはできない。だから何かあるのなら相談しに来い」と一言呟かれるだけに終わった。
 悠美とはその目を持って語り合った。優しくも、意志の強さを持った目を持って。
「また他人を弄ぶのなら私が止める。例えまた貴女に踏み躙られることになろうとも」それを目で語っていた。
 そして恵理子からは、向き合うのに際に軽い平手打ちがついてきた。一言では言い表せない、様々な悲痛の思いがこめられた表情と共に。その言葉を代弁するかのように。
 そして……二人にそのまま抱きしめられた。
 自分が今わの際に垣間見たのと同じ、想いの結晶を流されながら。失いたく無かった者が戻ってきたことを、そのまま迎えれるかのように。
 母のような暖かさをもった女性に見守られながら。
 その夜、三人は夜遅くまで語り合い、「川」になって寝台を共にした…
 再びこの世に戻った次の日はまだ慣れていない体を動かす為に一日は身体を休めた。そしてその翌日、瞳は恵理子に手を引かれ、かつて自分がいた教室の生徒達と向き合った。「自分勝手な連中」と蔑んでいた者達と。
「人間は悪い連中ばかりじゃない。もっと他人と接してほしい。人間のことを分かって欲しいの」そう語る恵理子がもっと他人と向き合うように、まず自分の友達から向き合わせるようにしてくれたのだ。
 また前のように、自分の殻に閉じこもって苦しまないように。友達に一番や二番なんてものは無いことを分かってもらえるように。本当に大切なことは側にいる事だけでなく「心が通じていること」なのだということを、彼女に伝えたい為に。
 悠美も一緒に参加する形で、皆の前に紹介されるように始まったその話会は大いに盛り上がった。忌まわしい記憶を再び消去・操作されたその友人達は、瞳の存在を必要以上に受け入れてくれた。
 そんな場で、かつての陰湿な自分の考えが間違っていたことを改めて思い知らされることになる。瞳はいつの間にか、かつて自分が欲していた「欲望」、その本当の「望み」が叶っていたのである。
 もう一人じゃない。自分を受け入れてくれる者達がいる。だから自分も、閉じこもっていた殻にから飛び出してみよう。
 今も自分の周りに溢れている幸せの中、瞳の人生は新たに始まったのである。
 唯、自分の中で起きた問題が、それに歯止めをかけるかのように彼女を悩ませていた―「……私、ずっとこのままなのかな……」
 再び生を受ける際に彼女何らかの《力》が流れたのか……儚げな少女の身体は、邪悪にして妖美な艶姿をした、影魔の状態のままだったのである。
 儚げな容貌を含んでさえも醸し出される悪魔的な美貌。Fカップもある胸を含む、グラマラスな肢体。そのどれもが他人の目を引く程の魅力を醸し出しており、他の二人の美少女も傍らにいるために、常に人目に付かれていた。
 特に心無い男子からは常に欲情の眼差しで見られるのだ。その視線で体一つ一つを視姦されるように見つめられるのである。気付いた悠美や恵理子が守ってくれるとはいえ、心も喋り方も奥手に戻ってしまった瞳にとっては辛い責め苦であった。
 またそれ以上に問題だったのが、「影魔としての能力」が未だに残っていたことである。昔と比べると比べ物にならないほどに弱体化してはいたが、今だ邪眼の力も使えるし、触手も何本かを自在に召喚して操れた。自分が望めば、以前の煽情的なレザードレスを影から纏うことも出来た。
 それらの全ては使用してゆけば、自分の中で魔力が弱まっていったが……その方法で完全に自分の「力」を消化出来るのは何時になるかは分からないほどの微量な弱体だった。
 また身体能力も、弱体化したとはいえ未だ「進化」した状態であった。そのために茶碗を何度も割ったり、他人とぶつかった時に相手を必要以上に弾き飛んて騒がれたりと、彼女の日常に支障をきたしかねない事も何度か発生していたのである。
「元に……戻りたいな……」
 復学してから二日、瞳は自身の象徴を悲哀に歪ませながら、そう呟いた。
 望むものがここにある今、こんな力はもう必要ない。そして忌み嫌っていたかつての自分に戻りたい。
 その言葉に悠美も恵理子も、彼女達を見守る女性もそれを望み、すぐさまその方法を探す事に協力してくれることになったのである。
 そして、皆がそれを考えた。
 彼女の「欲望」は、既に叶っているのである。本来なら必要のないその姿と力が何故残っているのか。
 それは、まだ叶っていない欲望が残っているから。
 おそらくは彼女自身さえも分からない欲望、「邪悪な影魔」としての欲望がまだ叶えられていないから。
 暫く続いた思考の後、いち早く気付いた悠美によって導き出された答がそれだった。そして、その結論にたどり着いた時…悠美の呟いた言葉は、恵理子はおろか瞳さえも驚愕させた。「新野さん……わたしを嬲ってほしいの。貴方の望むやり方で、好きなだけ虐めてほしい……」
 彼女が言うには「今の彼女の力は彼女自身の力ではなく、蘇えらされた時に無理やり引き出されている影の力」なのだという。
 それは瞳の影、即ち未だ彼女に残っている「歪んだ影の欲望」を充実させれば、自然に消滅するのだと。
 そして彼女の影の欲望とは、かつて陰湿な性格の「自分よりも弱くて惨めに踏み躙られる玩具がその手にある」こと。
 だから以前のように自分を陵辱させる、彼女の力と欲望を自ら受けることによって「何も無い」という絶望と不安と共に、彼女の「欲望」を満たそうというのだ。それは様々な影魔と関わってきて、影魔というものを見てきた彼女だからこそ出せた答だった。
 その提案に恵理子は反対した。
「歪んだ欲望が肥大して、もし戻らなくなったらどうするの!? そんな風にしなくてもゆっくりと……」といったように必死に説得しようとた。
 その根底には、「最愛の親友の二人がそんなふうに踏みにじりあう場面をもう見たくない」という悲哀が込められていた。
 だが「向き合うことに逃げたくない」という悠美の目に込められた決意は固く、逆に恵理子は悠美に説得されてしまったのである。
 それでも恵理子は「その行為に、自分も混ぜて欲しい」ということに関しては了承させた。
「ホラ、陵辱って最愛の人に踏み躙られる方が効果的なんじゃない? だから、ね?」
 しどろもどろに、理論的に言う恵理子らしくないその言葉には、少しでも苦痛に苛まれる親友の傍に居てあげたいという心情が含まれていた。
 そして、互いの想いを確かめ合うかのように手を握り合って見詰め合っていた。
 それを見つめる「母のような」女性は何も言わず、しかし悠美のその決意に賛同していた。瞳にはその胸中は読めなかったが、おそらくは自分の義娘を信頼しているのだろう。ただ、そんな皆の光景を見つめていていた瞳の手を掴んだ。
「大丈夫……あなたもあの中にいても良いんですよ」
 自分の呟こうとした「望み」を代弁するかのように囁き、握り合っている二人の手の上に瞳の手を置いた。
 二人は瞳のほうを向き合うと、微笑みながらそれを受け入れてくれた。
 母のような女性の見守る中、暫く三人はその手を離さなず互いを見詰め合っていた――
――――――――――――
 悠美の提案を受けてから三日後の夕方、瞳は二人をある場所に呼び出した。
 それは、学校内に存在する教会。
 それを聞いたときに、悠美と恵理子は直感した。瞳の出した答、これから始まる陵辱がどんなものになるなるのかということを。
 しかしそれに臆することなく、二人は教会へと向かった。
 たどり着いた教会は、普通の人には見えない、しかし影が覆うような結界が覆われていた。おそらくは、普通の人には中の状態がわからないようにするための配慮なのだろうか。それを見つめながら入った二人の前には、教会の長椅子に座っていた一人の「女性」がいた。
 黒いレザードレスと、目玉を象徴したアクセサリに身を包んだ「魔の姫君」になった瞳が。
 入ってきた門を閉め、恵理子を下がらせる悠美。
 それを確認して、悠美はポケットから取り出した銀のロザリオを翳す。
「光よ! 私に希望の翼を!」
 言葉と共に背中から金色の翼が生え、彼女の変身が始まる。
 制服は光に消え、代わりに彼女を包むのは天使のコスチューム。プラチナブロンドに変化した長髪に、成長してゆく体。それに纏われるボディースーツ、純白の聖衣。
 そして彼女を包む光が消えた時、ロザリオを握り締めた一人の天使が舞い降りる。
「光翼天使ユミエル……ここに、光臨(ブレイクドゥーン)…!」
 ユミエル――影魔を狩る役目を背負った光翼天使へと変身した悠美は光る翼を広げ、低い声でそう宣言する。
 それを確認した瞳は、長椅子から教会の中央部へと立ち上がる。
 それを見たユミエルは魔姫の目と向き合い、何も言わずに、そのまま彼女へ突進する。
 恵理子が驚く間もなく、ユミエルが瞳に迫ろうとした時、ユミエルは急にその両手を引っ張られたような感じがした。それが何かに気付く間もなく、両手が上の方に上げられる。そして、両手を引っ張ったものが瞳の生み出した触手と判断した時には、彼女は両手を上空に吊り上げられていたのである。
 まるで一瞬の出来事だ。恵理子は瞬きすることさえも忘れ、それを魅入っていた。親友同士が向き合った瞬間にユミエルが動き、その次の瞬間に全てが決まっていたのである。以前にも何度も彼女達の戦いを見て来てはいたが、やはり自分が立ち入れる場所ではないということをまざまざと実感されられる。
 立ち尽くしたまま傍観する恵理子を尻目に、瞳はユミエルの前に立った。
 何とか両足は地に付くが、そこからは動けないまでに腕を上げられてしまった半宙吊り状態のユミエルを見て、瞳は微笑む。
「来てくれたんだね……どうなるか分かっていても。嬉しい……」
「エクリプスを狩ることが私の役目だから。それに、約束したから。貴女を……」
「そう。なら私がまず何をするか、貴女なら分かるよね……?」
 そういうと同時に、額のアクセサリーが光りだす。それと同時に、悠美の体が震えだす。
魔姫瞳の持つ邪眼の能力の一つ、他者を発情させる媚薬の力である。
「……あぅん…」
 それを受けたユミエルの身体がくねるように動き出し、急に甘い声が漏れた。様々なエクリプスとの戦いによって「陵辱」された身体は、多少の刺激ですらも敏感に反応するのである。ましてや発情させるための力を注入され続けている状態である。天使の身体が再びマゾヒステックの快感に火照り始めるのは当然のことだった。
 媚薬を含んだ瞳の視線、淫魔の力が天使の身体を突き刺してくる。
 整った顔から無駄毛一つ無い肢体へ、吊るされた両手、太股から足の先。そして乳房のその先、ボディスーツの上からもくっきりと形になってきた乳首。ミニスカートから捲し上げると見える、既に湿り始めているボディスーツ下の先端部分。
「ふぁぁ……あ…あ……んぅぅ。やぁぁ…そんなに、見ないで……」
 視姦によるレイプとも呼べるその行為に、身体の火照り以上に、ユミエルの顔が高潮してゆく。こんな恥ずかしがり屋の部分も、彼女の魅力の一つなのであるが、同時に可虐心をそそられるのである。
「こんな反応も相変わらずなのね……本当にそそられるわ。今の私でも…こんなに…」
 スカートの前部分をビリッと破り捨て、ショーツ越しにデルタ部分、湿ってきた部分に淫魔力を注ぎ込む。
「はぁんっ! あぁ、新野、さん……この程度じゃ……あ……私…まだ…あぁっ!」
 とめどなく溢れ始めてくる快感に必死に抗いながら、ユミエルは瞳に言葉を紡いできた。
「そうね…そろそろ始めるね。この前は『あれ』に磔た時の場面は見せていなかったね…今日はしっかりと見せ付けてあげる……ね? 恵理子…」
 そう呟くと同時に瞳の視線がユミエルから逸れる。既に傍にまで来ていた恵理子に向けられていた。
「行こう、恵理子…」
「………うん」
 触手を両手に絡ませたまま、ゆっくり降ろした天使を支え、瞳は恵理子と共に『あれ』へと向かっていた。
「悠美……一緒にいてあげるから……負けないで」
* * *
 瞳が求めた「陵辱」、それはかつてユミエルが受けた十字架に磔てからの陵辱であった。曰く、「貴女を弄んだものの中で、あれが最高に楽しかったから…」ということなのだそうだ。
 それをユミエルは快く受け入れたのである。
 ただ先程飛び出したのは、あくまで『影魔には屈しない』という自らの決意の現れであった。
 ここに来るまでにそう誓っていた。
 どんなに身体を踏み躙られても、心を踏み躙られても、彼女の「闇」には屈しないと。
 しかし、ユミエルは思い違いをしていた。
これから始まる陵辱が、あの時と同じ、絶望によって踏み躙られる暴力による行為なのだだと。そして、それならきっと耐えられた――だが。
「ああぁぁ……こんなぁ。はぁんんっ、こ、こんなのってぇ……」
 優しかった。
 身体を弄ぶその全てが優しかった。
 十字架に磔られたその趣向ややり方こそ、以前に行われたものを擬えるものであり、大切な者を踏み躙られるものであるはずだった。だが、そこから自分の身体を弄ぶその行為は、全てが優しく、そして甘美なものだったのである。
 恵理子は言うに及ばず、瞳の行為の中にも、加虐的な責めはあっても、踏み躙るような憎しみや暴力を行う気など微塵も無かったのだ。
 そんな甘い誘惑に、自ら用意していた覚悟は空回りされ、次第に呑まれてゆく。
 そして二人に耳を、最も弱い部分に口付けされたときに、彼女の戦う意思は崩壊してしまった。
 本来の「彼女の闇を受け入れる」という自らに課した使命を忘れ、親友とのいけない遊戯に飲まれてしまったのである。 そして、結果的にせよ「再び瞳に屈する」寸前に追い込まれる形を持って、現在に至る――
――――――――――――――――――――――――
「あらあら、まぁまぁ。悠美ったら……」
 月夜のあかりが地を差込み照らし始める中、そのいけない光景を鏡越しに覗いていた一人のシスターらしき人物がそう呟いた。
 自らの修道女の衣服を変化させた紅き衣を纏っていたその者は、ユミエルと同じ神聖さを醸し出していた。大きな槍のようなロッドを片手に抱え、背中からは二対となっている金色の翼を羽ばたかせ、宙に浮いている。
 そして全てを包むような優しさの中にも、その表情にはちょっと呆けた雰囲気が含まれていた。
 彼女こそ、悠美の育ての母であり先代の「光翼天使マリエル」、すなわち羽連真理その人である。一連の事件の時に悠美に付き添ってからというもの、共に学園に滞在するようになったのである。流石に自分が寮に住まうわけには行かなかったので、この教会を「住まわせてもらう」ことに「してもらった」のである。
 それからこの数日、娘達の事を温かく見守りながら、夜は悠美と共にエクリプスの気配がないかを探りに出向いていたのである。
 そして今日、悠美たちがこの教会を使用することを聞いた彼女はいつもよりも早く出かけ……その日に限ってエクリプスの気配を察知。そのまま交戦に入る。
 その時は不覚にも身体を弄ばれはしたが、その影魔が自らの身体に夢中になり過ぎていたのを逆手にとり、事なきを得る事に成功。そのまま帰還してきたのである。
 今この教会が悠美のお友達の発した結界が張られているのは、交代で出かける前だった真理も知っていた。しかし出かける前に比べると、相当に弱まっている。おそらく彼女達の行為がこのまま続けば、もうすぐこの結界も消滅するだろう。
 そしてそれは悠美の考えが正しかったこと、そしてそのお友達が完全に「救われる」ことを意味する。
 あとはこの場を誰かが見に来たとしても、自分の「光の羽」で記憶を操作すれば良い。
 ただ……見たところ今の悠美は、どうにも快楽によがり狂っている状態だ。
 いくらお友達が気持ち良くしてくれているとはいえ、自分の理念を捨ててしまっている今の状態には少々呆れてしまう。だが友達と戯れている今の娘を邪魔したくはなかった。寧ろ、幸せになっていることが嬉しかった。
 だからここは、悠美のことを温かく見守っていてあげよう。どんな結果になるにせよ、彼女の幸せに繋がってゆくだろうから。
「それにしても、本当に凄いのね……。身体を弄ばれているってこういうことなのかしら…」
 娘の顔を見てほっとしたのか、マリエルの関心はその行為に向き始めていた。
 悠美が今受けている「陵辱」はかつて彼女が受けたものを擬えているもの出会ったが、その行為の内容を、実は映像越しに見ていたのだ。しかしそれを今度はガラス越しに、リアルな陵辱を見ることになるとは。
(あぁ……す、すごいわ……)
 ……悠美はあんなにあんなに幸せそうによがっている。身体の隅々にまで弄ばれて何度も絶頂を迎えさせられている。その証が、その嬌声がガラス越しからも聞こえてくる。
 そんな声を聞いていたら……
「あ、あら。わたし、何を考えて……」
 娘は「戦っている」のだ。
 いくら幸せの最中にいるといっても、この痴態に便乗するかのように自分も…そんないけない遊戯に流されてしまうのは、人としてどうなのだろうか。
 今は番人として、終りが来るまで見守るのが今の自分がなすべき事の筈だ。
「う……で、でも……」
 だがどんなに頭を振り上げても、一度聞き入ってしまった娘の嬌声が耳から離れない。それに反応するかのように、自分の身体がその場から離れることが出来ない。それどころか、何故か自らの身体が再び火照り始めてきたのがわかってきた。もしかしたら…先程の戦いで影魔に弄ばれてしまった身体が、娘達の痴態に共鳴してしまったのだろうか。
『スタ…カタ』
「あ、あらぁ……? ど、どうしましょう……わたし……」
 思わず足が地に付き、そのまま膝も地に付いてしまう。マリエルは力なくその場にへたり込むと、ガラスがある壁にそのままもたれてしまう。
  ――あぁ…ぁ、いけないわ……でも、身体が…こんな……
 紅き手袋がはめられた手がゆっくりと身体の方へと向かおうとしている。その行為に戸惑う自制心…思わぬ身体の裏切りに葛藤しながら、必死にその手を引き剥がそうとする…今にも身体を掴もうとする…引き剥がそうと……
 そう、今ここにおいても天使の…自分自身との戦いが始まろうとしていたのである。
 だからこそなのだろうか、彼女は教会に蠢き始めたもう一つの人の影に気付かなかった―
――――――――――――――――――――――――
「イッ……イクうぅう…っひぃぁぁぁっっ!!」
 もうこれで何度彼女は絶頂に達したのであろうか…随分と苛めることを楽しんだ気がする。
 彼女が惨めによがり狂う度、自らの心が喜んだ。彼女がいやらしくも可愛い声で鳴くたび、もっと鳴かせて上げたい、もっと喜んで欲しいと願って身体を弄んだ。
 しかしそれももうすぐ終わるようだ。
 もう天使様の意識は、このまま失ってしまいそうな程にに弱々しくなってしまっている。
 なら……このまま天国に「逝かせて」あげよう。
 もう十分自分も楽しんだ。そして自分の心の中も喜びと何かしらの解放感をその身に感じる。まだ自分の心にはまだ完全には晴れないが、それにはまた後日にすればいい。
 そろそろ、楽にしてあげよう。
(私もこんなふうに考えられるんだ……ううん、自分が考えようとしなかっただけが……)
 以前の自分なら微塵にも考えなかった想いに心で苦笑しながら、向き合う場所にいた恵理子と向き合った。目と向き合った恵理子と、心が通じた。どうやら彼女もユミエルを楽にしてあげたいようだ。
 それを察した二人は、天使様を気持ちよくさせているその両手に力を込め、一気に奥底まで突き上げようとして―「…………お姉ちゃん……」
 どこからともなく、消えそうな小さい声が教会内に響いてきた。

 

 

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