影魔の法廷

「やれやれ、これで13件目か……」
 立ち入り禁止のテープとブルーシートが貼られた廃墟の一角、中年の刑事はため息をついた。
「被害者の年齢は24歳、近くのオフィスに勤務しているOLで、おととい夕方から連絡が取れなくなっていたようです」
「帰り道に襲われたってことか。それにしたって……」
 遺体を一瞥して言う。
「こんな異常なホトケさんが、今月に入ってもう9人だぜ。それもこのビルの周りだけでだ。一体この地区はどうなってんだ」
 全身の体液を抜かれカラカラに乾ききった死体。しかも、その死に顔に張り付いているのはどう見ても苦痛ではなく愉悦だ。
「どんな殺され方すりゃこんな顔ができるんだか……どうした?」
「先ほどから、こちらを覗いていた不審者を確保しました」
「不審者? ……分かった、すぐ行く」
 ブルーシートをくぐると、初秋の陽光が目に刺さる。シートの中の辛気臭い空気を吐き出し、涼しい新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込むと少しは気が晴れた。
「この子です、警部」
 若い警官が確保された不審者を突き出してきた。幼さの残る顔立ちにどこかの学校のブレザー、セミロングの黒髪を特徴的な水色のリボンで止めている。
「その制服は……この近くの学校じゃないな。最近転入してきたのか?」
「え……あ、はい」
 ややどもりがちに答える少女。
「そうだろうな。なぜ現場を見ていた? ここにゃあお嬢ちゃんの見て楽しい物なんかないだろう?」
「それは……」
 答えに窮し、上目遣いに刑事の顔を見上げる。
「答えられないか? まあいい。最近この辺は物騒だから、あんまり近寄らんようにな」
「はい……」
「よし、放してやれ」
 若い警官に手を引かれ、少女は現場を後にする。
(まったく、最近の若い娘の趣味は分からんな)
 心の中でつぶやきながら、タバコに火をつけた。
 その日の夕方。
(やれやれ、困ったときの神頼みとはよく言ったもんだぜ)
 刑事が訪れたのは小さな教会だった。小さいながらも内装の手入れは行き届いている。
「シスター、ちょっといいですかい?」
「ええ、お気軽にどうぞ。……懺悔室をご利用になりますか?」
「いや、ここで結構。さて、どこから相談したモノやら……」
  長いすに腰掛けた刑事の隣に、修道服に身を包んだシスターが佇む。
「やはり、件の連続殺人ですか?」
「ええ、まあそうなんですがね……」
 珍しく言葉を濁す刑事。
「俺も刑事やって長いですからね、そりゃいろんなホトケさんを見てきましたよ。でもね、シスター。全身の体液が抜かれてるなんて異常なヤマ、こりゃ人間の仕業とは到底思えねェんです」
「………………」
 黙って刑事の話に耳を傾けるシスター。だが、その目は柔和なシスターのそれではなく、鋭敏な狩人の目になっていた。
「あ、すいませんねぇ、こんなこと聞かせちまって」
「いえ、お気になさらず。それが私の仕事ですから、言って楽になってくださいな」
 話が変わった瞬間、シスターの顔も元の穏やかな表情に戻っていた。
「そうですかい? まあ、だいぶ気は楽になりましたよ。そいじゃあ」
「どうぞお気をつけて……」
 刑事が去っていったのを見届けてから、
「悠美、どう思う?」
 教会の奥の部屋で休んでいた少女に声をかける。
「やっぱり……エクリプスだと思う。お昼に現場に行ったとき、かすかだけどエクリプスの気配がしたから……だから」
「そうね……」
「ママ、わたしもう一回現場に行ってみるわ」
 幼さの残る声にはしかし昼間のような弱弱しさは微塵もなく、強い決意に満ちていた。
「気をつけてね、悠美」
「うん」
 そして、少女――羽連悠美は夜の街へと足を踏み出した。
(でもそう言えば、わたしの顔ってお昼に割れちゃってるのよね……あの刑事さんもまだいるかもしれないし……)
 扉の前で数秒間悩んだ末……
(よし……変身してから行こう!)
「聖なる光よ! わたしに、希望の翼を!」
 人目につかない路地裏に駆け込むと、白銀に輝くロザリオをかざし、聖なる宣言を紡ぎだす!
 少女の華奢な体が純白の閃光に包まれ、次の瞬間その光が翼の形に集束して行く。輝きが治まったとき、そこに立っていたのは白い光の翼を持つ天使だった。
「光翼天使ユミエル……ここに、光臨!」
 高らかな宣言とともに、一対の翼が力強く羽ばたく。
「やっぱり居るわね、エクリプス」
 天使の姿だとより強く感じられるエクリプスの気配。これ以上不幸な被害者を出さないために、翼ある少女は空を翔ける。
 そのころ、現場の廃墟では……
「あなたが連続ミイラ事件の捜査指揮官ですね?」
 例の刑事の前に現れたのは、二人組の女だった。一人は豊満な肢体を赤いタイトスカートとジャケットに押し込めた妙齢の女性。もう一人は黒のタイトミニに青のチューブトップを着た、ポニーテールの少女。年のころは……昼間に見た水色リボンの少女と同じぐらいだろうか、体つきはこちらの方がややしっかりしている。健康的な小麦色の肌に八重歯が光り、なんとも活発そうな娘だ。
「私、こういう者ですの」
 赤いジャケットの女性が名刺を差し出す。
「公安局……超常犯罪捜査官……葦原厳華?」
「はい、そしてこちらが」
「公安局超常犯罪準捜査官、菊水雅です!」
 ポニーテールの少女が元気よく答える。
「それで、その公安局の捜査官がなんだってこんなところに?」
 突然の来訪者をいぶかしむ刑事。
「あら、完全にミイラ化した死体が13体、それも全てこの廃ビルの周りで。これが超常犯罪でなくて何ですの? そうそう、この件の指揮権はこちらに頂きますわ」
「そりゃまた急な話で。俺じゃ力不足だとでも?」
 おどけた調子で答える刑事。しかし、
「その通りですわ。この事件、裏には間違いなくエクリプスが関わっています」
「エクリプス? ……まさか」
 急に刑事の顔色が曇る。
「数ヶ月前に起きた御座市の崩壊事件。あの一件以降、エクリプスによる猟奇的事件が多発するようになりましたから。指令書はこちらです」
「確かに……」
 思い当たるフシはある。およそ人間では為し得ないような殺し方、そして異様な笑みを浮かべた死体。
「では、一旦警官もみんな引き上げてくださいな。ここは……戦場ですから」
 その言葉が言い終わらないうちに、周囲の空気が一変する。
「な、なんだこの……どす黒いってぇか……」
「エクリプスが自分の空間を広げているのね。すぐに引き上げて!」
「りょ、了解! 撤収だ、急げ!!」
 残っていた警官たちもあわてて敷地から逃げ出して来た。直後、

 ィィィィィイイイイインッッ!!!

 白い光が夜空を切り裂き、廃ビルに向かってまっすぐに突っ込んでくる。
「あれは……!」
「光翼天使……ね。さ、私たちも準備しましょう」
「了解!」
 警官その他の普通の人間が近くに居なくなったのを確かめてから、雅がおもむろに荷物から一振りの太刀を取り出す。
「影魔・顕身!」
 居合い抜きと同時に、変身のキーワードを発動する!
「おおおおおおおっ!」
 着衣がはじけ飛び、少女の肌が闇夜に踊る。その宵闇よりも深い影が雅の身体を包みこみ、その肉体を人間から影魔へと射影してゆく。小麦色の肌が青紫に染まり、血の色に輝く紋様が刻まれた。下半身が爆発的に膨張し、厚い毛皮に覆われた獣の胴体を形作る。その胴体から、獅子、龍、山羊の頭が生え、蛇の尾が鎌首をもたげて獲物を狙う。最後に獣の背から闇色の翼が展開され、影魔への変化が完了した。
「キメラエクリプス・ジャスティス! 行きます!」
 影の殻を内側から砕き、正義のエクリプスが解き放たれる。
『ゴォォォオオオオッッ!!!!』
 獅子の首が雄たけびを上げると同時に、影の獣は廃墟へとその身を躍らせた。それを見届けてから、
「それじゃあ、私は人払いでもしておきますか」
 厳華の影がざわり、と蠢き、燎原の炎のごとく周囲を侵食していく。全てを呑み込むがごとき無明の結界が、厳華の影によって廃墟全体に張り巡らされた。
「さて、しっかりやってきなさいよ、キメラエクリプス……雅」
 廃墟に向ける眼差しは、雅への信頼に満ちていた。その廃墟の中では……
「く……なんて濃い影……でも……甘い香り……?」
 濃密な影魔の瘴気に混じる一筋の甘い香気。その匂いに導かれ、ユミエルは影魔のテリトリーと化した廃墟の中を進んでいく。このとき既に、彼女はエクリプスの罠にかかっていた。香りを追いかけるのに夢中になり、そして……
「きゃぁっ……何……落とし穴!?」
 廃墟に穿たれた巨大なすり鉢状の穴。穴の表面はヌメヌメとした赤黒い肉で覆われ、その中央には……
「あれが……あなたがこの事件の犯人ね!」
 穴の底から顔を覗かせていたのは、さながら巨大なアリジゴクといった見た目のエクリプスだ。
『ククク、また獲物がかかったか。まったく女ってのは騙しやすい』
「欲望のままに何人もの命を……幸せを奪った罪、許すわけにはいかない!」
 毅然とした口調で宣告する光翼天使。だが
『罪? クックック、罪だと? 俺を有罪にするような証拠があるのか? あん?』
「……さっき自分で獲物がかかったって言ったじゃない!」
『加害者の証言は証拠にならねぇんだよ、近代法の基礎だろうが。俺がやったと立証できなきゃ、無実でなくとも無罪なんだよ!』
 吐き捨てるようにエクリプスが叫び、
「ッ!?」
 見た目からは想像もつかないような速さで大顎がユミエルに襲いかかる!
『ちっ、避けたか』
 間一髪、空中に逃げたユミエルを忌々しげに見上げるエクリプス。
「人の法があなたを無罪にするのなら、人外の法であなたを断罪するまでよ!」
 言葉とともにロザリオから光が溢れだし、裁きの剣を創り出す。
「はあああああああっ!!」
 裂帛の気合とともに繰り出される神速の斬撃がアリジゴク――アントリオンエクリプスの外骨格を削って行く……が、
『効かねぇな!』
「なっ……っぐぁっ!」
 あらぬ所からの一撃をもらい、バランスを崩すユミエル。見れば、巣穴の肉壁から無数の触手が生え、空中の天使に狙いを定めている。
(数が多すぎる……一気に片付けるしかないわね!)
 一旦天井付近まで退避し、剣を胸の前で正眼に構え、精神(こころ)を、力を集中する。
「――星よ集え、影を切り裂く光となれ!」
 深淵の影を切り裂き、無数の光芒が構えた剣に集束して行く。それは、地上に降り注ぐ流星雨のようにも見えた。
「切り裂け、閃光! スターライト・ブレイカーーーーーーッ!!」
 光の塊をまとって巨大化した剣を振りかぶり、垂直になぎ払う。放たれた光の刃は触手を焼き尽くし、巣穴の壁を焦がし、アントリオンエクリプスに肉薄する!
『な……うぉおっ!?』
「やった……?」
 光が治まった後には、焼け焦げた触手と巨大な穴しか残されていなかった。肉と血の焦げる臭いが一面に充満している。
「っふぅ……」
 今の一撃で相当消耗したのか、ゆっくりと床に降りてくるユミエル。そこに、
『やりやがったな、今のは痛かったぞ!』
 怒気を含んだ声とともに、穴の底から数本の触手が襲いかかる!
「ッ……しまっ……!」
 あわてて剣を振るうも、消耗した身体では触手の動きに追いつくことすらできない。まともな抵抗も出来ぬまま、天使の体は触手に絡め捕られてしまった。
『この小娘が……じっくり嬲ってから一滴残らず血を絞ってやる!』
「くっ……まだよ、ルミナス・エクスプローーードッ!」
 残り僅かな力を振り絞り、周囲に浄化の光を解き放つ。何とか自分を縛る触手を焼き払い、再び天井へと退避するが……
『逃がすかよ!』
 アントリオンエクリプスの口から妖しげな白い液体が吐き出される。
「きゃぁッ……バランスが!?」
 粘液が翼に絡み付き、浮力のバランスを奪い取る。その隙を逃さず、温存していたらしき触手がユミエルの身体を捕らえ打ち据えた。
「ギャァァアッ……ぐ……ァアアァァッ」
『まだまだだ! 触手焼かれた痛みはこんなもんじゃねぇぞ!』
 一撃ごとに白いコスチュームが破れ、黒いアンダーが裂け、肌に赤い筋が刻まれる。
「この……ぐアァァァァアアッ!」
 それでもなお、エクリプスのいる穴の奥を睨みつけるユミエル。全身鞭打ちの痕にまみれ、所によっては内出血で赤を通り過ぎて紫に変色しているが……
『まだそんな目が出来るか、ならこれでどうだ!』
 急に触手がぬめりを帯び……鞭打ちの後をぬるりと舐める。
「っ……あ……なに……っん……ッ!」
 苦痛の後に来るヌルい感触は、どんな媚薬よりも効果的にユミエルの抵抗力を奪っていた。
『やっぱりこっちの方が好みか、淫乱天使が』
「うく……っぁあん……ギャゥウッ!」
 時折、触手が紫になった部分に押し付けられ、傷口を広げる。うっすらと滲んだ血を触手たちがうまそうに舐めていった。
「ふーー、ふーー、……こ……ギャァアアッ! ……ん……あぁっ……!」
 ランダムに襲いかかってくる苦痛と快楽。だがユミエルの中では、そのどちらもが快感に変わりつつあった。心なしか翼もくたり、と萎え、鋭かった眼光もいまは被虐に鈍ってきている。
『くっくっく、痛ぇか? だがてめぇのしたことはこの程度じゃ済まされねぇぜ』
 巣穴からエクリプスが顔を出す。外骨格は焼け爛れ、片目を潰された醜い姿に成り果ててなお、天使を嬲る欲望は消え去ってはいない。
「この……放しなさ……っギャァあっッ!」
 傷口から溢れた血をざらざらした触手で舐められ、苦悶と悦楽の入り混じった喘ぎをあげる光翼天使。
『さあ、もっと体液を垂れ流せ!』
 ユミエルの血を舐めて回復したのか、触手が数を増して囚われの天使に迫り、全身を嬲り尽くす。コスチュームの上からのもどかしい愛撫に全身を弄ばれて、ユミエルの身体は更なる責めを期待してしまう。肌を高速で擦られることで出来る敏感な傷、そこに粘液を塗りつけられると、その部分から弾けるような快楽電流が全身に広がっていくのだ。
「ッくぅ……こ……の……きゃんッ」
 宙に浮いていた体が巣穴に引きずり込まれ、肉粘膜でできた壁に押し付けられた。ぶよぶよした不気味な感触に濃縮された牡のニオイ、そして心拍のような周期的な振動がユミエルの身体を情欲に滾らせていく。ぬるり、と濃い粘液膜が糸を引き、まるでアメーバのように体液の滲む傷口から体内へと染み込んで行った。
「熱っ……なに……これぇっ……」
 全身が熱を帯び、汗が溢れる。下腹部がびくんと脈動したかと思うと、蕩けた蜜穴から愛液がごぷごぷと溢れ、白いショーツと黒のインナーを濡らしていく。その体液を舐め啜り、アントリオンエクリプスの傷がどんどん回復する。
「や……らめ……力がぁ……っ」
 体液と一緒に体力や精神力までも吸い取られているのか、ユミエルの動きがどんどん鈍くなっていく。それでも、体力と引き換えに与えられる快楽には激しく反応し、はしたなく体液を垂れ流していく。唇を舐める触手にしゃぶりついて唾液を舐めとらせ、それと引き換えの触手粘液を喜んで飲み下す光翼天使。
『さて、そろそろ頂くとしようか』
 アントリオンエクリプスの触手が変形し、人の小指ほどの太さの注射針となる。その針がゆっくりとユミエルの太股、太い静脈の走る所へと迫って行く。今更ながらユミエルは悟った。この針で血を吸い尽くした結果が、あの異常な死体なのだと。だが、彼女に逃れる術はおろか、抵抗する意思すら残ってはいない。それどころか、血を、体液を吸われることに対して異常な興奮と期待を覚えていた。
『天使の血はさぞ力がつくだろう、くっくっく……』
「シューティングシザーーーーッ!」
 突如として響き渡る女の声。同時に、空間を歪ませて出現した赤い光が吸血触手を焼き切っていく。
「あ……なに……」
『ちっ……誰だ、俺の飯を邪魔する奴ぁ!』
 崩れ落ちた廃墟の壁、ユミエルたちからは逆光でよくは見えない。しかしそれは、確かに四足獣の姿をしていた。巨大な獣の体からは、獅子、龍、山羊の首が生え、その眼は深い闇の中でも爛々と輝いている。その上からは人間の女の体が生え、強い意思の元に下半身の獣を律していた。
「間一髪……ってとこね、大丈夫? 悠美ちゃん」
「え……あ……」
 記憶を探る。確かに聞いたことのある声、優しく強い声。その声の主は
「キメラエクリプス!?」
「ふふん、おしいわね。いまのあたしは……」
 ユミエルとアントリオンエクリプスの間に割ってはいる雅。
「正義のエクリプス、キメラエクリプス・ジャスティス!」
『誰かと思えば、てめぇもエクリプスじゃねぇか! なぜ天使をかばう!』
 忌々しげに吐き捨てるアントリオンエクリプス。対して、キメラエクリプスは
「友達を助けにきた。それがどうかしたの?」
『な……友達だと、ふざけんな! よくも俺の楽しい時間を邪魔してくれたな!』
 怒りにまかせて触手を振るうアントリオンエクリプス。だが、
「遅いわね!」
 その全てがキメラエクリプスの触手と鎖に貫かれ、文字通り釘付けにされていた。
『くそっ、痛てぇじゃねえか! この裏切り者がぁっ!!』
 触手を封じられたアントリオンエクリプスの大顎がキメラエクリプスに迫る! しかし、
「相手をよく見たほうがいいわよ。特に、初めて見る相手はね」
 キメラエクリプスの獅子の顎が、アントリオンエクリプスの大顎の片割れを文字通り食い止めていた。もう片方は、手にした太刀で受け止められている。
『ッ……畜生、離しやがれ!』
「そう言った人間を、お前は何人殺したの?」
雅の顔が嗜虐的に笑い、
『……グアァアァァァアアアアッ!!!!』
 あっさりと、アントリオンエクリプスの大顎は噛み砕かれ、断ち切られていた。
「思ったより脆かったわね。粉末ハイスぐらい丈夫だと思ってたけど」
 最大の武器を奪われ苦痛に悶えるアントリオンエクリプスを尻目に、雅は倒れた悠美のそばへ寄り、
「大丈夫? 悠美ちゃん」
 柔らかな触手で抱き起こす。
「あ……ありがと……んっ……ダメ、力が……」
「……そうだ、エンジェルエクリプスを出してよ。そしたら、あたしの力分けてあげられるから」
「え……でも……」
 エンジェルエクリプス、という単語を聞いて躊躇うユミエル。無理もない、かつてキメラエクリプスは彼女の影、エンジェルエクリプスを付け狙い、その血肉を喰らおうとしたのだ。だが……
「うん、分かった! 信じるわ、雅ちゃん!」
 キメラエクリプスは自分が救済した。それに……雅は悠美の友達だから。ユミエルは自分の影を解き放つ!
「影翼……解放!」
 ユミエルの影がざわめいたかと思うと、次の瞬間には彼女の全身を自らの影が押し包んでいた。その影の中、光翼天使の清楚なコスチュームが影翼天使の扇情的なそれへと変形する。白い翼は墨を流したように影の色に染まり、圧倒的な開放感がユミエルの心を洗い流していった。
「影翼天使ユミエル……ここに、光臨!」
「ん、じゃあ、あたしのエネルギー受け取って!」
 キメラエクリプスは翼を大きく広げると、膨大な量の影をユミエルに向かって放射した。
「あんっ……ふ……なにこれぇ……っくぁあんっ!」
 エネルギーを注ぎ込まれる未知の感触。ユミエルの身体は、それを快楽と認識していた。全身がうっすらと汗ばみ、下腹部に熱い塊が産まれる。
「体……熱ぅ……ゃああっ」
「もうおなかいっぱい?」
 エネルギーを送るのを止めると同時に、未知の快楽も一旦は治まる。だが、全身に残る甘い感覚は残ったままだ。
「あ、ありがと、雅ちゃん……さっきの、すごく気持ちよかったんだけど……」
 立ち上がったユミエルに、キメラエクリプスはニヤリと笑って、
「そりゃそうよ、だって悠美ちゃん、精液注がれるだけでイっちゃうぐらいに敏感でエッチだもんね」
「ッ……そんなことないわよ!」
 思わず顔を真っ赤にして反論する影翼天使。
「あれ? じゃあ前にあたしが……」
 『く……てめえら生きて帰れると思うなよ!』
怒り狂った声とともに、無数の触手が二人に襲いかかる。
「そーいえば、まだ止め刺してなかったっけ。じゃあ悠美ちゃん、続きは後でね」
「なによ続きって!」
 ユミエルの反論には耳を貸さず、キメラエクリプスは戦闘に集中する。ユミエルも仕方なくそれに習った。
(すごい……キメラエクリプス、前に戦ったときより速い! わたしも、負けてられないわね!)
 高速で突き出される触手の隙間を縫って本体に肉薄し、
「貫け、スパイラル・レクイエム!」
 必殺の一撃をアントリオンエクリプスに叩きこむ。
「くっ、硬い!」
「退いて! イロウジョンブレス!」
 ユミエルが下がった直後、キメラエクリプスが腐食性のブレスを叩きつける。その地点に、
「スパイラル・レクイエム!」
 再びユミエルの必殺技が叩きこまれた。
『ぐぉあああああああっっっ!!!』
 流石にこれには外骨格が耐えられず、内臓を抉られる痛みに悶えるアントリオンエクリプス。制御を失った触手が暴れ回り、二人とも思わず後ろに下がる。
『切り裂け、ギルティックサーキュラー!』
二人同時に放った羽刃と鎖の竜巻がその触手を細切れに切り刻み、アントリオンエクリプスの抵抗を削って行く。
「悠美ちゃん、止めいくよ!」
「うん、分かってる!」
 鉤爪を剣のようにそろえ、影魔の魔力を集束させていく。黒い翼からも影が溢れだし、暗黒のオーラを纏った堕天使が禍々しい闇を湛えた左手を高々と掲げる。その後ろで、キメラエクリプスが必殺の一撃をチャージしている。影で描いた巨大な逆十字、そこから溢れる毒々しい虹色の光が一直線にユミエルの掲げた左腕へと伸びる。
「アストラル・リムーバーーーーーッ!」
 相手の精神を破壊するための邪悪な虹が、ユミエルの鉤爪剣へと集束し、巨大な虹色の刃を成す!
「必殺! ジェノサイド……イレイザーーーーーーーッ!!!」
 技名と同時に、翼に蓄えたオーラを爆発的に放射、恐るべき速さで虹色の刃をアントリオンエクリプスに叩きつける!
『うごごごご……お……のれ……グ……ズ……ギャアアアアアアム!』
 断末魔の叫びを上げて崩れ落ちるアントリオンエクリプス。その死骸は、ジェノサイドイレイザーの闇に飲み込まれ消滅して行く。
「ふう、片付いたわね」
「うん、ありがと、雅ちゃん。来てくれなかったら、今頃は……んァッ!?」
 突然襲ってきた熱い疼きに膝をつく影翼天使。
「え……あ、なに……」
 はっとしてキメラエクリプスの方を見る。
「続き。しよっか」
 雅の顔には淫蕩な笑みが浮かんでいた。
「続きって、な……ぁんっ」
 いつの間にか伸びていた触手がユミエルの身体を捕らえ、コスチュームをぬるぬると汚していた。火照っていたユミエルの身体は、それだけでその気になってしまう。
「先に挿れる? それとも挿れられる?」
 雅の半身の付け根には、すっかり濡れた肉壷が花開いていた。指で陰唇を押し広げ、ユミエルを誘っている。一方、獣の体からは、明らかに巨大すぎる肉槍が脈打っていた。三本のペニスを纏めて固めたようなシルエットの陰茎の表面には回転する瘤がランダムに並び、その隙間には小指ほどの太さの触手がうねっている。鈴口は三角形に開いてぼたぼたと先走りを垂れ流し、射精の量を物語っていた。長さもユミエルの太股ほどはある。
「……こんなの無理ぃっ……それに、前よりおっきいよね」
「鍛えてるからね。大丈夫、エクリプスの力をちょっとだけ解放すれば、これぐらい余裕だよ」
「力を……解放って……」
「悠美ちゃんなら出来るよ。大丈夫」
 先にユミエルを犯すことは確定なのか、4つ這いになったユミエルの上にキメラエクリプスがのしかかる。尻の上に巨大な陰茎が触れると、改めてその重さと熱さが実感できた。濃厚な先走りが背中に垂れ、それが熱くて重たいペニスで塗り広げられる。
「ん……行くよ、準備いい?」
「あんっ……待って、力を……」
(お願い、エンジェルエクリプス。もう少しだけ、力を貸して)
 普段の影翼天使より少しだけ、影魔の力を縛る軛を緩める。とたんに、さっきまでより激しい性的衝動に駆られた。押さえ込んでいたエクリプスの欲望が、性欲という形で現れたらしい。
「いいよ、雅ちゃん……来て……」
 すでに愛液と先走りでヌルヌルになった淫裂を両手で押し広げ、キメラエクリプスの剛根を胎内に受け入れるユミエル。
「あっ……ぎぃ……きつ……んはぁっ……」
 とてつもない圧迫感と快感。被虐感と快楽。自分の身体をキメラエクリプスに占領されている感触。それら全てがユミエルの理性を刈り取っていく。
 気がつけば、ユミエルは自ら腰を振り、肉床に胸を押しつけ擦りつけていた。ペニスに生えた瘤が回転し、敏感な粘膜をどんどん抉っていく。膣襞の一枚一枚を陰茎に生えた触手が掘り起こし、愛液と先走りを混ぜて敏感に磨き上げる。
「あはっ、やっぱ悠美ちゃんの膣内、熱くてきつくて最高ぉっ!」
 心底嬉しそうな雅の声。その声を聞いて、悠美も嬉しくなってきた。キメラエクリプス――菊水雅を、自分の友達を幸せにしている。それだけで、ユミエルの天使としての心は満たされていく。
「あぁっ、悠美ちゃんっ! 膣内で、膣内で射精しちゃぅうっっ!!」
 巨大陰茎がひときわ大きく膨れ、ユミエルの胎内に粘凋な液体と、直径4mmほどのツブツブを流し込む。
「あふぅんっ……ツブツブがぁっ……これ好きぃっ……」
 腰を艶めかしく動かして、膣内射精されたツブツブ……キメラエクリプスの卵子を膣内に広げていくユミエル。欲望丸出しで快楽を求めるその姿は、どこから見ても影翼天使ではなくエンジェルエクリプスだった。
「はぁ、はぁ、タマゴでいっぱいのおま●こにズコズコするの、気持ちいいよね」
 注ぎ込まれた卵子の表面は弾力性に富んだタンパク質で覆われている。だから、膣肉と陰茎の間でまるでベアリングボールのように回転して、両方にとんでもない快楽をもたらすことになるのだ。
「んぅ……雅ちゃん、もっと奥まで、奥まで欲しいのぉ」
 ユミエルはさらに深く抉ってもらおうと、ぐりぐりと腰をペニスに押し付ける。影魔の力を使って子宮口を広げ、女のコの一番大事な所にキメラエクリプスの剛直を導いた。
「あぅんっ……来たぁぁ……」
「すご……悠美ちゃんの子宮ぅ……すっごく熱くてトロトロだぁ……」
 キメラエクリプスの亀頭とユミエルの子宮、サイズがぴったりと合わさって密着し、双方とも激しくイってしまった。
(雅ちゃん……そんなに気持ちいいなら……わたしも試してみたい!)
「あ、今度は悠美ちゃんが挿れてみる?」
 そう言うと、ユミエルの膣内から巨大陰茎を一気に引き抜いた!
「っきゃぁああああっ!!」
 内臓が裏返るかと思うほどの衝撃に、気を失うユミエル。もっとも、次の瞬間には性欲を満たすために意識を取り戻しているのだが。
 陰茎を抜かれた肉洞からは、次から次へと膣内射精されたタマゴが溢れてくる。ユミエルはそれを逃がさないように、ぴったりとコスチュームで押さえ込んだ。
「さ、あたしは準備OKだよ」
 キメラエクリプスが自分の淫孔を押し広げて言う。そこにはすでに例の卵子がぎっちりと詰め込まれていた。
「うん、はぁ、はぁ、行くよ、雅ちゃん」
 ユミエルの恥丘、陰唇の一番前の方の肉がねじれ、より合わさり、一本のペニスを形成する。ユミエルの一番好きな形、大きさ、長さ、そして……敏感さ。
 キメラエクリプスの獅子の首の上にまたがると、ちょうどいい高さになる。
「ん……あ……あぁああぁあぁっッ!!」
 ペニスをキメラエクリプスの女のコの奥に押し込む、ただそれだけなのに、もうユミエルの敏感ペニスは射精してしまっていた。
「あは、もう射精しちゃった? でも、気持ちいいのはこれからだよ」
 キメラエクリプスの触手がユミエルの体に絡み付き、強制的にピストン運動を始めた。
「やひぃっ! こ、待って、はひゃぁああぁぁっ!」
 激しく射精しながら、それでもタマゴでいっぱいの膣内を前後するユミエルのペニス。カリの裏や鈴口の奥までもを卵子のベアリングに抉られ、
「あッーく、イくイくイくぅぅぅぅぅっッッ!!」
「はふっ……いっぱい射精てるぅっ……気持ちいいよぉ、悠美ちゃぁんっ!」
 ひときわ深くイった瞬間、ぎゅっと抱き締めあう。エンジェルエクリプスのコスチュームからぽろりとこぼれたおっぱいと、キメラエクリプスの丸出しおっぱいがむにゅむにゅと押し潰され、汗と肉粘液でぬめっていやらしく変形する。
「あっは……これ……最高ぉ……」
「わたしも……こんなに気持ちよかったの……初めてかも……」
 そのままみつめ合い、唇を交わすエクリプス二人。むろん、キメラエクリプスの膣内に収まっているエンジェルエクリプスのペニスは、今もトロトロと精液を垂れ流し続けている。ペニスを抜くと、精液と卵子の混じった粘液がドロドロとこぼれてきた。
「……ねえ、雅ちゃん。これって……受精しちゃったりしないの?」
「ん、大丈夫だよ。エクリプスの精液ぐらいじゃ、この卵子の殻を突き抜けられないし」
 とりとめのない会話を続けながら、互いの身体を感じあう二人。変身を解除し、人間としての姿で睦みあう。
「やれやれ、帰って来ないと思ったらこんなことしてるなんてね」
 雅が帰投しないのを心配した厳華が二人を見つけるまで、二人の行為は続いた。
 いつしか長かった夜も明け、初秋の朝陽が差し込んできている。正道を行く影魔たちを見守るかのように――。


[END]

 

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