騎翔天使メイ外伝 〜堕天への誘い〜

<2>

「あうっ……」
 ポスン……軽い音を立てて巨大なベッドのスプリングが、メイの小柄な身体を受け止める。
 オートメーション化が進んだ此の手のホテルはフロントに人を配さない。苦しげな女性を連れ込む見るからに怪しげな男でも咎められる事はなかった。
「さぁ、朝までたっぷり楽しもうぜ……天使様」
「い、いや……こ、こんな……こんなの卑怯です〜……」
 恥辱と恐れを隠せない表情で首を左右に振り、自由にならない身体でベッドの上で後ずさる。
 しかし、拒絶の言葉を紡ぐ唇からは熱く乱れた吐息が漏れ、男をきつく睨みすえようとする琥珀の瞳は、身体から溢れる切ない疼きに潤んでしまっており、男を退ける迫力は微塵も無い。
「おいおい、そんなに欲情してて何言ってんだよ。我慢は身体に良くないぜ……? その綺麗な身体を美味しく味合わせて貰うってだけなんだからよ……」
 しかし、低く喉を鳴らしながらベッドに近づいてくる男の言葉にメイの体が小さく反応する。
「……綺麗な……身体?」
 同時に美女から怯えた様な雰囲気が跡形もなく消え去った。
 柔和な表情がその美貌からかき消すように姿を消し、変わりに浮かぶのは氷のような冷たいそして自嘲の笑み。
「お……おい?」
「ふふ……私の身体綺麗に見えますか?」
 クスクスと笑いながら自分の体を抱きしめ、曇り硝子の様に何処か精彩を失った瞳が男を見据える。
「さっき貴方は言いましたよね。私の身体は欲情しているって・・・ええ、そうですよ。相手が誰でもいいんです。この疼きを鎮めて欲しいって求めてるんです。あんなデスパイア……貴方が見たような化け物が相手にさえ……」
「……・な?」
 にやけた笑みが凍りついた男を冷たい瞳で見ながらメイは笑った。
 祐樹と出会い朝倉の姓を名乗るようになってから見せなくなった顔……使命のみに生き、それゆえに心に中に生まれた……生まれなければならなかった冷徹なもう一人のメイ。
「綺麗……? あはは……っ! 私の身体には綺麗なところなんて何処にもありませんよ〜。デスパイアに犯し尽くされてますから、アソコもお口もお尻の穴だって……この間なんて両耳まで犯されましたっけ……?」
 俯いたままクスクスと何処か疲れたように、自分の心を削るようにして、メイは笑う。
 そうデスパイアとの戦いはヒロイックサーガの様な夢物語とは違う。常に死と陵辱が隣り合わせの凄惨な戦場。自分も天使なんかじゃない。ただデスパイアを屠るためだけの殺戮人形だ。綺麗な体? どんな皮肉だろうか?
「こんな私を抱けるんですか? 身も心も髪の毛の一筋だってあの化け物達に穢されていない所なんて何処にもありません。こんな私を……貴方は抱くと言うんですか?」
 そのままゆっくりとベッドから降り、ふらつく足で無言の男の横を通り過ぎる。
「今日のことは忘れてください……それが貴方のためです」
 男の真横を通る時に寂しげに呟く天使の手首が不意に掴まれ引き寄せられる。
「な……?」
 虚を突かれ、さらに抵抗しようにも媚熱に狂わされ、未だ力の入らないエンジェルの身体ではただの人間である男の腕さえ振り払えない。そのまま頬に添えられた手が体内を炙る熱に紅潮した顔を仰がせ唇を奪い去っていた。
「んん〜〜っ!?」
 驚愕に見開かれた琥珀の瞳。驚きの悲鳴は男の口内に消え去る。 
「ぷはっ! な、何を!? 話を聞いていなかったんですかっ?」
 男の身体を押しやるように唇を引き剥がし、動揺から元の柔和な少女へと戻ったメイが男を睨み吸えた。
「ああ、もちろん聞いていたさ。だから……ますますアンタが抱きたくなった。」
「なっ!?」
 琥珀色の瞳が再び驚愕と動揺に見開かれる。
 僅かに濡れ潤んだ琥珀の瞳に男の顔が大きく映り、再度エンジェルの唇が小さな悲鳴と共に男によって奪い去られていた。右の手首を掴まれ、逆の手は首の後ろに回されメイの体は逃れられない。そのまま天使の可憐な唇を貪る様に吸いつく。
「〜〜〜〜っ、んん……ふぅく……んちゅ……ふぁうん……」
 驚愕から醒め、嫌悪感に身を捩り、首を振って拒もうとするが今度は男は唇を離さない。
唇をふさがれ、口を閉じるまもなくねじ込まれた舌に口内粘膜を丹念に舐めくすぐられ、非難の言葉は舌を絡め取られて満足に音にならない。
「んちゅ……はっ……んん……ふむぅ……らめぇれす……んん〜〜……こ、こんなの……ん〜〜っ!」
 遊びなれ卓越した舌技は逃れようと怯え縮こまるメイの舌をあっさりと自分の口内へと浚うと、淫らなダンスの相手を強要した。響く水音とともに唾液が混じりあい、粘膜がこすれ合い、二人の熱い呼気呼気が絡み合う。
 ――――いやぁ……こ、こんなの……って……でも……ふぁ……――――
 触手を付きこまれた事も、汚濁の性を注ぎ込まれた事も、獣の舌を絡められた事もある。
 しかし相手が人間だからこそ唇を奪われたショックと屈辱が沸き起こり。同時に初めての人相手の口づけがもたらす甘い快楽に思わず酔ってしまった。恐ろしいほどに巧みな口づけは逃亡も、抵抗も、耐え忍ぶ事さえ許さない。徐々に口内へと送り込まれる甘い甘い愉悦の嵐に脳は痺れ、見開かれた瞳は甘美に濡れ、霞み、やがて小さく揺れると瞼が諦めたように落ちた。
「はぁ……はっ……はあぁ……」
「唇良かったぜ。甘くて柔らかくて……」
 ようやく開放され荒い息を突きながら、何処か恍惚とした表情でメイは自分の口を辱めた男を見上げる。
 キスだけで蕩けるような快美を味合わされ、喘ぐ唇の端から垂れる唾液を拭う事さえ思いつかない。
「へへ……目なんかトロンとしちゃって……俺のキスがそんなに良かったかい?」
「……っ」
 ハッとなったようにメイの焦点を失っていた瞳に輝きがもどった。
 同時に自分がこの男の前で晒していた浅ましい姿を思い出し、羞恥に頬を染めると顎をつかまれたまま顔を背ける。
「いったい貴方は……な、何を考えているんですかっ!?」
 完全に主導権を握られた形になり戸惑いながらも横目で睨みつけ、純情な天使は恥辱に苛まれながらも非難の声を上げた。
「あ〜ん? さっき言ったろ? あんたが欲しいんだよ天使様」
「だ、だから私は……」
「あ〜汚れてるって奴? 気にしない気にしない。むしろ俺はあんたが気に入った。メイちゃんって呼ばれてたよな? 俺はあんたが抱きたい」
 ぶつけられる直情的な言葉に目を白黒させ、同時に耳まで真っ赤になる。
 自分が欲しい? こんな汚れきった体の私を? 初めて受ける求愛にも似た台詞に恥じらい戸惑う初心な天使はそのまま強引に正面から抱きすくめられてしまう。
「ちょ、ちょっと……あ……くぅぅっ……」
 返事も聞かずに、首筋に押し当てられた唇。ただそれだけの事に媚薬に酔った体は反応し、喉を逸らして身を震わせる。
――――け、結局こういう事じゃないですか〜。でも、体が敏感になってしまってます。こ、こんな事って……くぅ……っ
 滑らかな白磁の肌の上を唾液の跡を残しながら唇が這うと、堪えきれずに甘い鳴き声を上げた。
 腕の中から逃れようと足掻いていた動きはあっさりと力を失い、押し寄せる喜悦の波に身を震わせるしかない。細い手首を男の手につかまれた右手は拳を握り締めたままブルブルと震えていた。
「ほら、力を抜きなって、エッチな天使のメイちゃん」
「っいやです……は、放して下さいっ!・・・はっ、うぅっ!」
 恥辱を煽る囁きに言い返そうと叫んだ言葉が弾けて中断する。
 黒のインナーに包まれたメイの胸の膨らみ。同性の羨望を集める形よく整った美しき双丘。華奢な腰とは対照的なまでにふくよかな肉付きを宿す胸の膨らみは美しいラインを微塵も損なわず、その圧倒的なボリュームを固持している。
「ほんとすげえ胸だな。こんなに大きいのにまったく形は崩れていないし、おまけになんて柔らかいんだ」
 背中から回された手がメイの脇の下を通り、黒の布地の中から零れそうなほどの巨峰の上に置かれる。湧き上がった淫感に小さく背中を反らせる天使の悩ましげな美貌を眺めながら、男は押せば弾かれそうな張りと弾力、そして掴めば指が沈むほどの柔らかさを存分に楽しみながら卑猥な感想を天使の耳元に囁いた。
「い、いやっ……そ、そんな事言わないで……下さい。はぁんっ!」
 メイの胸に重ねられた男の手が円を描くように捏ね回し、その柔肉を堪能するべく揉みしだく。
 拘束されていないほうの手で胸を嬲る男の手首を掴み必死に引き剥がし、動きを軽減しようと足掻くが、今の非力なエンジェルの腕力では何の役に立たない。それどころか自分を犯そうという行為とは思えないほど暴力性を感じないやんわりとした淫撫に緊張していた体の力が徐々に抜けていく。
「はっ……くっ……あふぁ……」
 長い時間をかけて胸からジワジワと湧き上がる微悦が次第に大きくなってゆく。
 触手、粘液、吸盤、針……様々な異形に嬲られ開発され尽くしたメイの胸はしかし、初めて体感する感覚に戸惑っていた。魔物であるデスパイアの乱暴な、それこそ引き千切られ、潰されるほどの淫虐の責めとは明らかに別種の緩やかな責め。それが媚薬によって恐ろしいまでに増幅されメイを責め苛む。
――――な、何ですか? これ……? こ、こんな……き、気持ち……いいなんて〜……
 艶を帯びた吐息が桜色の唇から漏れ、緩やかに肌の上を這う唇と舌が痛みともくすぐったさにも似た微弱な悦感を神経に打ち込んでくる。乱れ戸惑うメイの首が小さく振られると美しい黒髪が舞った。
 女を感じさせる事を目的とした巧みな手と指と唇の責めは、悦ばせる事はあくまで手段でしかないデスパイアの暴虐しか知らない天使の身体に未知の感覚を送り込む。
「可愛い声で鳴くな〜。メイちゃんは……ちゅっ……」
「はっ……あっ……い……んん……はぁ……っ」
 知らず唇から漏れる甘い喘ぎと濡れた声を必死に堪えるが、聖衣の襟元が開かれ露になった首筋をそっと舌で舐められ白い喉を逸らせた。見ず知らずの男に肌を許す不快は次第に薄れて行く。
――――で、でも……だからってこんな事間違ってます・・・くぅ
 今までエンジェルの魔力が目的で陵辱された事はあっても、自分自身など求められた事などメイには無かった。
 無論優しくされたからと言ってこんな行為を認めもしないし、心を許すほど軽い女でもない。なのに被虐と暴悦に苛められ尽くしてきた体はどうしたって甘い喜びに緩んでしまう。
「は……ん……っ」
 三度重ねられる唇を振り払おうとする動きは先ほどよりもずっと弱かった。
 口の粘膜を通して送られてくる甘い愉悦に何処までも酔ってしまう。吐息が混ざり合い、舌が絡み踊る。小さく鼻を鳴らし、絡み合う舌が淫らな唾音を奏で、いつしかメイは積極的に唇を貪っていた。
「あ……んっ……ふぅん……」
――――キスって……こ、こんなに……心地いいもの……だったなんて……
 こんなにも緩やかで甘美な快楽の応酬は初めての経験だった。
 甘い甘い愉悦が脳の芯を溶かし、痺れさせ、ぼんやりと男の腕の中に身を任せ、熱い息を吐く。
「ほら……天使様……優しくしてやるぜ?」
「あ……っ」
 ポスン……
 ベッドの上に力なく押し倒されたメイの体の上に男が覆いかぶさってくる。
 身体の脇で両手を手首を掴んで押さえつけられ、首筋を、聖衣の隙間から覗く肌の上を、唇がゆっくりと押し当てられた。次々と降るキスの雨に白磁の肌に幾つもの赤い跡が刻まれてゆき、その度にメイは甘く囀らされる。ベッドの上に両脚は力なく投げ出され、純白のブーツが同色のシーツを掻き分けるように足掻いた。
「はぁ・・・っ、あ、も、もう……やめてください。こんなの……最低です……っ」
 上半身を抱き起こされ、男の顔が近づくのを必死で腕を突っ張り押しのけようと抗いながらメイは涙を零す。
――――何が私が欲しいですかっ! こ、こんな……こんなケダモノみたいな……。
 結局この男も魔力を欲しがるデスパイアと変わらない。魔力の変わりに自分の体で楽しみたいだけ……そんな男の言葉に一瞬でも心揺らした自分が馬鹿みたいだ。
「おいおい、おれはそもそも最低野郎だよ」
 押しのけようとする両手を掴んであっさりと外すと、肩を抱き寄せそのまま鎖骨に舌を這わせる。溜まらず仰け反るメイの鳴き声に低く笑いを零しながら男は、言葉を紡いだ。
「でも、その薬すぐ消えてくれるのかい? 辛いんだろ? 身体」
「……っ、そ、それは……」
 そう、先ほどから体を苛む熱はいっこうに収まる気配がない。
 変身限界を迎え希望の魔力が尽きた今、クリスタルの浄化作用が復活する兆しも未だなかった。放置すれば消えるかもしれないし、そのまま蝕み続けるかもしれない。何よりこんな体で祐樹の元へ戻る事も出来ない。
「なっ、楽にしてやれよ……毒や薬で乱れたからって何も恥じる事はねえ」
「だ、だからって、こんな……はっ、やぁっ……そ、そこ……はぁん……あ、あぁっ!」
 胸の中心、インナーを押し上げてその存在を主張する桜色の尖りをキュッと布地の上から摘まれると喉が跳ねるように反り返る。敏感な頂から迸るあまりに切ない電流は溶けるほどに甘い。指で挟まれたままやんわりと揉まれ、布地で敏感な果実をスリスリと擦り上げられ、堪らなくなって悶えた。
「だ、だめです〜。こ、コリコリされたら……そこっ……感じすぎ……くふぁぁ……っ」
「そうそ、難しく考えすぎなんだよ真面目な天使ちゃん。辛い思いして我慢するよりおれとエッチを楽しもうぜ」
 耳に唇を寄せてそっと甘美な誘惑を囁く。
 デスパイアを相手してきたエンジェルにとって快楽に溺れると言う事は死と、絶望と、自分以外にも破滅を振り撒く絶対の禁忌だった。しかし、今は違う……感じていい。気持ちよくなっていいと生真面目な天使が快楽の宴へと誘われる。
「ほら……楽になっちまいな」
 そっと吹きかけられた吐息で耳穴の奥に心地よい艶風を送り込まれるとゾクゾクと背筋を震えた。
 耳のラインを舌が唾液を塗りつけながら舐めあげ、濡れた音を奏でながら耳穴へ抜き差しする。紅くなった耳たぶが唇にそっと挟まれるとフニフニと甘噛みされた。媚悦と共に送り込まれるあまりに甘美な誘い。美しい黒髪の天使の肉体は女性としてあまりに完成されすぎていた。開発され尽くした鋭敏な性感を有する熟れた媚肉は貞淑なメイの理性と天使としての禁忌に抑えこまれ、ずっと燻り続けてきたのだから……
「で、でも……そ、そんな事……はぅっ、いぃっ……駄目ぇっ!!」
 クニュッと小さな尖りが指の先で押しつぶされると、言葉に反して体は何処までも素直に快楽に従う。
 衣服越しとも思えないほど敏感な反応を主へと要求する桜色の媚肉は、どんどんと硬度を増しながら健気なほどに指の責めを受け止めた。背筋を快美の稲妻が立て続けに駆け抜け、脳を盛んに快楽で殴打し揺らされてしまう。
「ほんと敏感な天使様だな。ここがそんなにいいのかい? じゃあほらっ……もっと良くしてやるよ」
 スルリ……下半分をようやく覆っていた黒のインナーがずり下ろされ、はち切れんばかりの胸の膨らみが勢いよく衣服の束縛を振り払い姿を見せた。その中央で充血し固くなった桜色の尖りが反動で震える。もっと可愛がって欲しい。もっと優しく弄って欲しい。嫌らしいほどに感じまくりピンピンに勃起した乳首は、懸命に訴えかけていた。
「へへへ、綺麗なピンク色が固くなっちゃって……可愛いよメイちゃん・・・ん〜ちゅっ」
「ふあひっ……ち、乳首舐めないでくださ……ひゃうっ……か、噛むのも駄目なんです〜〜〜〜っ!」
 衣服の上から可愛がられるだけで感じまくっていた快楽神経の塊が直接男の口に含まれる。
 敏感な胸の中でも最大の弱点が暖かく湿ったもので包まれ、舐められ、吸われ、歯を立てて軽く擦られると真性天使の眼瞼の裏を閃光が幾つも弾けた。逆の頂も指に挟まれクリクリと可愛がられる。
――――む、胸……胸ぇ……こんなに気持ちいいなんて私……あぁ……痛くない……苦しくなくいんですぅ……ふぁ……こ、こんなの駄目になってしまいます……っ
 並の人間なら狂死するほどのデスパイアの責めさえ快楽に変換する魔薬だ。与えられる純粋無比な快楽の塊を信じられないほどに増幅して脳に灼きつける。もはや快楽と言う名の美酒に酔った体は言う事を聞かず、メイの必死の鼓舞にも奮起にも応えてくれない。その癖送られてくる快楽には素直に恭順の意を示してしまう。
「あはぅっ……こ、こんなにひぃ〜……わ、私……どうして……どうなってしまうんですのぉ〜〜?」
「おいおい、いままでどんな無茶な責め方されてたんだよこの天使様は、……ほれ、安心して感じちまいな」
 快楽が絶望や死と常に同じ場所にあった天使にとってこの鮮烈な喜悦はあまりにも危険な未知の体験だった。
 幾度も被虐と暴悦の嵐に揉まれ、非情な調教の果てに開発され尽くした肉体は、おそらくは生まれて初めて味わうだろう行為に、死の恐怖も不安も絶望もない純粋なる快楽の責めに溺れてゆく。
――――いい感じに仕上がってきたな。もう一押しって所か……
 男は胸の内でほくそ笑む。最初はただ毛色の変わった美女を味わってみたいと思いホテルに連れ込んだ。
 物珍しさとちょっとその辺りではお目にかかれないほどの美貌に食指が動いただけ、けれどこの天使は美しいだけではなかった。あんな化け物に犯されても穢されても屈しない誇りと矜持、気高い心。そして何より男を惹き付けたのは、天使の心に澱む快楽に対する絶望的なほどの嫌悪。
「あんたは何も知らなかったのさ。だから俺が教えてやるぜ。そのエッチな体にたっぷりな……」
 男は天使と言う無地のキャンバスを自分が快楽と言う色に染め上げてやれる予感にどこまでも興奮する。
 化け物たちに想像を絶するほど犯し尽されたにも関わらず、此の天使は本当の意味で性の悦びを知らない。体を重ねる事の悦びや快楽を忌み嫌い忌避するだけで、解き放ってやる事の悦びにはメイは驚く程に無知……いや、目を逸らし続けて来た。そんな正義の天使様に快楽の悦びを徹底的に教えて込んでやりたい。無知で無垢な美しい天上の騎士様の心を自分の色に染め上げてやりたい。
「し、知らない……って? あっ、くはあっ……あ、貴方は一体〜……ふあぁ……」
 快楽に負ければ絶望が待っていた。魔悦の前に屈すれば死がその先に口を開けていた。
だから恐れた。だから忌避した。なのに、いつも受けていた激痛に悶える身体を狂わされた暴虐の激悦とはこれは違う。気も狂わんばかりの大量の媚薬に満たされきった体に無理矢理捻じ込まれてきた被虐の快楽ともこれは違う。違う。違う。違う。違う……っ!
「は……んぅ……ひあっ……や、くすぐった……あひぅっ……」
 足の間に座らされ、背後から抱きしめられる。ナイトエンジェルの聖衣が僅かに肌蹴、広げられて露になった肌は媚熱と昂奮に紅潮し、しっとりと汗に濡れていた。漆黒の髪を掻き分け色香漂ううなじに唇が押し当てられると、甘い喘ぎ声と共に背筋が震え、敏感になったメイの全身の肌を快楽へと覚醒させてゆく。胸が耳が首が……主の言葉に従わない快楽と随悦の下僕として徐々に徐々にその面積を増やしていった。
「はぁっ……駄目……お、お願いです。これ以上されたら私……私は……あぁぁっ……そ、そこは……っ!」
「何いってるんだい……まだまだこれからが本番だぜ?」
 太股まで深くスリットの入ったホワイトドレス、そのスカートの中に脇から男の手が侵入する。
 黒のショーツの上からそっと揃えた指で秘裂をなぞられ、湿った音と共に細腰が跳ね上がる。清楚な天使とは対照的な、しかし上品な大人の色香漂うメイには驚くほど似合う黒の下着は、天使の高潔な意に反し快楽に負け既にねっとりと濡れていた。慌てて震える太股を閉じようとするが、白のロングブーツに包まれた天使の美脚は後ろから男の足に絡みつかれあっさりとM字に開脚される。男の嫌らしい目は鑑賞するようにスカートの中を背後から覗き込んだ。
「あ〜あ、こんなに濡らしちゃって体のほうは、お口の方と違ってホント素直だよな。クス……それに色っぽい下着じゃないか、似合ってるよメイちゃん」
「くぅぅ〜……っ! み、見ないで……い、言わないで下さい〜。 私……そんな、はしたない事……」
 幾度陵辱されても純情な天使の心は羞恥に慣れる事は無い。
 淫らに開花し、開発され尽くした体と反比例するように清らかな心は肌や体の浅ましい反応を人目に曝される免疫を持とうとしなかった。
「そうかい……? でも聞こえるんだろ? ほらこんなエッチな音をたててるぜ?」
「い、いやぁ……そ、そんな事……違います……で、でも……あひぃっ……やぁっ! ソコ感じすぎちゃいます〜〜〜っ」
 下着越しに敏感な粘膜が擦られるだけで嫌らしい腰が砕けそうになる。
指でそっとなぞられるだけで黒いショーツに浮かぶ恥ずかしい染みはどんどんと大きくなり、未だ下着に隠されたままの花園は次から次へと悦びの雫で黒の布地と白のシーツを潤した。あまりにも卑猥な水音がわざとらしいほどのボリュームで掻きたてられ、否応なく突きつけられる自身の浅ましい肉体の反応にメイは泣きたくなる。
「ど、どうしてですか? 身体の奥が燃え上がって、ひぃうっ……あ、頭の芯が痺れて……知らない。こんなの知らないんです〜〜っ! あくぅあぁ〜〜〜〜……っ!!」
 ショーツの中に侵入してきた手に直接秘所を可愛がられるとついに耐えかねたように心の内を吐露する。
 痛苦の無い責めに体が勝手に応えてしまう。心が勝手に弛緩してしまう。見開かれた琥珀の瞳から恥じらいの涙が零れ落ち、頬を濡らした。デスパイアの責めを受けたことのある自分なら人のもたらす淫ら責めなど耐えられると、何処か過信していた。なのに……なのに……なんて甘かったんだろう。
「あひっ……そんな……わ、私のアソコ……ク、クチュクチュ嫌らしい音立て……ってぇっ……ヒクヒク動いてるぅ……っ? だ、だめぇ……そこばかり苛めないで下さい〜・・・っ!」
「苛めるって人聞き悪いなぁ。でもまあ、こっちの方も放って置いたら可愛そうだしな。安心しなって……」
「ひっ……ち、違い……っくうぅうぅぅ〜っ!」
 動きを止めていた手が、放置され切なげに震えていた胸の尖りをつまみ出した。歓喜からなのか、恥辱からなのか、最早解らない涙が溢れてしまう。浴びせられ続けた快楽で、血色良く艶を帯びた桜色のポッチは恥ずかしいほど元気に屹立し、男の指を押し返す。弾力を楽しむように指はノックとマッサージを繰り返し、掌や他の指は最高の触り心地を提供する胸の膨らみを揉み、捏ね回し、絞り上げる。胸と股間から同時に可愛がられ、炸裂する異種の法悦に翻弄される天使は、いつしか抵抗を忘れ、背中は背後の男に寄りかかり、摺り寄せるように紅潮した頬を肩に預けていた。
――――あ……あぁ……こ、こんな……こんな事って……私……どうなってしまうんですか〜……?
 恥じらいを感じても恥辱と言うほどの被虐は感じない。怒りは感じても殺意や嫌悪までは負の感情を掻き立てない。
 そして、これほど屈辱を感じていても絶望するほどに心が痛み軋まなかった。自分の心の動きを理解できずにメイは何処までも快楽に翻弄される。肩にもたれ掛かった頭を力なく振り、美しい漆黒の髪が芳しい香りを振りまきながら揺れた。
「そうそう、力を抜いて……快楽に身を任せて……いいよぉ。可愛いよぉ。もっと気持ちよくしてあげるからねえメイちゃん♪」
「そ、そんなぁ……お願い……こ、これ以上は……ゆ、許し……てぇ〜〜〜……ひきあぁあぁあぁ〜〜〜……っ」
 女を知り尽くした指がメイの中に差し入れられ、熱く潤った粘膜を擦り、突付き、掻き回される。
 指が動くたびに背筋を稲妻が駆け抜け、淫らな水音を奏でて掻き回されると脳が灼けてしまう。意識が幾度も明滅を繰り返し、腰が壊れそうなほどにガクガクと震えた。お漏らしをした様に溢れた恥ずかしい雫はショーツが吸収しきれずに、シーツや太股や未だ履いたままの白のロングブーツをグッショリと濡らしてしまっている。
「ほらほら……ここはどうだいメイちゃん? ここが凄いだろう?」
「やぁ、いやですっ……も、もう掻き回さないでぇ〜〜っ! ひっ……あひぃぃ……っ! んああぁあぁあぁぁっ!?」
 突然メイの体を襲った激震、極大の雷撃に撃ち抜かれたようにメイの全身が痙攣した。
その悲鳴と反応に確信したかのように男の指が再び同じ軌跡をたどりながら天使の秘奥に差し入れられる。
「ひぃぃぃっ!? ひぐうぅぅぅっ! な、何で……すかぁっ? そ、そ……こォっ!? 凄いィぃ〜〜! 凄すぎますぅぅぅ〜……っ!!」
 巧緻にして的確な指の責め。無数の触手にかき回されたこともある秘裂を屈服させるべく、天使の想像もしなかった敏感なポイント。Gスポットと呼ばれる快楽急所を探り当て突いて来たのだ。普通に責められても感じまくる極限の急所責めを欲情しきった体が破滅的なほどに増幅する。意識が擦れ、呼吸さえ難しくなり、酸欠の魚の様に口をパクパクと開閉する悦溺天使。
「ほんと大した乱れっぷりだなぁ。ほら一度イッちまいな」
 胸を愛撫していた方の手も下半身へと伸びると、差し込まれた指を美味しそうに咥えこんだ秘裂。その上で元気よく勃起したピンクに輝く小さな真珠に添えられた。
「そ、そこぉっ……くぅんっ……いじっちゃ……・っあくぅぅぅぅんっ……お豆は、か、感じすぎて……あ、頭が蕩けちゃって……く、来る。来ちゃいますぅ〜〜〜っ!!」
 秘所から溢れる蜜で濡らされた指がショーツの内側で器用に動き、クリトリスの包皮を剥きあげると指の腹で撫でてくる。たったそれだけで眩い閃光弾が幾たびも弾け、噴水の様に熱い飛沫が男の掌に浴びせられた。Gスポットと並んで女体の最大急所のひとつ、鋭敏な快楽神経の集束する突起が親指の腹で擦られ、弾かれ、そっと押し潰され、軽い絶頂の波にさらされる。
「……っひあぁぁあぁあぁぁ〜〜〜〜〜……っ!!」
――――駄目……駄目ぇ……気持ちいいんですぅ……こ、こんなすごいの……あ、頭真っ白に……なって……な、何も考えられないですぅ〜〜〜〜〜っ……
 親指の腹の中心に押し当てられた桜色の真珠がクルクルと回され、ボタンを押すかのように軽くノックされる。
 秘裂に潜りこむ指が増えて行き、交互に自由自在に女の中を掻き回し、擦り回し、小突きした。幾度となく襲い掛かる小さな絶頂の波は天使を浚い、しかもどんどんとその波頭を高くしていく。限界が、頂点が、最後の瞬間がどんどんと近づいてくるのがわかった。
「ふああぁぁっ! こ、こんなの耐えられないですぅ〜っ! 飛んじゃう〜っ! は、弾けちゃいますぅ〜〜〜〜っ! も、もうわ、わたしぃ……わたしぃひぃ〜〜〜〜っ!!」
「いいぜ。いいぜ。ほぉら……イッちまいな……可愛い天使様よぉっ!」
 クイッ!
 指が探り当てたもっとも敏感なスポットを突き上げ、剥き出しのクリトリスを親指の腹で押し潰した。
――――あ……っ、あ…………っ、あ…………っ
 呼吸が止まり、言葉が出てこない。擦れた様な呼気が小さく漏れる。
 媚薬が未だ残る身体が人との交わりだけでは決して味わえない快楽を生み出し、卓越した性戯がデスパイアとの陵辱だけでも決して味わえない喜悦を呼び起こす。二つの本来なら交わることの無い異種の法悦が溶け合い、高めあいメイが初めて味わう鮮烈な至悦の極みを天使の肉体と魂の双方に叩き込み、刻み込み、完全に屈服させた。
「……ックゥ、ィイクゥッ! イキますぅ――っ! ゆ、指でぇ指だけでぇ〜〜〜っ! わたし指でイッちゃうのぉ、イカされちゃいますうぅ〜〜〜っ!」
 硬直した声帯がようやく解放され、歓喜の絶叫とともに全身が壊れた人形のように激しく痙攣した。
 男の指を嬉々として咥え込んだ秘裂からは堰が決壊したかのように熱い蜜液が吹き零れ、全身が折れるかと心配するほどに反り返る。
「あ、あっ……・っあああぁぁああぁあぁあぁあぁ〜〜〜〜〜〜……っ!!」
 快楽に屈した天使の絶叫が室内に喉も裂けよと迸る。
 ガクガクと震え、跳ねる腰は尚も止まらず恥ずかしい飛沫でシーツを浸し、至悦に溺れきった美貌は守るべき人間に無様にイカされた恥辱も屈辱も忘れ、随喜の涙まで流した。
「へっ……いいイキっぷりだったぜ。天使様」
 男が抱きすくめていた腕を開くと、上半身を支える気力さえない天使の体が軽い音を立ててベッドに俯けに倒れ伏す。一欠片の力も入っていない四肢がシーツの上に投げ出され、時折背中を痙攣させながら乱れきった息を整えようと荒い息を吐いた。
「はぁ……はぁ……あ……あぁ……わ、わたし……わたし……?」
 呆然と絶頂の余韻に酔いながら声の方を見上げる。焦点を失い、濡れた瞳に映る達成感と征服感に酔う男の表情。
 その男の顔に先ほどまでの自分の乱れる様が否応無く思い出され、唇を血が滲むほどに噛み締めると、思わず涙が零れ落ちる。耐えかねた様に男の視線から目を背けると、うつ伏せるベッドに顔を埋めた。
――――こんな……こんな人にイカされるなんて、それも指だけで……
 嗚咽を漏らし、うち震える天使。悔しい……悲しい・・・でも魔力が失われない。命を削り砕かれる死も存在しない。怨敵であるデスパイアに与えられる絶望もない。それでも無理矢理犯されたと言うのに、心地よい虚脱と開放感を否定できない浅ましい自分。快楽の前に敗北し降伏した天使はただただ荒く熱い息を吐き、身を震わせ続けた。


 
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