渇望の狼

第三章「副王」

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「はあはあ……うあぁ……」
 ユミエルは激痛にうめき声を上げながらも、どのような状況なのか、必死に把握しようと考えた。
 今倒れている場所は路地裏のようだ。はっきりとした場所までは特定できないが、周囲の建物の感じから、ショッピングセンターと大して離れてはいないところだろう。
(ママ……無事かな……)
 ユミエルは離れ離れになってしまったマリエルの事を思う。希望的観測かもしれないが、自分がこうして無事なのだから、聖母もきっと無事だろう。
 彼女は重い身体に力を込め、起き上がると、地面に手をつき立とうとした。しかし……
(……ダメ……力が……っ)
 全身の力が一気に抜け、影翼天使の衣装が剥がれ落ち、変身が解除され、光翼天使に戻ってしまった。
 光翼天使ユミエルに戻った彼女はふらつく身体を支えようと壁に寄りかかる。だが、普通に立っているだけでも膝が笑い、情けないほど力が入らない。
 とりあえずの危険性は去ったのだから、このまま体力が回復するまで待つのも一つの手。ユミエルはそう考え、壁に身体を寄りかからせ、へたり込む。
 目を瞑り、深呼吸したその時、
「おやおや……こんなところに可愛いらしい天使さんが落ちていましたよ」
 ユミエルは顔色を変え、息を飲み込みながらそちらの方に目を向けた。
 視線の先には線の細いやや長身の男性がいた。柔和な態度と丁寧な口調だが、その目には彼女に対する色気が浮かび、下劣な情欲を催している。疲労で鈍った頭だが、彼に対して警鐘を鳴らす。
 この場から離れなければ。
 彼女は急いで立ち上がると、男性に背を向けて、逃げようとした。
 だが、足は彼女の思うように動かず、つまずいてしまう。
 男性はつまずき倒れている彼女の傍によると、
「どうやら、満足に動く事もできないみたいですね」
 ユミエルの白い太ももやうなじをじろじろと見つめ、
「これはいい。捕まえる手間が省けましたよ」
 言葉を口にすると、男性の身体が変形しだす。首や胴体が伸びだし、両脚が闇に解け、引っつく。男性は人の顔を持つ巨大な百足の姿に変身した。頭には触覚が生え、その口元には巨大な毒牙が生えている。平べったい全身は堅い甲殻に包まれ、無数の節足が並んでいた。
「こんな状況で……エクリプスに襲われるなんて……」
 力のない絶望的な状況で、影魔に襲われるとは。
「ほほう、我々を知っているとは。どうやら間違いないようですね。あなたのいう通り、私はエクリプス。名はセンチピードエクリプスといいます」
 センチピードエクリプスはバカ丁寧に自己紹介すると、
「そして、私の予想でいけば、あなたは我々の宿敵、光翼天使親娘の片割れ──年齢の方から考えて、娘のユミエルさんでしょう?」
 ユミエルはその質問に無言で答える。
 彼は彼女の沈黙を肯定だと受けとり、
「あなたをあの方に差しだせば、私に対する評価も上がるはず。ふふふ、これは私にもツキが巡ってきたみたいですよ」
 嬉しそうに喋る。
「……あの方……?」
「ええ。あなた方親娘がここにきていると知り、捜しだすように命令されていましたが……こうまで簡単に見つけられるとは。それも弱まった状態で。くくく……本当に幸運でしたよ」
 センチピードエクリプスは疲労で動けない悠美を見て、顔を綻ばせると、
「まあ、差しだす前に、少しだけ味見をしても罰は当たらないでしょう」
 倒れている彼女の身体に自身の身体を巻きつけた。
「いやあ! 放してェ!」
 生温かくも硬い角皮の感触に包まれたユミエルは、疲れているのも忘れて必死に叫び暴れる。あの方とは誰なのかという不安もあるが、それ以上に不気味な百足の姿は、少女の心を脅かすのに充分過ぎた。こんな気持ち悪い化け物に陵辱されたくない。
「ほらほら。そんなに暴れないでください。大丈夫。私はあなたを傷つけるつもりはありませんからね〜、ただあなたに気持ちよくなって欲しいだけですので」
 じたばたと暴れるユミエルを長い胴体で締めつけながら、センチピードは獲物の活きのよさに喜ぶ。極度の疲労状態で、これだけ暴れる事ができるとは。
「これは楽しめそうですね」
 ぎちぎちと身体を締めつけながら、身体中から生えている無数の節足を伸ばして彼女の身体を弄くりだす。まずは胸の感触から。アンダースーツ越しに乳房を揉み解し、乳肉の感触を楽しむ。
「ほうほう……これはいい……素晴らしい感触ですよ。ユミエルさん」
 天使の身体を弄くりながら、センチピードは感歎の声を上げる。
 アンダースーツ特有の滑らかな感触と柔らかな胸の弾力が生みだすハーモニー。胸の弾力は硬過ぎず柔らか過ぎずの絶妙なところ。大きさもCカップとほどほどで実に揉みやすい。ただセンチピードとしては、もう少しボリュームがある方が好みであったが。
「くうぅ〜……触らないで、気持ち悪い!」
 自分の身体をいいように弄られ、悲鳴を上げるユミエル。
「おやおや。ここはこんなに硬くなっているというのに。気持ちよくないのですか?」
 百足影魔はそういうと、ユミエルの両乳首を鋭い節足の先端で摘み、引っ張った。
「きゃんッ!……くあぁ〜」
 いきなり、乳首を引っ張られた事にユミエルは声を漏らす。
「ほらほら。喘いでないで。質問にはちゃんと答えてくださいよ」
 センチピードはそういって乳首を離すと、乳輪をなぞる。スーツ越しであるにも関わらず、彼の節足は彼女の乳輪を精確になぞっていた。
「ん……くぅっ……」
 焦らすような責めに、ユミエルは声を噛み殺す。
「ほら。ちゃんと答えられるでしょう? どうなんです? 気持ちいいのですか? よくないのですか?」
「き、気持ちいいはずないじゃない。こんな事……」
 ユミエルは強がる。
「そうですか……」
 彼は残念そうに呟くと、両乳首の先端に鋭い節足を突き刺した。
「痛ッ!……やあ……」
「では、気持ちよくしなければなりませんね」
 センチピードは他の節足も駆使して入念に乳首を責める。鋭い先端で幾度となく乳首側面を縦に擦り、乳首先端に突き刺し、コリコリと弄くる。乳輪全体も弧を描くように撫で回し、丹念に乳房を揉み解す。乳房を二本の足で上下左右から挟んでみたり、揉み揺らしたり、むにゅむにゅと揉み押したり、左右に揉み回したりする。美乳はされるがままに揺れ動き、節足の動きに合わせて形を変える。
「ひいっ……ふあぁ……ああああ」
 最初は痛いだけだった乳首責めだったが、少しずつ疼痛に変わり、じんじんとした熱を持ち始める。刺され擦られる感覚がまるで痒いところを掻いてもらっているような感覚になり、揉み解される乳房はまるでマッサージでもしてもらっているかのような心地よさへと変貌する。アンダースーツ越しであるのが、もどかしい。
「どうやら、気持ちよくなってくれているようですね」
 ユミエルの喘ぎ声を聞いて、センチピードは満足そうに呟くと、彼女の脚に足を伸ばす。節足特有の硬い感触がニーソ越しに伝わり、感触は少しずつ上へと近づいてくる。
「や、これ以上は……きゃ!」
 拒絶の言葉を吐こうとする彼女だが、それを制するように彼は乳首を強く捻る。
「胸だけではもの足りないでしょう? 下の方も気持ちよくしなければ。ふふふふ」
 むっちりとした太腿の生足部分を楽しみながら、ニーソに包まれた部分を触り、感触を楽しむ。丁寧に足首やふくらはぎ部分を揉み、ゆっくりと太腿の付け根へと節足を伸ばしていく。付け根部分に到達すると、最後の砦ともいうべきショーツと隠された秘花には触れないように気をつけながら触る。ここを味わうのはまだ早い。美味しいものはあとに回そうという魂胆なのだろう。
 その代わりに節足達はニーソの中に潜り込んだ。ぴったりと張りついたニーソにセンチピードの節足が浮かび上がる。まずはここから犯してやるといわんばかりに潜り込んだ節足達は激しく動き、彼女の生足とニーソの締めつけを味わう。
「ほほう。これはこれで中々に……」
 汗でしっとりと濡れた肌。柔らかな足の感触。汗で蒸れているニーソの感触。ややきついゴムの締めつけ。そして、ニーソと一緒に天使の美脚を汚す背徳感は、想像していた以上に彼の心を燃え上がらせた。
「全く。天使とは名ばかりの、とてつもなくイヤラシイ身体ですね。ユミエルさん」
「うん……ふうッ……いや……いわないでそんな事を……ああぁ……んッ!」
 胸への責めと同時に行なわれる足への責め。ニーソに潜り込んだ節足はピストンするように動き、天使の心を苛ませる。
(ふうぅん……だめ……こんなあ〜……あんッ!……でも……もし……これが……)
 ユミエルはニーソの中で動く節足から、秘部に挿入された時の事を夢想する。が、
(や……なに考えているの……わたし……)
 自分のしてしまった夢想を、首を振って消し去ろうとする。
(だめよ……何としても耐えなきゃ……)
 彼女は快楽に溺れまいと必死に自分を保とうとする。胸への責めはアンダースーツ越しだし、下半身の責めもまだ性器などは責められていない。まだまだ前戯であるが故に、そのような理性が働いてくれた。しかし、もし直接やられたらどうなるだろう。それに耐え切れる自信はユミエルにはなかった。
 そんなか弱い彼女の理性を打ち砕こうとするように、他の節足達が天使の身体を満喫しようと、白い首筋やケープに包まれた肩、汗で蒸れている脇下や僅かに肌を曝している二の腕、細い腰周りやうっすらとついた下腹部の膨らみに伸びる。
 まるで大勢に全身を嬲られるかのような感覚に、
(ああっ! す、凄い〜ッ!)
 ユミエルは息を荒げて身体をうならせ、快感に悶える。
「どこもかしこも柔らかいですねぇ。いったい、この身体で何人くらいの男性達を喜ばしてきたのですか? 参考までに教えてくださいよ」
 彼女をたっぷりと弄りながら、いやらしい質問をしてくるセンチピード。それに対して、
「そ、そんな質問……答えられない……」
身をよがらせながらも必死に首を横に振るユミエル。
「ほほう。分からないほど相手してきたという事ですか」
 純真な少女らしい返答を、自分勝手な判断をするセンチピード。彼女の名誉を辱める、卑劣な判断であったが、半分間違いではない事実に彼女の羞恥心が沸騰する。
「では、質問を変えるとしましょう。最高でどのくらい責められた事がありますか?」
「そ、それは……」
 御座市でオメガエクリプスに敗北し、理性をなくした御座市市民達に陵辱された時の事が頭に浮かぶ。
 何時間も大量の市民達に犯され、更に彼らはその後エクリプスとなり散々に犯された挙句、止めといわんばかりにオメガエクリプスによって直接陵辱されてしまった。あとにも先にもこれが最大の陵辱である。
「答えたくなければ、答えなくても構いませんよ。私の予想では恐らく、我らが王にして姫であるオメガエクリプス様によるものでしょう? どうです? 当たりですか」
「な、何故、あなたがオメガエクリプスの事を?」
 影魔王オメガエクリプスは確かに自分が倒したはず。
(もしかして、あの方って)
 彼女はオメガエクリプスの生存を考える。確かに余りにも呆気ない幕切れだった為、もしかしたら生きているのでは、と思ってはいた。もしそうなら、この市での影魔の活動が活発になっているのも納得できる。
「私は影魔ですよ? 新たなる王の事を知らぬはずはないでしょう。それに私の使えている長年、前影魔王アルファエクリプス様に仕えていましたからね」
 だが、ユミエルの期待を裏切るかのようにセンチピードはそういう。彼の口調から判断するなら、黒幕はオメガエクリプスではなさそうだ。
「あの方っていったい……」
「まあまあ。いずれ分かる事ですよ。それよりも今は存分に楽しみましょう。オメガ様には及ばないかも知れませんが、私も頑張りますので、あなたも頑張って感じてください」
 そういって、彼は責めのペースを速める。乳首を嬲っていた節足達は新たにアンダースーツの擦りつけを加え、脚の付け根を弄っていた節足達が伸び、彼女の肉づきのいいヒップを触りだす。柔らかな肉桃を思う存分に揉み解し、揺らし、撫で回し、幾度となく下着越しに稜線を弄ぶ。結果、ショーツは少しだけ食い込む形になり、おまけに愛液でべたべたになっていた為、ぴたりと肌に張りついて、布の上からでも性器やヒップの形がはっきりと分かった。下着によって肉の柔らかさが強調され、穿いていないよりも遥かに淫靡である。
「ほほう。純白ですか。中々に分かってらっしゃる」
 スカートをめくり、彼女のショーツを吟味しながら彼は呟くと、下着越しに肛門に触れ、
「ここ。ほじって欲しいですか? 欲しくないですか?」
 センチピードは焦らすように優しく撫でながら尋ねた。
「ほっ、ほじって欲しいはず……ないじゃない」
 それに対し、強がるユミエル。本当は弄くって欲しい。容赦なく突っ込んで、たっぷりと嬲って欲しい。肛門からその奥の腸内まで挿入して、激しく突き動かして、腸や付近にある膣・子宮を刺激して欲しい。激しく犯してよがり狂わせて欲しい。恥も外聞も捨てて、そう叫べればどれだけ幸せな事だろう。しかし……
(負けたくない。こんなのに堕とされたくない)
 天使としての矜持がそれを許さなかった。身体は汚されてもいい。しかし、心までは穢されたくない。自分はあの影魔王オメガエクリプスの陵辱にだって耐えたのだ。こんな奴に堕とされてなるものか。
 そんな彼女の思いを読みとったのか、
「そうですか……分かりました」
 彼は呆気なく、肛門から節足を離し、ぷにぷにと尻肉を堪能する。
(……えっ? 弄くってくれないの?)
 想像していなかった対応に思わず呆気にとられてしまうユミエル。こんなに素直に自分のいい分を聞き入れてくれるとは思ってもいなかった。
「さて。節足による責めもこれぐらいにしておきましょう。ユミエルさんも少し飽きてきたでしょう? ですから……」
 そういうと、彼は節足を変化させた。生温かくも硬い角皮が柔らかくなり、ぬるぬるとした体液でぬめりだす。まるで長い舌のようだ。
「ふふふ。素晴らしいでしょう? 私の能力。私は自分の節足を変幻自在に操る能力を持つのですよ。硬くもできますし、このように柔らかくもできます」
 彼は余っている足を彼女に見せつけ、ユミエルの身体を弄くる。柔肉節足達が彼女の身体を這い回り、ニーソの中に潜り込んだ肉足達は、両足の指一本一本に絡みつき、じゅぽじゅぽと激しい音を立てて、彼女の足を嬲る。
「ひいぃッ……いや、触手だけはいやあ〜ッ!」
 ユミエルはオメガエクリプスに陵辱された時の記憶が甦り、声を上げて怯える。その姿は皆の平和を守る為に戦っている天使の姿ではない。ただただ陵辱者に怯え、恐怖する一人の少女の姿であった。
「ほほう、どうやら触手に対して何かトラウマみたいなものがあるみたいですね。安心してください。私は女性の身体を傷つけたりするのは嫌いですから」
 センチピードエクリプスはそんな彼女を慰めるように優しく言葉をかけ、彼女の頭を何本かの足で撫でる。
 思ってもいなかった優しい行動に、思わず心を緩めるユミエル。獲物の警戒が緩んだ事に、彼は笑みを浮かべると、
「ここもぐちゅぐちゅに濡らして……まだ少しも触れていないというのに。ふふふふん♪」
 彼は不意に天使の溝を下着越しになぞった。彼としてはこれから行なう陵辱に対する軽い挨拶代わりのものだったが、
「ひゃん!……くあああ〜ぁ!」
 警戒心を緩めた天使は軽く絶頂してしまった。
 想像していたよりもずっと敏感な身体に、
「おやおや、軽くイってしまったようですね」
 少しだけセンチピードは戸惑い、責めの手を止めてしまう。
「くうっ……はあはあ……もう……もうやめてぇ……」
 ユミエルは一息つくと嘆願する。彼女の目にはうっすらと涙さえ浮かんでいた。軽くとはいえ絶頂してしまった破廉恥な自分に対し、羞恥と屈辱を感じる。軽く絶頂したおかげで少しは火照りは弱まったが、これ以上されたら、理性が飛びかねない。
 しかし、
「何をいっているのですか? あなたはあのオメガ様の責めにも耐えた天使なのでしょう? この程度で根を上げてはいけません。もっと頑張るのです。それに……」
 調子をとり戻したセンチピードは少女の嘆願を突っぱねると、
「……あなたのここはまだまだもの足りないみたいですよ」
 下着越しに彼女の秘花を軽くなで触れながら、そういった。
「あんッ……そんな事……ない……」
 絶頂したばかりの敏感な身体は、再び快感に反応し、淫欲の炎はたぎり始める。
「ほらほら。もっと素直に感じなさい。快楽を受け入れるんです」
 彼はそういうと、アンダースーツの中に肉足達を挿入する。スーツは潜り込んだ肉足達によって盛り上がり、収縮作用で柔肉節足達を彼女の身体に向かって押さえつける。
 アンダースーツに押さえつけられながらも、触手達は彼女の感触を満喫し、乳房に張りついた。ユミエルの乳房に肉足達は身を埋めて、乳肉の柔らかさを堪能し、アンダースーツの上からでも分かるほどに勃起した乳首へ絡みつき、愛でるようにこね回す。
「あん! ああっ! あぅんッ! あんッ!」
 直接、肉足達に乳房を責められ、甲高い嬌声を上げるユミエル。
(耐えなきゃ……耐えんなきゃ……たえなきゃ……)
 そう思いながらも、押さえている性欲の枷が緩まっていくのを実感する。枷は今には外れてしまいそうだ。
 そんな彼女の気持ちを露知らぬセンチピードは、
「このままでは少し触り難いですね。邪魔なスーツを少しちぎらせてもらいます」
 そういうと、胸元からアンダースーツを引きちぎった。白い柔肉がはっきりとその姿を現し、ぷっくりと膨らんだ綺麗な鴇色の乳輪とすっかり硬くなった乳首が闇夜にさらけだされる。
「や、やだ……恥かしい」
 だが、戦闘と肉欲で火照った身体に冷たい夜風が気持ちいい。また柔肉節足のせいで、アンダースーツは乳房を圧迫していた為、開放感が沸く。
 スーツから完全に乳房を露出させ、肉足を螺旋状に巻きつけると、
「では、そろそろこちらもいい頃でしょう。あんまり待たせても悪いですからね」
 最後の砦ともいうべきショーツに触れた。
「や、やあ……だめえ!」
 何人もの男性達から、下着越しに性器を舐められているかのような感触が、ユミエルを襲う。彼女は悩ましげに身を悶えさせ、熱い吐息をつく。
(たえなきゃ……)
 だが、我慢ができない。現に彼女の秘花からは純白の下着は生地が透けるほどに淫液が溢れ、疲労と快楽で理性が働かない。
 肉足達はショーツの上から幾度となくクレパスの溝をなぞり、秘肉を撫で回す。勃起した肉芽を探しだし見つけると、丹念に嘗め回し、捏ね繰り、執拗なまでに責める。
(ひゃ……だめぇ……気持ちいい)
 執拗な責めが功を奏したのか、ユミエルの口からは再び甘い息が漏れ始める。下着越しであるのがもどかしい。
 ユミエルはもどかしさの余り、思わず柔肉節足の動きに合わせて腰を動かしてしまう。
「おや、ユミエルさん。素直に感じてくれているようですね。嬉しいです」
 そんな彼女を、センチピードは嬉しそうに呟く。
「ち、違う」
 彼の言葉で我に返ったユミエルは、必死に否定の言葉を返そうとしたが、
「素直になりなさい。気持ちいいんでしょう? こんなに濡らして……」
 センチピードは身体を動かして、頭部を彼女の股間まで持ってくる。
「ひぃッ……」
 見ないでと続けたかったが、それを口にするだけの気力が湧いてこなかった。
「本当に凄い状態ですね。白いパンティがぴたりと張りついているから、性器の形がくっきり浮かんでいますし、愛液でびちょびちょに濡れて透けてますよ。これじゃあ、下着をつけている意味がありませんね」
 センチピードは、ユミエルにとって聞きたくもない説明をする。
「ああぁぁ……」
 彼の熱い視線をいっぱいに感じ、恥辱と屈辱が心を苛む。
「どれどれ。ちょっと味見させてもらいますね」
 センチピードはそういうと、ユミエルの股間に顔を埋め、ちゅぱちゅぱと下着越しに淫穴から流れでる蜜液を舐め飲み始めた。
 柔らかい舌が濡れ透けた下着を這いずり回り、羞恥と愉悦に燃える淫花を刺激する。百足影魔によるゼロ距離視姦と直接的な舌愛撫に、
「あ……や……あぅん! そこ……だめぇ!」
 ユミエルは息絶え絶えに拒絶の声を上げながらも、快楽に全身をしならせ、よがり狂う。羞恥と快楽で真紅に染まった顔は淫蕩と愉悦に塗れ、口からはだらしなく涎を垂らしていた。まさに快楽に悶える女の顔である。
「ふふふ。天使さんのだす汁は美味しいですね♪」
 彼女に聞かせるように、わざと音を立てて膣液を飲み込むセンチピード。
「では、少々はしたないですが、直に口つけさせてもらいますよ」
 ユミエルの下着をずらし、ぱっくりと開いた彼女の秘花に口つけた。
「ふあ……はぅん!」
 センチピードはじゅるじゅると大きな音を立てて、彼女の淫穴に吸いつき、中から溢れてくる淫液をごくごくと飲んでいく。量が少なくなるたびに、肉唇に吸いつき、肉芽を舌で転がして、新しい淫蜜を促し喉を潤す。
「ひゃ……だめ……もうダメぇ〜! いあ……いやああぁぁッ!」
 もうこれ以上、快楽に抗えない。頂点まで昇りくる熱い衝動に突き動かされるまま彼女は全身を揺らし、狂ったように首を振って、悶え乱れる。そして……
「あう!……あああああああ──ッ!」
 絶叫を上げながら、淫悦の頂点まで登りつめた。快楽の海に心を泳がせ、絶頂の余韻にぴくぴくと身体を痙攣させ、荒い息をするユミエル。
(わたひ……わたし……いっちゃった……)
 彼女は恥辱のエクスタシーに涙を流す。
 だが、涙を流しながらも、
(……足りない……)
 気持ちいいが、しかし、もの足りない。
 ユミエルの肉悦はまだ少しも静まっていない。自分の身体の中で最も熱いところに寂しい空白感を感じる。一人ではどうやっても満ち足りない部分。女体の中で唯一つ欠けている部分がせつなく疼いて仕方がない。
「さて、前戯もこれぐらいにしておいて、本番に入りますか」
「ほ、本番……?」
 センチピードエクリプスの言葉に、ユミエルの心に期待と高揚感が湧く。心臓の鼓動が高まり、きゅうとあそこが締まるのを感じる。
「ええ。次は私も射精させてもらいます。ちょっと数が多いですけど、まあ、ユミエルさんなら大丈夫ですよね? ユミエルさんはやればできる娘ですよね?」
 そういうと彼は何十本もの節足達を、先端が男根の形をした節足に変化させる。
(こ、こんなに相手にするの?)
 うねうねと自分の身体を這い回る男根節足にユミエルの心は僅かに怯む。
「……それだけは……」
 そこまで口にしながらもあとの言葉が続かない。男根節足は快楽の海に心を泳がせている少女にとって、余りにも魅力的過ぎた。
(こんなに……挿入されるんだ……)
 全身の穴という穴を犯されるんだと思うと、淫猥な心が期待で高まる。彼女の心の反応したのか、女穴からも新たな淫液が溢れだす。
「どうやら、期待してくれているようですねえ」
 熱心に男根節足を見つめる少女に、センチピードが嬉しそうに声をかけると、
「では期待に沿って、今すぐ挿入して差し上げましょう」
彼は一本の男根節足を下着の中に潜り込ませ、ユミエルの花園に踏み入った。
「きゃあぅん!」
 彼女は嬌声を上げて、それを迎え入れた。待ちに待った至福の瞬間。ユミエルの秘口は侵入してきた男根節足を貪るように咥え込み、貪欲に飲み込んでいく。
(はいってくるぅ……どんどん……奥に入ってくるよぉ〜)
 彼女は自分の中の切ない空白部分が満たされていく感触に、身も心も陶酔する。肉壷は侵入者を歓迎するように吸いつき、絡みつき、蠢く。
 狭く柔らかい肉穴を進んでいく男根節足が膣奥まで到達。子宮口に軽く触れる。それだけで、
「ひゃあん!」
 敏感になっていた彼女は達してしまった。
「うぅむ……よっぽど、挿入して欲しかったようですね。もの凄く吸いついて……動いていますよ」
 だが、センチピードの声はユミエルには届いていなかった。
(あふぅ……き、気持ちいいよ〜)
 絶頂の快楽と膣中が満たされる充足感が、天使の心を溶かしていた。
「そんなに夢中になってくれるとは……嬉しいですねえ」
 快楽による忘我の境地に浸っている彼女を好ましげに見つめると、彼女の膣中に入れている男根節足を動かしだす。
「あぅ! あん!……だめ……あん! おかしくなっちゃうッ! はぁあん!」
 ユミエルは大きく嬌声を上げる。男根節足がだし入れされるたびに、ぐちゅぐちゅと粘質な水温を立て、淫穴からは愛液が噴きだし、飛び散っていく。
(いいッ!……はぅ……凄くいいよ──ッ! 膣中で……膣中で凄く暴れてるぅ!)
「あぅん!……ひぃ!……やあぁぁぁぁッ!」
 艶かしく嬌声を上げながら、身体を痙攣させるユミエル。螺旋状に白い乳房を貪る無数の肉足はしつこく乳首を弄り、ニーソの中に侵入している肉足達は足の指だけでなく、その付け根や爪の間まで嬲る。
(やん……ああっ……気持ちいい……おっぱいも足の指も……何もかも気持ちいいよぉ)
 肉悦に瞳を蕩けさせ、くねくねと身を躍らせる天使。潤みきった蜜壷を抉られるたびに、脳髄にまで悦楽が響き、彼女の身体を甘く痺れさす。上の口も下の口もだらしなく涎を垂らし、彼女は巻きつけられている不自由な身体を揺すって乱れまくる。
 そんな彼女を歓迎するように、センチピードの変形節足達はユミエルの身体への責めをより激しいものにする。
 肉足達は全身を舐めるように這いずり回り、彼女の綺麗なうなじや喉下、脇の下や細い二の腕、手袋の中に潜り込み、手の指一本一本に絡みつく。生脚の太腿や付け根を責める肉足は存分に肌や肉の感触を味わい、激しく舐めるように責め立てる。優美な聖衣は肉足表面の粘液で汚れ、きめ細かい白い肌はまるでローションでも塗られたかのように、街の灯りで照り光る。
 乳房に巻きついている肉足は搾るように動き始める。きつく搾られるたびにむにゅむにゅと肉足達の隙間から零れるように乳肉は動き、肉足達の動きに合わせて、頂の突起を振り乱す。
 ニーソの中に潜り込んだ肉足は、彼女のふくろはぎに絡みつき、足の指一本一本を擦り、足の裏を舐める。
 身体を這いずり回る男根節足は、ユミエルの肌といわず服といわずに這いずり回り、亀頭状になった先端を擦りつけ、先走り液を塗りつけていく。
 ユミエルの身体を使った淫靡な粘着音が奏でられ、
「ひぃ……やあ……そんなに……弄っちゃ……だぁめええぇぇッ!」
 その音楽に合わせて歌うかのように、嬌声を上げる天使。全身が快感で包まれ、身体の奥まで貫かれ、全身の神経は膨大な快楽に悲鳴を上げる。
 ユミエルは余りの快楽に、小さく折りたたんでいた二枚の光翼を大きく広げる。白い光の翼は彼女の震えに合わせて小刻みに震え、儚げに明滅する。
「ふふふ。羽まで広げて。本当にあなたはお好きなんですねえ。それなら、もっともっと楽しませて上げますよ」
 身体を這いずり回っていた男根節足が、牙を向くように襲いかかった。
 あるものは彼女の慎ましい肛門に。あるものは彼女の口に。あるものは彼女の両耳に。あるものはお臍の窪みに。肉穴からあぶれたもの達は、ニーソや手袋・下着など布穴の中に潜り込んで締めつけを味わう。
「うぶぅ!……むぅん……むはっ……ひぃ、気持ちいい……じゅる……」
 全身を犯される喜びに、身を震わせるユミエル。天使の肉体全てを貪る全身陵辱にユミエルの心は喜悦の牢獄に囚われてしまう。
 全身を責める淫棒達は少しの乱れもなく交互に動き、絶え間なく彼女に肉悦を送る。
「ほら。ユミエルさん。余っている男根節足がありますよ。あなたのお手で抜いてくださいよ。自分ばかり気持ちよくなるのは不公平でしょう?」
 百足影魔は彼女に手での奉仕を要求する。普段の天使ならそれに対し、反対したであろう。が、疲労と快楽で思考力と理性を失っている天使は、
「うぷぅん!……ひゃい……分かひました……」
 素直に男根節足を掴み、手コキする。
 きつく握り締めながらも絶え間なく指を動かし、亀頭の部分やその先の穴を刺激する絶妙な指使い、エナメル質の滑らかな感触、天使の柔らかな掌や細い指がたまらなく気持ちいい。彼女の手の中でびくびくと男根節足は脈動し身悶える。
(ああ……おちんちん……おちんちん……好きぃ)
 気づけば、ユミエルは自分から積極的に動いていた。
 男根節足の動きに合わせて、くねくねと妖艶に腰を動かし、自分から肉棒を体内に押し込んで貪り、可憐な唇を必死に搾り巧みに舌を動かして口内の男根を愛で、全身を揺り動かして、多くの男根節足に奉仕する。
「そんなにがっついて。いやらしいですね〜♪」
 センチピードは陥落した天使の姿を見て、嘲弄する。しかし、情欲に溺れている天使は嘲られても、屈辱を感じず、むしろ、倒錯じみた喜びを覚えてしまう。
「さあて、まずは一発目をださせてもらいますか。ユミエルさんはこれが好きだと聞いていますからね〜たっぷりとだして上げますよ!」
 射精が近いのか、男根節足達がぴくぴくと脈動し、ずぶずぶと少女天使の身体を激しく責め立てる。
「うぅぷぅ! ううぅん……うんああああ──ッ!」
 何かを叫ぼうとする堕淫天使だが、口がふさがれている為、言葉にならない。彼女はピンと背筋を伸ばすと、その身をビクビクと激しく痙攣させた。どうやら絶頂したみたいだ。それと同時に肉壷の接合面から、湯気を立てて、温水が噴きでた。潮吹きしたのか、それともお漏らしなのかは分からない。恐らくは両方だろう。
「いきますよ、ホラ! たっぷりとだして上げますッ!」
 我慢の限界がきたのか、彼もまたその欲望を吐きだした。身体の外といわず中といわずに灼熱液が放出され、ユミエルの体内や聖衣を汚染する。
 ストレートのプラチナブロンドの髪や幼さ残る美しい顔、形のいい耳たぶ、うなじや脇の下、白い手袋や神々しいケープ、天使の証である純白の衣装と白光の翼、黒いアンダースーツや扇情的なマイクロミニのスカート、そして白いニーソックスが白濁液で汚染され、剥きだしになっているCカップの美乳やむちむちとした太腿、白い素肌を汚していく。
 欲望の放出が止まると、センチピードエクリプスは絡みつけている長い胴体や節足を解き、ユミエルの身体を解放した。戦いと絶頂で疲れ果て、更に心まで堕ちている彼女を、拘束する意味は最早ないに等しい。それに他の体位で楽しみたいのだろう。
 離れるついでとばかりに挿入している節足も彼女の中から引き離す。
 耳の穴からも、可憐な唇からも、臍の窪みからも、手袋の中からも、下着の隙間からも、淫らな女の部分からも、開発され尽くした肛門からも、ニーソの中からも、彼の白濁した欲望汁が溢れでて、ぬっとりとした粘液を引く。
(ふあぁ……もうだめぇ……)
 疲労の頂点に達したユミエルは、光翼天使でいる姿も維持できなくなり、変身が解除される。光の繭に包まれ、背は小さく縮み、天使の衣装はここにくるまでに着ていた普通の服になり、体型も成熟していた女性から未成熟な少女の体型になる。光翼天使ユミエルからただの人間、羽連悠美へと戻ってしまった。
「ほほう。天使さんの正体はこんな感じでしたか」
 センチピードは精液の海に横たわる悠美を、興味深げにしげしげと見つめながら呟く。
疲労困憊で、意識を混濁させている少女の耳にその声が届く。自分の正体がばれてしまった。だが、疲れ果てている少女の心には危機意識は芽生えない。疲れ果てた身体や精神は休息を求め、このまま眠る事を欲していた。
「ふふふ。変身ヒロインとはいいものですよね。一粒で二度味わえるのですから」
 しかし、影魔はそれを許さない。
 センチピードエクリプスは彼女の後ろに回り込み、肉足節足を両手に巻きつけ、後ろにやる。
「もう……むひぃですぅ……これひじょう……いけまひぇん」
 悠美は涙を流しながら、眠たげな、力ない声でそういった。
「……もう無理ですか……」
 鸚鵡返しする百足影魔。
「しかし、無理とか不可能に挑戦してこそ男でしょう。ふふふふ。頑張りますよ♪」
 そういうと彼は、彼女の衣服や下着の中に節足を潜らせる。
「ためぇ……本当に……もう……ためだからあぁ……」
「いいですねえ、その言葉。無理とか駄目とかいわれると、燃えますよ」
 悠美の肉芽に触れている節足が、急に振動し始めた。
「きゃああああッ! な、に……これえええぇぇぇッ──!」
 絶頂の連続で敏感になっているクリトリスが振動の刺激で痛み、彼女は思わず叫び声を上げる。
「おやおや。何ですか。叫ぶだけの元気があるじゃないですか。まだまだ大丈夫そうですね」
 彼女の叫び声を好意的に解釈をするセンチピード。欲望の充足しか考えない影魔は悠美の身体の事など、お構いなしのようだ。
「いやっ……やだ……やだ、だめええぇッ……」
「嫌々ばかりいっていてはいけません。駄々を捏ねないでください」
 駄々を捏ねる子供をあやすようにいうと、悠美の身体を責め始めた。肉芽に当てている振動節足を弧を描くように動かす。
「ふあ……う、動かしちゃ……やだ」
 振動に悠美の身体は反応し始める。
(ふあ……や、……びりびりと痺れちゃう……)
振動に慣れてくると今度は甘い痺れが彼女の身体に襲いかかる。振動節足が動かされるたびに甘い麻痺した部分が刺激され、淫快が頭の奥にまで届く。
「先程は全体的な責めでしたので、今度は一ヶ所重点責めにしてあげましょう。集中的に責められた方が、ユミエルさんも嬉しいでしょうしね」
 悠美の肉芽を弄びながら、話しかけるセンチピードエクリプス。
「ひゃ……そんなの……だめえ……」
 残酷な宣言を聞かされ、嫌々する悠美。限界にきている身体で、女体の敏感な部分の集中責めなど耐えられるはずがない。
 だが、そんな彼女の思いに興味のない百足影魔は、淫芽遊びに熱中する。強弱をつけながら振動を送り、痺れている肉芽をマッサージするように優しく捏ね繰り回す。
「そろそろ、いいですかね……」
 センチピードは彼女の感じ具合を確かめると、肉芽を覆っている包皮を剥き、振動を送る。皮の防御を失った敏感な部分に振動を送られ、
「あうぅ! やあっ! ひぃ──ッ!」
 悠美は大きく口を開け、舌を伸ばしながら、達した。
「ほらほら、涎が垂れていますよ。だらしないですねぇ」
 センチピードは悠美の口から垂れる涎をすくうと、そのまま節足事、彼女の口に入れる。
「うぐぅ……うんっ……う、うぅん……」
 抵抗力を失っている悠美はそれを大人しく咥え込んだ。
「さて、まだまだ大丈夫ですよね。お楽しみはこれからなのですから♪」
 センチピードは一本の節足を針ほどの大きさにすると、勃起している悠美のクリトリスの中に挿入し、慎重に尿道の中を進ませる。そして、膀胱までいき着くと、そこで停止し、太さを尿道範囲に合わせて調節する。
(な、何をするつもり……?)
 疲労による倦怠感に包まれながらも、センチピードの行動に怯える悠美。そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、
「大丈夫ですよ♪ 少し刺激が強いですが、まあユミエルさんになら耐えられるはずですから♪」
節足の太さを尿道いっぱいにすると、
「さあて、下準備♪ 下準備♪」
 彼女の両脚の付け根に巻いてある節足が急に冷え始めた。
(いったい……何なの……)
 予測できないセンチピードの行動に、悠美は戸惑う。
 五分ほど冷やし、両脚の付け根が均等に冷え、感覚が冷たさに慣れてきた頃、
「オナクールって知っていますか?」
 百足影魔が放しかけてきた。
 オナクールという言葉を知らない悠美は、ぷるぷると首を横に振る。それを見て、
「知らないようですね。では簡単に説明しましょう。太腿の付け根にある血管を、冷やす事で収縮させ、血圧を高める事で、従来のオナニーを超える性感を発生させる方法です。このやり方は男女関係なしに気持ちよくなれるそうですよ」
 説明を聞いて、悠美の心は青ざめる。ただでさえ、感じやすい身体だというのに。今の状況で、そんな快楽を与えられたらどうなるだろう。
 意識が飛ぶ? そんなものではすまない。下手したら、死にかねない。
「さて、そろそろいいですかね」
 百足影魔は冷やすのを止め、付け根から冷却節足を外すと、二本の振動節足を肉芽にくっつける。
「や、やめて……」
 力ない言葉で中止を嘆願しようとする悠美だが、
「振動もマックスでいきますからね♪ 死ぬほど感じてください!」
 彼女の言葉を遮って、最大振動で女芯を責め始めた。外側二本だけではない。尿道に潜り込んでいる節足まで振動する。
冷やされた部分を暖める為に大量の血液が流れてきた事で、普通時よりも大きく、そして硬く勃起した肉芽は信じられないほどに敏感で、まるで重たい鈍器──金属製のハンマーか何かで殴られるような暴力的な快感が、ハリケーンの如く悠美に襲いかかる。
「や、やあああああ──ッ! し、死んじゃうううぅぅッッ!」
 その余りの快楽に彼女は絶叫した。身体中の毛が逆立ち、目の前が真っ白になる。ブラックアウトしそうなほどの快感。胸が詰まり、呼吸ができない。心臓が激しく脈打ち、絶頂へのカウントダウン。
(わたし……もう……)
 凄まじい速さで絶頂付近まで登り詰める悠美。それを察したのか、
「いい声だしてくださいね♪」
 センチピードが絶頂を促すように優しく囁き、女芯を強く捻った。
「だめえええええぇぇぇ──ッ!」
 悠美は促されるままに絶叫した。全身を壁に叩きつけられるような快感が、悠美の中で駆け巡る。まるで初めて絶頂させられた時のような、圧倒的な快感と衝撃に彼女の心は震える。
 そして、激しく脈打つ心臓の鼓動に合わせて、意識が闇へと消えていく。
「どうやら、ここまでのようですね」
 全身をぴくぴくと痙攣させ、意識を失いつつある悠美を見つめながら、センチピードは呟く。もう少し彼女で楽しみたいのだが、この様子ではもう無理だろう。
 少々もの足りないが、仕方がない。センチピードは影魔の状態を解き、人間の姿に戻ると、彼女を抱えて、主の下へ向かおうとした。
 だがその時、どこからともなくジュースの缶が飛んできて、彼の頭に命中する。不意を突かれた事に驚き、センチピードは思わず、悠美を手放し、
「ぐうぅ……誰ですか!」
 周囲を見渡した。しかし、誰もいない。どこにも姿は見当たらない。
 センチピードは再び、影魔の姿に変身すると、その無数の節足を隙間なく伸ばし、周囲を探る。しかし、反応なし。どこにも誰もいない。
 不意に彼の目の前に、一人の少女が姿を現した。
 髪は非常に長く膝近くまで伸び、その目は泣き腫らしたように赤い。清楚な白いシフォンワンピースを身につけた、幼げで何とも儚げな姿をした少女だ。妖精の言葉がよく似合う。現にその背には蜻蛉を思わせる、薄く透明な二対四枚の羽が生えていた。
「何ですか、あなたは」
「…………」
 少女は質問には答えず、黙って更に変身した。漆黒のカーテンが全身を覆い隠し、暗闇の中で薄い透明な羽と白いレーススリーブのワンピースが溶けるように消失。変わりにダークグリーンのキャミソールドレスを着、その上からはグレイのケープマントをまとっていた。
 変身が完了すると同時に、
「バンシーウェイル!」
 彼女は悲痛な声で泣き叫んだ。
「ぐがあああぁぁッ!」
 その泣き声を聞いて、センチピードは声を上げて苦しみもがいた。心がかき乱され、魂が磨り減らされるような感覚。何故だか分からないが、酷く悲しい。心が痛む。いったい、何故? 
「この……心の底から溢れてくる痛みは……感情は……悲しみ」
 影魔となって久しく忘れていた感情に、センチピードは思わず声を上げて泣きだした。
 その隙をついて、少女は悠美の下に駆け寄る。
「……逃げよ……」
「……あなたは……」
 気を失いかけていた悠美だが、センチピードと同じように、湧き上がる心の痛みが気付薬になり、何とか気をとり戻す事ができた。
(鈴ちゃん?)
 髪形と印象が違う為、直ぐには分からなかったが、間近で見て、悠美は少女が誰なのか気づいた。
 鈴は彼女を抱きかかえると、上空高くに舞い上がる。
「くうぅ……しまった!」
 自分をとり戻したセンチピードは、急いで節足を伸ばし、二人を捕らえようとする。だが、それを鈴は回避すると、すぐにビル陰に隠れる。
(……助かったの……?)
 悠美は思わぬ救援に安心したのか、彼女の腕の中で意識を失った。


 深い暗闇の中から水流の音がする。
 温かなお湯が自分の身体を叩き、不快な汗や粘液を洗い流してくれる。それを促すように柔らかな手がマッサージするように全身を撫で回している。微塵も厭らしさを感じさせない、優しい手つきだ。
 細く小さいながらも、柔らかく暖かい手は、時に優しく、時に力を込めて、くまなく彼女の身体を洗う。
(……ここは……)
 はっきりと覚醒した悠美は、ゆっくりと目を開く。すると、
「……気づいた……?」
 水流音が止まり、湯気越しに鈴の顔が視界に飛び込んできた。
「……鈴ちゃん?」
 数少ない友人の顔を見て、安堵する悠美。しかし、同時に彼女が見せた姿と能力に警戒心が湧く。いったい、彼女は何者なのだろう。
「ここは……?」
 彼女は周囲を見渡す。
 どうやら、浴室のようだ。床や壁には高価な御影石や大理石のタイルが使われ、清潔さと暖かさを感じさせる。
「……って、わたし、裸!」
 ふと、自分が裸なのに気づき、悠美は急いで身体を両手で隠そうとする。同性同士とはいえ、他人に肌を見せるのは恥かしい。
「その……悠美……汚れてたから……」
 鈴は彼女に大きめのバスタオルを手渡す。
 バスタオルを受けとりながら、
(へえ〜……鈴ちゃんって着痩せするタイプなんだ〜)
 彼女の身体をじっと見つめた。
 汚れた彼女を洗う為に、鈴も服を脱いで、バスタオルを巻いている。
 しかし、タオルは湯気で湿り、シャワーの飛沫で濡れ、身体にぴたりと張りついている。その為、体型が一目瞭然である。身長は悠美より低い百四十半ばの癖に、胸のサイズは彼女よりも二つくらい大きい。女性らしい柔らかなラインを描く腰周りはぎゅっと細く引き締まり、全体的にスリムな為、アンバランスな大きさの胸は否が応でも目立った。
「……何……?」
 視線を感じたのか、鈴が話しかける。
 その声に、
「うぅんっ! な、何でもないッ!」
 悠美は、はっと我に返り、赤面しながら慌てて言葉を返す。
 きょとんと首を傾げる鈴。
「じゃあ、でるね。着替え、置いておくから」
 彼女はそそくさと浴室からでていった。
 話したい事はたくさんあったが、とりあえず、身体を洗う事を優先にした。
 自分を助けてくれた以上、敵ではないだろうし、友人が敵だとは思いたくなかった。それに彼女の変身した姿からは、エクリプスの力も気配も感じなかった。だから、多分に大丈夫だろう。
 一通り身体を洗い終え、シャワーで流すと、
(もしかして……あの娘が組織の……)
 湯船に浸かりながら、『イバラの姉妹』が派遣した人間の事を思いだす。
 詳しく覚えてはいないが、組織が送り込んできた人間の住所はこの辺だったはず。もしかしたら鈴は『イバラの姉妹』が送り込んできた人なのでは。それならあのような能力を秘めていても、おかしくはない。
(うん……きっとそうに違いない)
 考えをまとめると、悠美は湯船から上がる。
 脱衣所で濡れた身体をタオルで拭き、ドライヤーで髪を乾かすと、用意されたバスローブを身につける。腰の紐部分の結ぶと、脱衣所からでて、リビングに向かう。
 リビングでは同じような格好をした鈴がいた。その手にはマグカップを持ち、熱いのか、軽く息を吹いて冷ましながら、少しずつ口をつけている。
 彼女の視線に気づいたのか、悠美の方に顔を向けると、
「ホットミルクだけど……いる?」
 話しかけてきた。
「う、うん……」
 思わず、うなずいてしまう悠美。聞きたい事があるというのに、何をやっているのだろうと、少しだけ気落ちする。
「蜂蜜入れる? 入れない?」
「……えっと、入れないで」
「うん、分かった。ちょっと待ってて」
 彼女はキッチンに向かう。
 しばらくすると、マグカップを手にして戻ってくる。
「はい……どうぞ」
 悠美に手渡す。
「あ、ありがとう」
 彼女はそれを受けとり、礼をいうと、口をつける。
 二人は黙って、ホットミルクに口をつける。
 話をどう切りだせばいいのだろうと、悠美は戸惑う。
「……TV……つけようか?」
 重たい空気を察したのか、鈴が気を使うように話しかけてくる。
「……いや、いいよ」
 余りTV番組を見る方ではない悠美は、つい断ってしまう。
「あっと……何か見たい番組でも?」
 彼女は自分のしたうっかりミスに気づき、急いで話しかける。
「いや……特にないけど……」
 会話が途切れ、再び、沈黙の帳が降りてくる。
 カップの中身が減り、ミルクが冷めていく。悠美は温くなったミルクを一気に飲むと、
「……どうして、あの場所にいたの? それにあの姿はいったい……」
「……そういう悠美はどうして、あそこにいたの?」
「それは……」
 悠美は質問にどう答えるのか分からず一瞬、言葉に詰まり、
「……ちょっと用があって……」
 下手くそないい訳をしようとするも、
「こんな時間に? あんなところに?」
 鈴は鋭く言葉を投げる。下手に誤魔化そうとした彼女を咎めるように。
「…………」
 その言葉に悠美は黙り込む。話したい事はたくさんあるのに重たい空気に呑まれ、喋る事ができない。
「悠美がちゃんと話してくれない限り、あたしも話さないよ」
 彼女の口調に少しだけ苛立ちが隠れていた。自分の事は喋ろうとしない悠美に、ほんの少しだが、憤っているのだろう。
「……うん……」
 下手な誤魔化しやいい訳は通じないと判断したのか、
「……エクリプスって知ってる?」
 悠美は持っているマグカップをテーブルに置くと、意を決して口を開く。
 鈴は彼女の質問に対し、首を縦に振る。
「わたしはとある組織の命令で、この市にいるエクリプスを狩りにきたの。あそこにいたのは、エクリプスがいるのが分かってたから……だから、あそこにいたの」
 できるだけ、言葉を選びながら、説明する。
「ある組織って……?」
「それは……」
 悠美は少しだけ返答に困る。組織は教会の陰の部分と密接に関わる為、簡単に喋ってもいいものではないからだ。故に、
「それはいえないわ」
 悠美は言葉を切る。
 しばらく、彼女の言葉を待っていた鈴だが、その続きを聞く事を諦めたのか、
「……あたしがエクリプスだといったら、どうする?」
 今度は彼女が自分の事を喋りだす。
「……あたしもエクリプスなの……フェアリーエクリプス……それが私のもう一つの姿の時の名前……」
 悠美はそれを聞いて目を丸くする。想像していたよりもショックが軽かったのは、心のどこかで彼女はエクリプスだと分かっていたからだろう。それでも心は動揺するのは、鈴が影魔なんかではない、普通の女の子であり、友人だと思い込みたかったからだろう。
「……嘘よ……だって鈴ちゃん、エクリプスの気配も力も感じなかったし……それに……」
 それに鈴は余りにも人間的過ぎる。
 影魔は強烈な欲望や絶望があって初めてなるもの。故にエクリプスになった人間は、欲望のせいで、人格が破綻し、非人間的な性格になる。
 それは上級エクリプスとて同じ事だ。
 かつて戦い殺した友人・新野瞳が変身したエクリプス、ヴジャドエクリプスは自分の居場所と恵理子という友人に固執し、それを邪魔する可能性があるもの全てを排除していた。 最近ならウルフヘジンエクリプスが非常に分かりやすい。彼の場合、やたらと自分の力や強さに固執している。
 下級に比べれば、元となる人間の人格が多く残る上級エクリプスですら、どこか歪な性格なのに。何故、鈴はそれがないのだろう。
「……あたしの場合、エクリプスに成り損なったから……」
 彼女はその事についても説明する。
「……あたしの場合、エクリプスの力だけがでたの。珍しい事だって。時告さんがそういってた……」
「あの人も……エクリプスなの?」
 悠美の問いに対し、鈴はうつむき、黙り込む。喋りはしないが、そうなのだろう。
「……鈴ちゃん……教えて。あの人は何者なの?」
「……それは……悠美が先に喋って……でないと……あたしも喋らない。うぅん、喋りたくない」
 彼女が肝心の事を全く喋っていない事を見通しているのか、鈴は答えようとしない。
(……なんで喋ってくれないの?)
 二人はお互いの腹を探りあうようなこの会話に、不快感を覚える。そして、そんな風にしかできない自分達自身に対して。
 折角、いい友人になれたというのに。それなのに、お互いに不信感を募らせ、こんな風にしか話し合う事ができないとは。
 先程のよりも遥かに長い沈黙が続く。
 喋るのも辛いが、黙っているのも辛い。
 しかし、言葉を紡ごうにも、どう紡げばいいのか分からず、時間だけが進んでいく。
 何時間──体感時間であって、実際には十分にも満たない時間だが過ぎた頃、
「……あたし……知ってるんだよ……」
 鈴がぽつりと口を開いた。
「悠美の正体……天使だって事……」
 悠美はその言葉を聞いて、全身から血の気が引いた。何故? 何故、自分の正体がばれているのか。心辺りがあるとすれば……
「あれ……見たの?」
 先程の百足影魔に襲われていた時だろう。力がなくなり、変身が解けたのを見られてしまったのだ。だからだ。組織の命令できたといった時に大して驚かなかったのも、自分の正体を平然とばらしたのも、そして、彼女が悠美に大して不信感を募らせているのも。
鈴が何一つ重要な事を喋らない悠美を邪推しているのは、そのせいだ。
 彼女の首が縦に動くのを見た悠美は──
「……わたしは……鈴ちゃんのいう通り、わたしは天使……光翼天使ユミエル……それがわたしの正体……ママも同じ光翼天使よ。何でもママ、昔、『イバラの姉妹』って、組織に所属していた事があって──今は違うけどね──今回、わたし達母娘はこの市で暗躍している影魔を狩りにきたの」
 これ以上、隠し続ける事はデメリットしかないと判断し、彼女は正直に全てを話す。
「……そうなんだ……」
 説明が途絶えたところで、一言、呟くと、
「……『イバラの姉妹』って……法王庁滅魔省特務シスターの事?」
 鈴は尋ねる。
「……知ってるの?」
「うん。確か……時告さんが所属している組織……あたしを……登録しておく必要があるからって……教えてくれた」
 エクリプスであるが、特に危険性がない為だろう。彼女の安全と教会の名誉を守る為の処置といったところか。
「じゃあ、やっぱり関係者なんだ。でも、どうして話してくれなかったの?」
 やはり、彼女達は『イバラの姉妹』との関係者だ。その事に悠美はほっと安心する。そして、組織が派遣した一組とは彼女達の事なのだろうと考えた。
「それは悠美も同じじゃない……」
 組織は情報の機密性や秘匿性の為、余り詳しい素性は教えてくれない。おまけに悠美の場合、詳しい情報は全て真理に任せていた。直ぐに分からなかったのは無理もない事だ。
「……うん、ごめんね……」
 悠美は素直に謝る。彼女を信じてやれなかった事に対して。
「……うぅん、いいよ……こっちこそ……ごめんなさい……」
 鈴も謝る。少し意固地になっていた自分の事を。
 互いに謝り、疑惑も解け、仲直りしたところで、
「……そろそろ、寝よう……」
 夜も更けていた事もあって、鈴はそう切りだす。
 彼女は悠美を自分の部屋に招き入れると、
「ベッド……悠美が使っていいよ」
 予備の布団を押入れからとりだしながら、ベッドを譲る。
「え……いや……鈴ちゃんの家なんだから、鈴ちゃんが使って」
 二人はお約束の押し問答をし、ベッドが大きい事を理由に、一緒に眠る事が決まる。
「……じゃあ、電気消すね……」
 鈴は電気を消すと、ベッドの中に潜り込む。
「そういえば、聞きそびれちゃったけど、時告さんって何者なの?」
 暗闇の中、悠美はふと尋ね損ねていた事を思いだす。
「よく……分かんない……たた……古参の幹部の一人で、部隊の一つを運営しているとは聞いたけど……」
 詳しい素性は教えてくれないと彼女は語る。全く持って謎多き女性だ。
 謎といえば、もう一人。ウルフヘジンエクリプスの事が頭に浮かぶ。彼の素顔……一瞬だったから、はっきりとは分からなかったが、あの目はどこかで見た覚えがある。いったい、どこでだっただろう。
 ふと、一緒に暮らしているという大上京朗の事が彼女の頭に浮かんだ。
 一緒に暮らしているといっていたが、夜だというのにどうして、顔も何も見せないのだろう。仕事か何かで家を空けているのだろうか?
 また、真理の事も頭に浮かぶ。果たして大丈夫だろうか。無事ならいいのだけど……
 その他にも様々な事が悠美の脳裏に浮かぶが、しかし、戦いと陵辱に疲れた彼女を、ベッドは深い眠りへと誘い、意識をまどろませる。
やがて悠美は静かに寝息を立て始めた。

     2

 その頃、マリエルは激痛に声を噛み殺しながら、ケガの治療をしていた。
 右肩付近に風穴が開いており、呼吸するたびに傷が痛む。光の力で治療しながら、この傷を負った時の瞬間の事を思い浮かべる。
 あの激突の瞬間。ウルフヘジンは激突の衝撃に吹き飛ばされながらも、執念深くマリエルを狙い、攻撃してきた。それ故に彼女は重傷を負ってしまったが、自分を狙ってきた事から、愛娘は大丈夫だろうと思い、深々と息をつく。
 ケガの治療を終えると、錫杖を手に周囲を見渡す。ここがどこなのかは、はっきりとは分からないが、やはり、あの場所から離れてはいないところだろう。
立ち並ぶ建築物越しに空を見上げると、
「隠れているのを止めて、でてきてはいかがかしら? そこにいるのは分かっていますのよ」
 物陰に隠れているそれに向かって話しかけた。
「ふん、流石だな。気配は完全に隠したつもりだったのだが……流石は我らが宿敵・光翼天使といったところか」
 それは物陰の中から、姿を現す。口調と姿から判断するなら男性のようだ。
 マリエルは彼に向かって錫杖を構える。ケガの治療をしている時も油断なく、周囲に意識を向かわせるのは、熟練の戦士なら当然の事だ。ここが影魔の力で作られた領域である事も見抜いていたし、彼女の気配感知は微弱な反応も逃がさなかった。故に相手は下手に動く事ができず、タイミングを窺うしかなかったのだ。
(力の感じから判断するなら、下級エクリプス……この程度なら、今のわたしでもまだ何とかできるわ。だけど、それでも長期戦は無理ね。一気に勝負をつけなければ……)
 だが、ケガの治療に光の力を多く使用した上、連戦である。正直かなりきつい。聖母は眼前の敵を睨みつけると、
「クリムゾン・インフェルノ!」
 錫杖を横に振り、灼熱の火球を放つ。無数の火球が相手に襲いかかり、邪悪な欲望の影を浄化の炎が焼き尽くす。
(どうかしら?)
 手応えはあった。確実に相手は焼き尽くされたはずだ。
 しかし……
「無駄だ。この程度の炎では俺は倒せん!」
 相手は全身を燃やされながらも、悠然と彼女の前に姿を現す。
「俺はサンドエクリプス。砂の影魔。砂は燃やしても砂のままだッ!」
 彼女はそれを聞いて驚く。無機物がモチーフになる影魔は非常に珍しい存在だからだ。何より単純な物理攻撃が効かない相手。残り少ない力で倒すのは不可能だ。
(くっ、仕方がないわね。ここはひとまず……)
 撤退する事を彼女は考える。敵に背を向けるのは恥ずべき行為だが、戦士としての本能がここは引くべきだと叫んでいた。敵を倒す手段や作戦がない以上、引くのは当然。ずるずると戦えば、逃げる機会すら失いかねない。
 彼女は錫杖の先端を十字光刃にし、逃げるタイミングを伺う。ただ逃げるだけでは敵の追撃を受ける。故にまずは一撃を与えて隙を作り、一気に逃げる。単純な作戦だが、しょうがない。漫画のようなタイミングでユミエルが助けに現れるとは思えないし、例え、現れたとしてもあの時、既に力尽きかけていた愛娘がまともに援護ができるとは思えない。むしろ、ユミエルの方がウルフヘジンや他のエクリプス達に襲われてピンチかも知れない。この場は何としても自分だけで打開しなければ。
 二人はお互いの動きを警戒しあい、タイミングを伺う。絶対的優位に立つサンドエクリプスだが、つけ入る隙を見せない彼女を見て、何かあるのではと、警戒しているのだろう。
 周囲は静まり、沈黙だけが続く。
(くぅ……隙を見せないわね)
 身構えながら、マリエルは考える。このまま持久戦に持ち込まれると連戦しているこちらが不利。体力や魔力の関係もあるが、それ以上に精神力が持たない。肉体の治療はできたが、ストームブリンガーに魂の一部を喰われた事で、精神力や集中力に支障をきたしていた。心のケガは肉体のケガと違って、短時間で簡単に回復できるものではない。
(仕方がないわね……)
 少々強引だが、先手を打つ事を決める。膠着状態は先に動く方が危険である。後の先をとられかねないからだ。しかし、相手が動かず、持久戦ができない以上、他に手段がなかった。貧すれば窮するとは正にこの事だ。
 マリエルの気配に感づいたのか、相手の警戒心が強まる。警戒している相手に攻撃をしかけるなど、本当はやりたくもないが、それをしなければならないほど、聖母は追い詰められていた。
(できるだけ、敵の虚を突かなければ……)
 それでも彼女は少しでも状況の打開策を講じる。無謀な事だとしても、このまま何もせずに敗れるよりはマシだ。
「たああああ──ッ!」
 マリエルは十字槍の穂先を大きく掲げると、裂帛の気合と共に石突を地面に叩き、サンドエクリプスの足元から爆炎を噴きださせた。例え、炎の『熱』が効かなくても、爆発の『衝撃』は効くはず。形を破壊し、バラバラに散らしてしまえば、再生できたとしても、逃げるだけの時間は稼げる。
 だが、相手はその身体の形態を変化させ、対処した。単純な話、地面から自分を包み込む爆炎に対して、身体を砂塵にして散開させ、避けたのだ。
 聖母の乾坤一擲の攻撃を回避した砂影魔は、再び人間の姿をとると、自身の両手をハンマー状にして、マリエルに振りかかる。その一撃をとっさに十字槍で受け止めようとした彼女だが、ハンマーは液体の如く錫杖を通り抜ける。
「くぅ……」
 重たい一撃を肩に受け、彼女は思わずたじろぐ。それでも相手から間合いを空けようと、地面を蹴って、後ろに飛ぶ。が、
「逃さん!」
 相手は再び全身を砂塵にして襲いかかる。マリエルは必死に槍を振るうが、しかし、虚しく空を切るだけだ。
 砂影魔は砂塵の一部を集結させ棒状にすると、彼女の手から聖槍を弾き飛ばす。
「あっ!」
 弾き飛ばされた聖槍は数メートル先の地面に突き刺さる。武器を失った事に聖母は僅かに動転してしまう。その隙をついて、
「捕まえたあッ!」
 サンドエクリプスはマリエルの身体を壁に押さえつけ、自身の身体で彼女を包み込む。必死にもがくマリエル。しかし、砂の身体は掴むができず、簡単に指の隙間からすり抜けてしまう。そうこうしている間にも隙間という隙間から服の中に侵入してくる。
「隙間だらけの服装が災いしたな。こうなっては手も足もでないだろ」
 服の中から声が響いた。砂同士を擦りつけて、音をだしているのだろう。サンドエクリプスの口調には余裕があった。確かに彼のいう通りだ。あの攻撃が失敗した以上、戦うだけの力は殆どないし、こうも身体に張りつかれてはどうしようもなかった。飛ぼうにも足首を砂で掴まれ、彼女の身体を放さない。
「くっ……放しなさい! 汚らわしい!」
 壁に押さえつけられ、両手で必死に身体を支えながらも、聖母は毅然とした態度をとる。
「ふん。この状況でよくそんな言葉が吐けるな。大人しく命乞いした方が賢明だ。お願いします、助けてくださいってな」
 そんな彼女の態度を嘲笑うかのようにサンドエクリプスは言葉を返すと、聖母の肌の感触を味わうように、砂を流動させる。砂は汗でしっとりと濡れた彼女の皮膚に張りつき、ザラザラとした感触が伝わってくる。
「な、止めなさい! 変な真似はしないで!」
「何をいってる? そんな格好で戦いを挑んだお前が悪いんだろ。巨乳を見せつけやがって。誘ってんだろ、男を。胸も臍も太腿も丸だし同然。こんなエロイ格好で天使だ、何だと気取るなよ。この淫乱め」
 サンドエクリプスは彼女を陰湿な口調で罵ると、砂の一部を集結させ掌状にし、たわわに実った二つの果実を鷲掴み。蹂躙するように揉む始める。
 美巨乳はその柔らかさを証明するかのように、砂手の動きに合わせてたっぷんたっぷんと大きく揺れ動く。揉み込まれるたび、いいようにその形を変え、砂指を柔肉に沈め、指と指の間からはみでる。
「はうッ! 胸を……触らないでえ!」
「はっ、何をいってるんだ? 痴女天使様の身体をたっぷりと楽しませろよ。それに……」
 砂影魔は砂の一部を操作し、服の上から乳首をつねり、
「あんたも結構、期待しているんじゃないのか? 硬くなっているぞ」
 服に擦りつけるように指を動かし、身体の反応をいやらしく指摘する。彼のいう通り、乳首は硬く勃起し、ぷっくりと服を浮き上がらせていた。
「何をいっているの。硬くなっているのは、ただの……ただの肉体反応よ。わ、わたしは期待なんてしておりませんわ」
 強がるマリエル。しかし、内心は動揺していた。ユミエルと同じく、これまで影魔に散々陵辱されてきた肉体。自身が望まなくても快楽を感じるように開発されてしまった身体は、例え、強がってみたとしても隠し切れない。特に聖母の象徴でもある、人一倍豊かな胸は、ただ大きいだけでなく、感度も良好で、僅かな乳揉みにも過敏に反応してしまうほどだ。
「はあ……ふぅん……もう、このぐらいに……ふぅ……しなさい……でないと、あとで後悔する事になるわよ」
 顔を紅潮させ、形のいい濡れた唇から熱い吐息をつきながらも、聖母は強がる。
強がる彼女の反応を楽しむかのように、彼は揉み解す砂手に力を込め、
「何をいってやがる。このぐらいじゃ普通の男だって満足しねえよ。まだまだあんたのデカ乳を堪能させてもらわないとな」
 自分の痴漢行為を反省する気配がなく、下品な言葉を吐くサンドエクリプス。マリエルは恥辱にぎゅっと歯を食い縛る。
 砂影魔は乳首を押し潰して、ゆさゆさと強弱をつけながら胸を揺らし、それに飽きると、むぎゅうと揉み潰したり、両乳を右や左に揉み回したり、柔軟性に富んだ双乳を引っ張ったりして弄ぶ。
「ふああ……もう……もういい加減に……はうぅん……しな……くあああッ!」
 彼女の言葉を黙らせようと、彼は乳首を摘み、強く捻った。
「や……駄目ェ! そんなに強くぅ──!」
「何だ、もっと強くして欲しいのか?」
「ち、違……ううぅ!」
 否定の言葉を述べようとしたマリエルだが、砂影魔はそれを制するかのように服の中に潜り込んでいる砂を振動させた。
「や……な……何これ……砂が……砂が動いてるうッ!」
 いきなりの振動に、聖母は驚きの声を上げた。この砂はサンドエクリプスの肉体であり、武器であり、恐るべき陵辱道具でもあるのだ。
「やん……駄目ェ……止めて……この振動を止めてえぇ!」
 身体全身を愛撫するかのように振動する砂。服の上とも下ともいわず、振動を聖母に送り込む。
「情けない、この程度の事で。もっともっと楽しませろ。デカ乳天使様」
 サンドエクリプスはマリエルの嬌声を聞きながら呟くと、美豊乳を包み込み、砂のブラジャーを形成。砂ブラジャーは振動しながら、肉峰を揉み解し、乳首を摘み擦る。
「どうだ? 特性の下着は? 形もぴったりで悪くないだろ?」
 マリエルは必死に目を瞑り、声を噛み殺し、砂ブラジャーが与える快楽に耐えようとする。しかし、振動の甘い快楽はそんな気高い彼女の心を溶かそうとするかのように震え、あたかも獲物を捕らえた流砂の如く、じわじわと聖母の心を蝕んでいく。
(くぅあ……うん……ダメよ、こんな事で流されては。何としても手を考えつかなければ……ふん……手遅れになってしまう!)
 マリエルは何とか理性を張り巡らし、別の事を考える事で、溢れだす快楽を忘れようとする。ただ与えられる快楽に耐えるだけでは時間と共に耐えられなくなるし、相手を図に乗らせる。それに快楽に意識を向けると、意識が集中して余計快楽に溺れてしまうからだ。
(この攻撃なら……いいや駄目だわ。恐らくは……通じない……これなら……くうぅ……これをするには……はう! 力が……ふああ……おっぱいが……おっぱいが痺れるぅ。じんじんするぅ〜……力が足りない……くぅん……や、止めなさい、痺れているおっぱいを……ふぅん……そんな風に……力強く揉まないで……あんっ……これなら……この攻撃なら可能性が……あああッ……乳首……乳首をそんな風に抓らないで……)
 快楽に意識を奪われながらも、必死に解決策を模索するマリエル。だが、思い浮かぶ手を使うには天使の力が足りなさ過ぎた。またウルフヘジンエクリプスのストームブリンガーによって傷つけられたせいで精神力や集中力を失い、快楽によって思考を妨害される為、まともにものを考える事ができなかった。思考が飛んでは、同じ考えに堂々巡りし、作戦も何も考えつかない。
「どうした? もう抵抗も何もしないのか?」
 無抵抗にされるがままの天使にサンドエクリプスは話しかけてきた。
「こんな……こんな辱めに……ふぅん……屈するわたしでは……はぅ!……わたしではなくてよおッ!」
 マリエルは快楽に震えながらも力強く叫んだ。半分悲鳴のような声であった。
「ふん、まだまだ元気そうだな。それでいい。簡単に堕ちたのではつまらないからな」
 聖母の強がりは返って影魔の嗜虐心を覆った。いかにしてこの天使を堕とそうかと、砂影魔は心の中でほくそ笑む。
 足首を掴んでいる砂の一部を動かし、身体を支えている両手と共に壁に固定すると、
「さて。まだまだ、楽しませてもらうとするか」
 彼はそういい放ち、彼女の下半身に砂と向かわせた。下半身に向かった砂達は下着周辺に陣どり、
「見事なまでに濡れているな。太腿までグチョグチョだ」
 純白のショーツに隠された部分から流れる愛液を観測するように、呟く砂影魔。
 マリエルはそれに対し羞恥心に駆られ、歯噛みする。もしいえるなら口汚く罵っただろう。しかし、そんな事をすれば、相手の嗜虐心を煽るだけ。返って喜ばせる事を理解していたから、彼女は羞恥と怒りを堪え、黙っていた。
 サンドエクリプスはマリエルの腰を僅かに引かせ、形のいい丸いお尻を高く掲げさせると、美尻や肉づきのいい太腿を触りだす。
「ぎゃあッ!」
 聖母は初心な少女の如く、それに反応してしまう。散々に胸を責められ、敏感になっている身体は、少し触れられただけで感じてしまうほど敏感になっていた。
「何だ? 小娘みたいな声をだして。その様子じゃ相当我慢しているみたいだな」
 そんな聖母を砂影魔はバカにするように嘲笑った。
「だ、わ、わたしは我慢なんか……」
 聖母が反論しようとするよりも先に、
「いいのか? 胸に集中しなくて」
 砂のブラジャーが一際強く乳房を掴んだ。
「くぅぅ……ふああああッ!」
 鈍い痛みと同時に強い快感が、聖母の神経に叩きつけられる。油断していた事もあって、
「ひぐぅ……ダメ……ダメぇ……い、やあああッ! イキたくなんかないいぃぃッ!」
 抑えていた快楽が溢れだす。聖母は何とかして、その奔流を止めようとするも、溢れだした肉悦の奔流は止まらず、
「……い、い……イクううぅぅ──ッ!」
 聖母は達してしまった。そのショックで母乳が噴きだし、服の中央に空いている十字の隙間から甘いミルクが垂れ流れる。
(そんな……こんな奴に……)
 達してしまった自分に対し、聖母は自分がだした甘い匂いを感じながら、唖然とする。
「もう達してしまったのか? この程度の事も我慢できないとは。情けないな」
「……屈辱ですわ……こんな奴に無理やりに達せられるなんて……」
「何をいっている。これから何度もイクんだぞ? このぐらいで呆けては困る」
 サンドエクリプスは彼女のスカートを捲し上げた。汗と悦液で濡れた下着が冷たい夜の外気に直接曝される。
「意外とシンプルな奴だな。もっとケバイ奴を穿いていると思っていた」
 聖母の局所を守る下着は、ユミエルと同じように純白のショーツであった。成熟した女性にしてはややアンバランスな感じだが、天使の高潔さと潔癖さを考えれば、汚れなき白は相応しいかも知れない。だが、
「あんたにはこんなパンティは似合わねえよ。もっと相応しいのをくれてやろう」
 そういうと、局部周辺に砂をまとわりつかせる。
 砂達の一部は汗と悦液で汚れた下着に張りつき、大陰唇に沿って穴を開けると、砂同士を結合させ、硬くなる。それは一種の貞操帯のようであった。しかし、影魔によって作られた貞操帯は元来の貞操を守る為のものではない。恐るべき陵辱道具に他ならなかった。
 砂のショーツはぎゅうぎゅうにヒップや下半身を締めつけ、内側に回った砂は忙しいほどに動き、豊臀を陵辱。小陰唇を下着の亀裂から外へと引きだし、聖母の性毛やクリトリスを弄ぶ。
(また……また感じちゃう……また、こんな奴にまた達せられてしまう……何とか……何とかしなければ……)
 そうは思いながらも、武器を失い、四肢を束縛この状態でいったい何ができたであろうか。先程とて何もできずに陵辱されてしまったというのに。
「さてと。下準備もできた事だし、本番いくぞ」
 砂影魔は声をかけると、一気に彼女の中へと踏み入った。
(入ってくる……砂が……どんどんわたしの中に入ってくるうぅ……)
 粘つく接合音を奏でながら、砂の性器が彼女の中へと侵入する。
(ふぅ……ふあっ……こ、これはッ!……これはもしかして……!)
 挿入された砂男根に聖母は普通のものではない事にいち早く気づいた。何故ならそれは……
(ぴったり……ぴったりだわ……わたしのと同じ形のものが入れられているうぅ!)
 砂男根はまるで鍵と錠のように彼女の膣と一致していた。
(ダメ、これはダメ……こんなもので責められたら、わたしでも我慢できない……簡単に……簡単にイカされてしまうッ!)
 聖母は挿入されたそれとこれから行なわれる陵辱を想像し、臆してしまう。ただでさえ敏感な身体である。自分の性器とぴったりの性器で陵辱されれば、例え、歴戦の戦士であるマリエルとて、その陵辱に耐えられるものではない。堕とされる恐怖が彼女の心に広がっていく。
「止めてえぇ! こんなもので責められたらわたし……壊れちゃう!」
 責められた時の快楽を想像する余り、マリエルはつい泣きの言葉を吐いてしまう。聖母らしかぬ言葉。しかし、そのぐらい彼女の精神は狼狽していた。
「たかが挿入されただけでもう弱音か? このぐらいの快楽耐えられるものだろう?」
 欲望の影は人の言葉など耳にしない。故にサンドエクリプスは彼女の言葉を無視し、
「そんな情けない天使には容赦はいらんな。最大振動で犯してやろう」
 言葉通り、最大振動で天使の身体を責め始めた。
「ひぎぃぃいいいい!……つよ……強過ぎるうううううぅぅ! ああああぁぁ──ッ!」
 聖母の身体と最高の相性の性器が送り込む圧倒的快楽に、聖母は簡単に昇天する。しかし、そんな事関係ない砂影魔は、振動する砂男根の亀頭部分を、大きく円を描くように動かしだす。
(あああぁッ……そんな風に動かさないでぇ……)
 絶頂したばかりだというのに、欲望の炎は全く止まらない。更なる絶頂、更なる快楽を求め、マリエルの肉穴は砂男根を圧迫し、少しでも多くの快楽を貪ろうとする。
「ぎゅうぎゅうに締めつけやがって。砂のチンポがそんなに気に入ったのか?」
 マリエルの肉穴を貪りながら、サンドエクリプスは話しかける。
「……ふあっ……ひゅっ……くああ……ぐううぅ!」
 だが、それに応じる余裕は彼女にはなかった。肉欲という名の快楽に翻弄され、相手の声はまるで耳に届かない。
「無視しないでもらいたいな」
 砂影魔は口ではそういいながらも、快楽に翻弄されているマリエルを鼻で笑うと、砂男根の形を僅かに変えた。
 亀頭の返し部分に円状に棘を生やし横に回転。また棹に当たる部分に半球状の凸をつけさせ、半球状のそれを前後左右に回転する。
(あああぁ……凄い、凄過ぎるうぅぅぅッ!)
 まるで自分専用にオーダーメイドされたバイブのような砂男根の責めに再び、聖母は絶頂。更にその絶頂の余波なのか、それともただ重なっただけなのか分からないが、豊乳の快楽でも連続して絶頂する。絶頂の連鎖で、ショーツの亀裂から激しく愛液が噴きだし、聖母の足元はまるで失禁したかのように水溜りができた。
「あ、ああぁああ! ふぅん……ふああああぁぁッ!」
 余りの快楽に絶叫する聖母。淫乱な肉体は、サンドエクリプスの責めに飽くなき快楽を求め続ける。
 幾度となく快楽の絶頂に昇り続け、その身を守る真紅の戦闘服は、マリエルが流す恥辱の涙と苦痛の汗、愉悦の母乳、そして陵辱の愛液で汚れていく。
「ら、らめぇ! もう、もうやめてェ! わたひ、これいじょう……イきたくないッ!」
 幾度となく紡がれる絶頂の連鎖に、豊麗で肉感的な身体は弾け、しなやかな美脚の膝ががくがくと痙攣する。
「止めて欲しいのなら、いう事があるのでは? 男が終わるには何が必要だ?」
「うぅ……くぅ……だして……精液をだしてえええぇぇッ!」
「人にお願いする前に一言、必要だろう? お願いしますは?」
 マリエルの口からしたない言葉を宣言するよう要求する。
「くっ、誰が……誰がそんな言葉……」
 快楽の海に溺れていたマリエルだが、卑劣な要求に一瞬だけ理性が戻り、拒絶の言葉を吐こうとする。しかし、
 それを許さないといわんばかりにサンドエクリプスの責めが激しくなる。砂男根の振動や回転が強くなり、乳房がちぎれんばかりに揉まれ、乳首は捻じ切れそうだ。
「ふぅああああッ! ぐぅ、ひぃいいッ!……いいます……いいますから!」
「ふん。それならさっさといえ。お願いします。私のオマンコにたっぷりと射精してくださいってな」
 マリエルは屈辱に歯噛みしながらも、
「お、お願い……お願いします……わ、わたし……わたしの……お……オマンコの……中に……たっぷりと射精してください……」
 たどたどしくも言葉を紡ぐ。
「あ〜? 喋る時ははっきりといえ。たどたどしくて分からん」
 だが、それを許さない砂影魔。聖母の口からはっきりと敗北宣言を言わせたいのだろう。
 マリエルは恥辱と怒りを覚えながらも、
「お願いします! わたしのオマンコの中にたっぷりと射精してください!」
 卑猥で屈辱的な言葉を大声で叫んだ。
「そうか。ならたっぷりとだしてやろうッ!」
 砂男根が膨れ上がり、大量の砂状精液が聖母の膣内へと吐きだされた。
「はあはあ……ふぅう……ううっ」
(こんなのに……汚されるなんて)
 聖母の心に屈辱感が広がる。ぎゅうと硬く拳を握り締める。陵辱されながらも聖母は、天使の力を少しずつだが、回復させていた。しかし、武器は手放され、四肢は束縛されている。回復した力を活かす方法がない。
「ふう、さてと。この程度では満足できてないだろ? 次はもっとハードな奴でいこうか」
 サンドエクリプスは調子に乗りながら、静かに佇む聖母の後ろの穴に挿入した。砂男根は肛門から大腸へ、大腸から小腸へ、小腸から胃へと少しずつ登ってきた。肛門から口へと刺し貫き、内部から責め犯そうという影魔らしい魂胆だ。
(今ならこの程度の束縛……壊す事はできる……しかし!)
 有効な攻撃手段を持たない。それでは駄目だ。再び、囚われ弄ばれるだけ。僅かに残った力を無駄にするだけだ。
(チャンスが……何かチャンスさえあれば……)
 そんな天使の祈りを切なる願いを聞き届けたか如く、
「そのぐらいにしておきなさい」
 一人の女性の声がマリエルとサンドエクリプス二人の耳に届いた。
「誰だ!」
 その声を聞いて、周囲を警戒するサンドエクリプス。
 空高くから、漆黒の羽を舞い散らしながら、その女性は現れた。
 下顎のない鴉の仮面で顔を隠し、腰まで伸びたストレートの髪は黒い絹のように滑らかだ。きめ細かい肌は粉雪のように白く、百七十センチを超えるスレンダーな肉体には、気品のある黒いノースリーブのドレスをまとっている。妖艶な雰囲気を漂わせた、漆黒の淑女という言葉がぴったりの女性。その背中には大きく黒い鴉の翼が生えていた。
「何だ、お前は……こいつの仲間か!」
 一目見ただけでは翼が黒いだけの天使にも見える。しかし……しかし、何かがおかしい。何かが違う。彼女の身体から感じられる力は神聖なものでは決してない。むしろ自分達エクリプスに近い。
「う〜と、ちょっとその質問に答えるのは難しいわね。ただ、彼女に用があるから、悪いけど、そのぐらいにしてもらえないかしら?」
 彼女の言葉を聞きながら、砂影魔は用心深く相手の出方をうかがう。見たところ、自分と同じぐらいの力しか持たない。
「そいつはできない。こいつは……我が主の命令により捕まえた獲物……簡単にくれてやる訳にはいかない。欲しければ力づくで奪え!」
 相手がどのような能力を持つのかは分からない。しかし、折角捕まえた獲物を奪われるのが嫌だったのと、天使の陵辱で興奮していた彼は彼女に喰ってかかった。
 そんなサンドエクリプスに、彼女はやれやれといわんばかりに肩をすくめると、
「しょうがないわね。直接戦うのは性に合わないのだけど……」
 女性は仮面を掴み、それを外した。
 露わになった仮面の下の素顔は、非常に整った彫刻のような顔立ちで、青色のアイシャドウを塗ったその黒い目には深淵のように暗い知性が、紫色の口紅を塗ったその口元には、波のように揺らめく好奇心が浮かんでいた。
 仮面で力を封じ込めていたのか、背中の羽は先程よりも大きくなり、より勇壮な黒翼へと変化。上級エクリプス並みの桁外れな魔力をサンドエクリプスは感じとる。
 女性は外した仮面をふさふさとしたマフラーに変化させ、首に軽く巻きつけると、
「さあ、相手してあげるわ。砂人形さん」
 優雅に科を作りながら、挑発する。
 砂影魔はマリエルの身体から離れ、砂塵となって彼女に襲いかかる。手加減すれば、自分が危ういと思ったのだろう。最初から全力で女性に襲いかかる。
「フロスト・ノヴァ!」
 女性は全身から大量の霧と霜を放ち、迎え撃つ。
 迫りくる霜と霧を前にして、
「ま、まずい!」
 サンドエクリプスはどういう訳か、砂塵であるのを止め、急いで砂を集結させ、人型に戻る。
「あなたの能力も弱点も、悪いけどお見通しよ。サンドエクリプス」
 余裕の口調で女性は喋る。
「砂は燃やそうとも砕こうとも砂のまま。しかし、水に混ぜれば泥。多少なら平気でも、大量の液体……自身の質量を超える量には耐えられない。違うかしら?」
「ぐうぅ……その通りだ……」
 サンドエクリプスは彼女の言葉を悔しがる。何故、この女は初対面である自分の能力と弱点を精確に把握しているのか、不思議で堪らない。
「だが、こうやって集結させ水分を吸収しないよう集結させれば……俺に弱点はない!」
 砂同士を結合させ、身体を金属状にしたサンドエクリプスは、両手を鎌状にし、彼女に襲いかかる。だが、
「とことんバカね。無敵の能力なんかないわよ」
 女性の手にはいつの間にかコンバットショットガン・ベネリM1014が握られていた。
 彼女は照準を定めると、少しのためらいもなく、トリガーを搾った。轟音と共に発射されたライフル・スラッグ弾は簡単にサンドエクリプスを後ろに転倒させる。
「集結したおかげで湿気や液体には強くなったけど、今度は自在に散開できる強みを失っているわ。おまけに人型のせいで強い衝撃を受けると、簡単に転倒してしまう。はっきりいって、弱点だらけなのよ、あなたの能力は」
「ひ、人型じゃなければいい話だ!」
 砂影魔は周囲に漂う霧に注意しながら、形を変えようとする。しかし、
「それをさせて上げると思っているの?」
 周囲に漂う霧のせいで、サンドエクリプスの変身能力は通常時より格段に遅かった。
「チリング・ブリザード!」
 女性の黒翼が大きく羽ばたくと、霜と霧をまとった気流がサンドエクリプスを包み込み、渦巻いていく。気流は少しずつ勢いを増し、極寒の竜巻へと変化した。
「ぐ、ぐがああああッ!」
 極寒の竜巻は砂の身体を凍りつかせていく。元より、能力を解析されていた時点で、彼に勝ち目はなかった。所詮、彼は下級エクリプスであった。どこまでいっても単純な能力しか使えない。マリエルに勝てたのだって、彼女がウルフヘジンエクリプスとの戦い、ケガを負ったせいだ。もし普通の状態でやりあえば、洞察力に優れた彼女なら簡単に能力を解析して液体が弱点だと判断し、貯水タンクを破壊するなり、何なりで対処していただろう。
(今だ!)
 四枚の赤い翼を広げ、マリエルは回復した力を全身から放出。サンドエクリプスからの束縛を強引に吹き飛ばすと、凍りついたサンドエクリプスに向かって飛翔。
「砕けなさい!」
 全力を込めて砂影魔を殴った。凍てついていたサンドエクリプスに無数の亀裂が生じ、粉々に砕け散る。
「ふむ。じゃあ止めを刺しておきましょうね」
 女性はそういうと、パチンと指を鳴らす。すると、二人に向かって雨が降り、サンドエクリプスの残骸である氷の破片は、氷水となって下水道へ流れていった。
「あ、あなたはいったい……」
 マリエルは全身を雨に打たれながら、女性に尋ねる。
 女性はクスリと笑みを浮かべると、
「どうも初めまして。羽連真理さん」
 彼女は初対面であるにも関わらず、マリエルの本名を喋ってきた。
「何故、何故わたしの名を?」
 本名で呼ばれ、驚愕するマリエルに追い討ちするかのように、
「おっと、その姿だから、光翼天使マリエルといった方がよかったかしら? それとも影の聖母? どっちで呼べばいいかしら? 法王庁滅魔省特務『イバラの姉妹』所属・退魔シスター羽連真理さん」
 そうつけ加えた。
 驚き言葉を失うマリエル。何故、自分の正体がばれているのか? 
その様子をおかしそうに見つめる女性。
 聖母はごくりと音を立てて唾を飲み込むと、精神的圧力に押し潰されないよう呼吸を整え、
「どちらでもいいですわ。それより……あなたはいったい、何者なのかしら? 何故、わたしを助けたの?」
 自分の正体を知っていた事は不思議だが、優先すべきは、この女性が敵か味方かだ。
「私はクレーエエクリプス。仮面を外したこの姿の時は、ラーベエクリプスとも名乗っているわ」
 クレーエエクリプスは簡単に自己紹介をする。
(やはり、エクリプス……しかし、それならどうして……?)
 エクリプスと天使は敵同士。なのに、彼女は自分を助けた。いったい、何故? 彼女の疑問は深まるばかりだ。
「いっておくけど、私は敵じゃないからね」
 マリエルが自分に警戒しているのを察しているのか、クレーエエクリプスは警戒心を緩めようと、そう告げる。
「その証拠はなくてよ」
 クレーエが手にしている銃に意識を向けながら、聖母は答える。見たところ、確かにトリガーに指はかかってはいない。
「物証的なものは、ね。でも、状況証拠でいいのならあるわよ」
 少しでも警戒心を解く為にか、彼女は手にしている銃を影の中へと沈めた。
「例えば?」
 聖母は彼女に言葉に耳を向けながら、地面に突き刺さっている聖槍に近づき、引き抜く。
「私があなたの窮地を助けたという事実よ」
 クレーエは簡潔に述べた。確かにサンドエクリプスに陵辱されているところを、彼女に助けてもらったのは事実だ。しかし……
(でも、だからといって、安易にエクリプスを信じる事はできないわね)
 人格が多く残っているエクリプス。上位になればなるほど、その知恵を用いて、人を騙す。安易に信じるのは危険だ。
「あなたはわたしの事をよく知っているみたいだけど、あなたは何者なの?『イバラの姉妹』を知っているみたいだけど……」
 また信じられないからといって、安易に敵だと判断するほど、マリエルは愚かではない。とりあえず、警戒しながら、ゆっくりと腹を探る。
「私も『イバラの姉妹』から送られてきた人間よ。日本では時告華羅子と名乗っているわね」
 日本では、という事は他の名前を持っているのかと、マリエルは顔を僅かにしかめるも、
「時告……もしかして、先に組織が派遣したというカップルの……?」
 その名前には覚えがあった。
「そう。その片割れよ。私達は以前から正式にこの市に派遣されるのが決まっていたわ。いきなり、割り込んできたあなた達と違ってね」
 含みを込めながら、彼女は喋る。
(やはり、一声かけるべきだったかしら?)
 正式に会議で決まったにも関わらず、それを無視して急遽介入してきた自分達にいい思いを抱いていないのだろう。含みを込められたニュアンスをそう受けとったマリエル。それと同時に、
(しかし、組織の中に影魔がいるなんて……やっぱりもう一人もエクリプスなのかしら?)
『イバラの姉妹』の中にエクリプスが入り込んでいる事に驚き、組織のエージェントがいった不安の正体について、なるほどと考える。送り込む相手がエクリプスでは不安にもなるはずだ。
「でも、喋ってよかったのかしら? 自分の正体がエクリプスだという事を」
 マリエルは唾をゆっくりと飲み込みながら尋ねる。欲望の象徴である影魔である事がばれれば、組織は許さないはずだ。
「別に問題ないわよ。もうばれている事だから」
 それに対し、平然と語るクレーエ。
「いったい、どういう事かしら? 組織が影魔と手を結ぶなんてありえないわ!」
 少しだけ、むきになるマリエル。人々を守るべき組織が公然と影魔を見逃すなど信じられないからだ。
「確かに普通ならね。ところが私と教会は古くからちょっとした関係があってね。特に『イバラの姉妹』は、組織創設時にとある経緯があるの。だから組織に所属しているのよ」
 クレーエは抽象的な言葉で説明をする。いったい、どんな関係を持ち、どんな経緯があったのかを具体的に説明しない。その為……
「あなた……いったい、何者なの?」
 マリエルは三度、同じ質問をしてしまう。それに対し、
「まあまあ。私の正体なんかより、もっと心配なものがあるでしょう? ユミエルちゃんはどうでもいいのかしら?」
 クレーエは笑顔で聖母の質問を誤魔化し、話を摩り替える。
「ユミエルがどうなったのか、知っているの?」
 愛娘の名前をだされ、マリエルはついその話に乗ってしまう。
「ええ。今、私の家にいるわよ。とりあえず、無事みたいだから安心しなさい」
 クレーエは簡単に答える。
(本当かしら? 本当ならいいのだけど……)
 嘘をついているようではないが、事実確認していない為、聖母は何ともいえない気持ちになる。
「じゃあ、これ以上の立ち話は何だし、私の家にきてくれるかしら? これからの事とか色々と話さなきゃいけないでしょうからね」
 クレーエが誘ってきた。
「ええ。そうですわね。わたしの方も色々と聞きたい事がありますし」
 ユミエルが本当に無事かどうかを確かめられるし、今後の事──この市を脅かしている影魔についても相談したい。故にその誘いにマリエルは乗った。
「そう。じゃあ決まりね」
二人は翼を広げると、地面を蹴り、飛び上がり、赤と黒の羽根を撒き散らしながら、眠りについている街の上空を飛んでいく。


 マンション近くまできた二人は、人気のないところに着地すると変身を解除。羽連真理と時告華羅子に戻る。
 エントランスホールからロビーに抜け、エレベーターに乗り込む。
 時告がボタンの鍵を差し込むのを見て、
「嫌に厳重なセキュリティーね」
 話しかける。自動ロック式のドアに、鍵がなければ階に止まらないエレベーター。警戒心の強さを彼女は感じとる。
「まあね」
 それを軽く流す時告。
 エレベーターを降りた二人は、廊下を進み、部屋の前までくる。
「お邪魔します」
 真理は律儀に一言挨拶すると、中へ入った。
「こっちよ。寝ているから、静かにね」
 時告は口元に人差し指を一本立てて、ジェスチャーしながらいうと、彼女を鈴の部屋へと案内する。
 大きめのベッドで、誰かと一緒に眠っている悠美を見て、
(本当に無事だったのね。よかったわ)
 真理はほっと息をつき、寝ている悠美の頭に手を伸ばす。起こさぬよう優しく髪を撫でていると、
「……じゃあ、いいかしら?」
 時告が小声で話しかけてきた。真理は無言でうなずくと、名残惜しむようにゆっくりと彼女の頭から手を離す。
 二人はそっと部屋からでて、静かにドアを閉めると、リビングのテーブルに着く。
「悠美と一緒に寝ていた娘……あの娘は……?」
 確か時告華羅子のパートナーは男性だと聞いていた。一緒に寝ている少女の情報を真理は知らない。
「あの娘は、私が後見人として預かっている娘よ。名前は羽張鈴。悠美ちゃんから何か聞いていない?」
(あの娘が……)
 その名前に聞き覚えはあった。同じ日に転入してきたと話してくれた娘であり、最近の会話でたびたび名前が上がった娘だ。
「いいえ。その名前は聞いているわね。でも、どうして、あなたの名前は上がらなかったのかしら?」
 真理は不思議に思い、首を傾げた。
「多分、私に引きとられた事に対して、遠慮したのよ。余り人にいうものじゃないからね」
 悠美をフォローする時告。恐らくその通りだろう。
「それより、本題に入りましょう」
 二人はテーブルに着くと、本題に入った。
「では、まず一つ。この市にいる影魔について。あの影魔……サンドエクリプスに私を連れてこいと命じたのがいるみたいだけど、何か心当たりは存じませんか?」
 悠美と同じように、オメガエクリプスが生存しているのではと考え、今回の元凶ではと考えた。
「分かっているわよ。どこに潜伏しているのかも、相手が誰で、どういう能力を持っているのかも」
 時告は答えた。
「それって……もしかして……」
 元凶はオメガエクリプスでは、といおうとした真理の言葉を制して、
「今回の元凶は影魔王オメガエクリプスじゃないわよ」
 彼女はそう口にすると、
「今回の元凶はその部下。名前はディアブロエクリプス。中世のヨーロッパにおいて、三大副王の一人に数えられた影魔よ」
 元凶について語りだす。
「かつてアルファエクリプスがヨーロッパにいた際、強大な力を持つエクリプス達を自分の配下にし、組織を形成していた。副王はその名前の通り、アルファエクリプスによって王に次ぐ魔力と権力を与えられ、アルファエクリプスの補佐を任務としていたわ。三大副王と呼ばれたのは、副王の称号を持つのが当時三人しかいなかったから。破壊の副王バールエクリプスを筆頭に、憎悪の副王メフィストエクリプス、恐怖の副王ディアブロエクリプスと続いていたわ。バールエクリプスとメフィストエクリプスは倒され、もうこの世にはいない。ディアブロエクリプスは最後の副王よ」
 長々とした説明を黙って聞き続ける真理。
「どうして、それがここに……?」
「どうやら明治時代頃に流れてきたみたいね。あなた達天使に見つからないように、その姿を彫像に変え、美術品の一つとして、この国まできたのよ。そして、この国にきたあとも、直接的な活動は控え、現代に至るまでその力を蓄え続けた。そして現在。オメガエクリプス誕生の影響を受けて隠遁を止め、活動を開始している。だから、この市で影魔達の活動が活発化しているのよ」
 真理は音を立てて唾を飲み込む。そのような実力者が今までずっと隠れ潜んでいたとは。
「それで……ディアブロエクリプスはどのような能力を持つのかしら?」
「恐怖の副王が示す通り、人の恐怖を力の糧としているわ。また強制的に恐怖を与え、精神崩壊させたり、戦闘不能にしてくる。かなり手強い相手よ」
 恐怖という原始的本能を武器にし、更に強制的に恐怖を与えるとは。容易ならない相手だと、マリエルは心の中で唸った。
「それでは次に。あなたのパートナーの方はどのような方で? 今どうしてるのですか?」
 その質問に時告は顔を僅かにしかめ、
「え〜と余りいいたくないのだけど……大上京郎は私と同じエクリプスよ。う〜ん……やっぱり、エクリプス時の名前もいわなければ駄目かしら?」
 今まで快活に喋ってきたのとは裏腹に口渋る。
「ええ。お願いするわ」
 そんな彼女に違和感を覚えながらも、真理は話を促す。
「じゃあ、聞いても怒らないでね……」
 時告は再度、念を押すと、
「彼は……大上京郎はエクリプス時、ウルフヘジンエクリプスと名乗っているわ」
「ウルフヘジンエクリプス!」
 先程まで戦っていた敵の名前がでてきた事に真理は驚き、声を上げた。
「何故、その名前が……彼はいったい何者なの? 何故、私を狙うのかしら?」
 それともあなたの差し金かしらと続けようとしたが、流石にそれは口はばかる。
 時告はやれやれと肩をすくめると、
「何者って……表向きは私の部下よ。まあ、あくまでも表向きはだけど」
 五年前、一人で影魔狩りを実行していたウルフヘジンエクリプスに、利害関係上から取引を持ちだし、スカウトしたのだと彼女は説明する。『イバラの姉妹』にも属しているが、あくまでも彼は時告の私兵的なものに過ぎず、宗教関係者ではないと。
「しかし……本当に彼を覚えていないの?」
 そこまで説明すると、彼女は首を傾げるように、真理に尋ねた。
「ええ……」
 真理は気恥ずかしげにうなずく。
「彼は影魔の被害者よ」
 時告は鋭くいうと説明する。今から十五年前。彼の家族は影魔に襲われ、そこをマリエルに助けられた、と。
「ここまでならよくある話ね。肝心なのはこのあとよ。助けられてから十年後。彼は再び影魔に襲われたのよ」
 時告はたんたんと肝心な部分のみを説明する。
「…………」
 それを聞いて、マリエルは驚きに目を大きくしたあと、うつむいた。その頃、彼女は影魔王オメガエクリプスを妊娠し、影の聖母として囚われていた時期。自分が至らないばかりに、彼に二度も不幸が訪れたのかと、良心の呵責を受ける。
「まあ、彼は別に助けてくれなかった事を恨んでいる訳じゃないわよ」
 時告はそんな彼女に慰めるように言葉をかける。
「では、いったい、何に……?」
「あなたが彼の……エクリプス化しかけていた彼の中からエクリプスに関わる記憶を消し、エクリプスとしての力を封印した事よ」
 彼女は説明する。
「彼はあなたに対してこういっていたわね。『あの羽根つきは俺に三つのものをくれやがった。無知、無能、無力。俺が最も嫌うものだ!』ってね。記憶を消し、力を封印した事を相当に恨んでいるわ」
 時告は軽く肩をすくめると、
「話の筋はこんなところよ。影魔に家族を殺され、あなたに助けてもらった。けど、影魔と関わり、彼自身も影魔に成りかけていた事から、影魔に関わる記憶と影魔自身をあなたに封印された。そして、十年後、彼は再び影魔に襲われた。その際に……」
 彼女は咳払いし、でかけた言葉を飲み込むと、
「……もしあなたに力を封印されていなければ、どうにかできた。でも、封印されていたから、何もできなかった。だから、彼はあなたを恨んでいるってところよ」
 ウルフヘジンエクリプスがマリエルを狙う理由を説明した。
「まあ、あなたを弁護しようと思えば簡単にできるけど。あなたが天使であり、彼は成りかけとはいえ影魔だった。だから、放置するわけにはいかなかった。そんなところかしら? それはさておき、私は今回、あなた達がくる事を彼には知らせなかった。教えれば、彼は殺しにいくでしょうからね。簡単に組織から援護だと説明しておいたけど。正体の事は喋らなかったわ……しかし、無駄だったようね」
 影魔を狩るもの同士、否が応でも出会ってしまう事は避けられなかったのだ。
 真理は両手で頭を抱え込む。自分のしてきた過去の行いとそれが生みだした負の結果について思い悩ませる。
 確かに彼女は長い間、影魔と戦い続けてきた。故に幾度となく、影魔に家族や恋人……大切な人間を失った人間を見てきた。そのたびに被害者達に何ともいえない気持ちを抱いてきた。
 結局のところ、天使の力では被害者達を本当の意味で救済する事はできない。絶望に沈む被害者達の中から、苦痛の記憶を消す事でしか対応する事ができない。そんな自分が情けなくて、どうしようもない。
 そして、今回。それらの負を象徴するが如く、ウルフヘジンエクリプスが現れた。自分のしてきた事は本当に正しかったのだろうかと真理は考え込む。そして、どうすれば彼に対し、償う事ができるのかも。
「間違っても黙って殺される道なんか選んでは駄目よ。それをすれば、今度は悠美ちゃんが彼を仇にするだろうからね」
 そんな聖母に一声かける時告。思い余って変な事をしないようにと、軽口ながらも忠告する。
「ええ。分かっていますわ」
 黙って殺されるほど、聖母を愚かではない。自分が死ねば、結果的に自分の大切な人間が傷つく事を分かっている。故にそのような愚考は間違ってもしない。だからこそ、どうすればいいのか、分からないのだ。
「気をかけてくださって、ありがとうございます」
 真理は気をかけてくれた事に礼をいう。
「これは何も彼とあなただけの問題じゃないわ。あなたが彼に殺されれば、その責任は私も少なからずとも負う事になる。あなたは一応は教会関係者であり、組織の一員だからね」
 更に続けて、本当なら彼女は、彼に協力する義務があった事を告げる。最初に結んだ契約内容に、彼が敵と戦う際、それに協力するとし、マリエルの件においても、全面的に協力する事を約束していた、と。
 その事を聞いて、
「では何故、約束を反故に?」
「契約を結んだ時……あなたが影の聖母としてオメガエクリプスを妊娠していた時と今とでは情勢が違うからよ。影魔王が誕生するまでならそれでもよかった。あなた事オメガエクリプスを倒せれば。しかし、誕生してしまった今となっては、貴重な人類側の戦力を失わせるだけ。だからよ。私があなたを助けたのは」
 天使親娘とウルフヘジンエクリプスの戦いを考慮し、(彼に)バックアップと称し、鈴を連れて、遠くで三人の戦いを見学していた事を告げる。
「この事はウルフヘジンには内緒よ」
 時告は軽くウィンクをしながらいう。
 ユミエルへの救援も、マリエルの救援も偶然ではなく、彼女の采配……つまり、必然なものだったのだ。
「さて今日はもう遅いから、この辺で休む事にしましょう。本格的な打ち合わせをするには、悠美ちゃんも交えた方がいいでしょうし……それに……」
 少しいいだし難そうに、
「彼の事もあるしね。多分、もうすぐ帰ってくるだろうから、あとの事は明日にしましょう」
 そういって、話を切った。

 

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