童話の守人

幕間・6 〜Border〜

ついでに、どうでもいい話をしよう。


今から十二年前のある日の地方紙、その片隅にこんな記事が載っていた。

『女子児童二人、遠足中に一時行方不明に』

 事件の顛末はこうだ。
 その日、偶然同じ山に二つの小学校が遠足に訪れていた。どちらの学校も決められた安全なコースを歩き、お昼ご飯を食べて帰ってくるだけの予定だった。何事もなく山道をハイキングし、二校は別々の場所で昼食を取った。
 ところがいざ帰路に着こうとしていたとき、お互いの学校に姿の見えない児童が一人ずついることがわかった。
 教師たちは動転し慌てて探すが見つからない。通報を受けた警察も到着し、範囲を広げて捜索が行われたが日没になっても二人は見つからなかった。
 今日の捜索は一時打ち切るしかない――その判断が下された直後、行方不明になっていたうちの一人がひょっこりと姿を現したから、処分を覚悟していた教師たちは手を合わせて神に感謝したことだろう。
 女児の証言でもう一人の行方不明女児としばらく共に行動していたことが判明、急遽捜索を再開した警察によってそちらも無事に保護された。
 ただし、この二人の女児には発見時に大きな違いがあった。最初に保護された少女はいささか疲労していたもののほぼ無傷だったのに対し、もう一人は激しい『乱暴』の痕跡が見受けられたのだ。 
 警察は女児の母親との相談の末、このことは伏せ公表することはなかった。マスコミは意地汚く嗅ぎつけたが、それも一週間と経たずに日々発生する大小の事件に埋もれて忘れられていった。
 空白の数時間に何があったのか。
 児童たちには警察からの取調べもあったが、如何せん相手はまだ論理的に話すことさえできない子供。初めに見つかった女児からは、二人は森の中で何かに追われていたらしいことが聞き出せたが、あとは子供らしい空想と現実の混ざった話ばかりでとても参考になるものではなかった。
 そしてもう一人の方は何を聞いても一言も喋らない有様。それが山の動物などによるものなのか、あるいは人間の仕業によるものなのかも判然としなかった。
 最終的に暴行のことはうやむやにされ、『二人の児童は教師が眼を放した隙に山中へ分け入り、野生の動物に追われて逃走中に道に迷った』ものとして結論付けられた。


新聞には行方不明になった二人の名前までは記されていない。


 ――ただ、この日を境に。

 一人の少女が突然に童話作家を目指すようになり。

 一人の少女は無意識に異形に憬れるようになった。

 


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